ある心理学の研究によって、偽造品を身につけるとより悪い人間になることが明らかにされている。言い換えると、偽造品を身につけることで一般的なモラルが低下するというものだ。
この研究は何年も前に行われたものだが、事例の面白さからか、今でも時々メディアで取り上げられる。米国の行動経済学者であるダン・アリエリーは、著書「The (Honest) Truth about Dishonesty:嘘とごまかしの行動経済学」で、「正直であるか不誠実であるかは、多くの場合、内なる信念によってではなく、外部の影響によって決まる」と述べている。
アリエリーは、人にとってステータスがとても重要であり、自身も粋なデザイナーズ・ブランドの服を着ることで気分が良くなることを経験していた。そして、その逆もまた正しいことを実証すべくテストで検証した。
アリエリーは、テストの意図を隠して被験者たちにクロエのサングラスをかけてもらうことにした。被験者の3分の1は非常に高価な本物のクロエのサングラスをかけていると伝え、3分の1は偽物のサングラスをかけると伝え、残りの3分の1はそのメガネについてまったく何も知らされないままで、テストが始まった。
テストは、一連の計算を行い何回間違えたかを報告するというもので、テストの監督者は計算結果を見ることができないため、被験者は誰にも気づかれずにミスの数を偽って報告することができる。
その結果、本物のクロエを付けていると思った被験者グループは、平均して自分のミスについてより正直であることが判明した。しかし、偽物のクロエをかけた被験者グループは、平均よりもはるかに多くの嘘をついていた。また、追跡調査で、偽物をかけている人は他人をより疑い深く、他人を嘘つきや詐欺師だと思う傾向があることが示された。
「一旦、偽物を身につけると、道徳的な強制力がある程度緩和され、不正の道をさらに進みやすくなる」というのが、アリエリーのちょっと劇的な結論である。
さて、この話の教訓は何だろうか。商標法はブランドオーナーの利益にしかならないと思われがちである。しかし、この研究は、商標法が社会にも大きな利益をもたらすことを示している。そして、私たち自身のためにもなる。それが、私たちをより良い人間にしてくれるからだ。