出願人の過誤を積極的に救済し、権利獲得の機会を最大限保障するための特許・商標・デザイン法改正案が国会を通過し、公布され、2022年4月20日から施行される。本改正法によると、拒絶決定不服審判の請求期限を従来の30日から3カ月に延長して期間延長の負担を軽減するとともに出願の権利回復要件が緩和され、特許における分離出願の導入は審判段階以降において権利を獲得することのできる機会を拡大し、さらに分割出願における優先権主張を自動的に認める等の制度改善は手続の簡素化と出願人の便宜向上に大きく寄与するものと期待される。具体的な改正内容は以下のとおり。なお、実用新案法は特許法附則改正により特許法の改正事項が全てそのまま適用される。
1. 拒絶決定等に対する審判請求期間(再審査請求期間)の延長等
① [特許/商標/デザイン] 拒絶決定等に対する審判請求(再審査請求)期間を30日から3カ月に延長
* 十分な準備期間の提供および不要な期間延長の最小化
* 拒絶決定謄本の送達を受けた日から3カ月以内に請求が可能で、在外者の場合は30日ずつ2回の期間延長が可能
* 本法施行以後、拒絶決定書の謄本の送達を受けた出願から適用
② [特許] 特許決定された件に対しても、再審査請求が可能なように対象を拡大
* 拒絶決定だけでなく、登録決定後にも補正機会を提供
* 特許決定謄本の送達を受けた日から設定登録を受ける前まで再審査請求が可能
* 本法施行以後、特許決定書の謄本の送達を受けた特許出願から適用
2. [特許/商標/デザイン] 分割出願の優先権主張の自動認定
* 優先権主張の欠落により拒絶される事例を防止(優先権主張が漏れた分割特許出願は、最近5年間で年平均137件)
* 原出願で優先権主張が適法に行われた場合、分割出願は優先権主張をしなくとも 自動で優先権を認定
* 本法施行後に出願した分割出願から適用
3. [特許/商標/デザイン] 出願人の権利回復要件の緩和
* 手続無効や 登録料等の未納によって、または、審査請求および再審査請求期間の徒過(特許のみ該当)によって権利が消滅した場合、権利回復要件として求められている「責めに帰することができない事由」を「正当な事由」へと緩和
* (特許庁によれば)持病による入院、手数料自動振込のエラー、特許顧客相談センターの誤案内等も、正当な事由と認定
* その理由が消滅した日から2カ月以内に、補正命令を受けた者の請求により、その無効処分を取り消すことができる。本法施行前に正当な理由により該当する期間を遵守せずに権利が消滅した場合は、本法施行当時に、その事由が消滅した日から2カ月が過ぎていない場合にも適用。ただし指定された期間の満了日から1年が過ぎたときは、この限りではない。
4. [特許/商標/デザイン]権利移転に伴う共有者の保護:通常実施(使用)権の付与
* 共有の特許権等を分割請求(競売)した場合、持分を喪失することとなった残りの共有者に通常実施(使用)権を付与して継続中の事業を保護
* 競売等によって他人に商標権が移転しても、その商標権者が質権設定前に指定商品について当該登録商標を使用している場合には、通常使用権を付与(現行特許法およびデザイン保護法と同一)
* 本法施行以後、共有の特許権等の分割を請求した場合、または、商標権を目的に質権が設定された場合から適用
* 商標法については、特許法およびデザイン保護法とは異なり、質権による権利移転に伴う商標権者保護関連規定が別途存在していなかったところ、該当規定を新設
5. [特許] 分離出願の導入(特許法第52条の2の新設)
* 一部請求項が特許可能であったとしても、不服審判において1つの請求項でも拒絶が維持されれば出願全体が拒絶されるため、予備的分割出願をする場合が多い
* 拒絶決定不服審判の棄却審決(拒絶決定維持)の後、審査段階で拒絶されていない請求項のみを分離して出願可能にし、審判段階以後も権利獲得の機会を付与
* 分離出願は分割出願とは異なり出願時期や範囲等に制限を設けており、分割出願と比較すると、以下のとおり。
* 本法施行後に拒絶不服審判が請求された件に対して適用
6. [商標/デザイン] 職権再審査制度の導入
* 登録決定以後、審査官が明白な瑕疵を発見した場合、職権で再審査を可能にし、無効事由がある不実の権利の発生を事前に防ぐ
* 特許法にはすでに明文化されていたが商標法/デザイン保護法にはなかった規定で、今回新設される
7. [デザイン] 法人清算に伴う権利消滅時点の明文化
* 清算手続きが進行中である法人のデザイン権は法人の清算終結登記日までそのデザイン権の移転登録をしない場合、清算終結登記日の次の日に消滅するようにする
* 特許法および商標法にはすでに明文化されていたがデザイン保護法にはなかった規定で、今回新設される
以上の上記改正事項のうち、日本の出願人にとっては、1、2、5の改正が主に関連すると思われる。1は、拒絶査定に対する対応期間が3カ月である日本に比べて韓国は30日と短かったため、対応を急がされたり期間延長が必要であったりした従来の煩わしさが大幅に改善されると期待される。2は、分割出願時に優先権主張を別途に行わなくても済むため、提出書式が簡素化される。5は、予備的分割出願をせずに不服審判のみ請求して争ってから棄却された場合、拒絶されていない請求項のみを分離して分離出願として権利化を可能とするものである。ただし分離出願には時期や内容に制限があるため、その活用の可能性についてはもうしばらく見守る必要があると思われる。一方、3の要件である「正当な事由」に関連し、特許庁は上述の例示事項に基づいて具体的な基準を定めていくと見られるが、代理人の報告欠落等といった代理人のミスが事由として認められるかは、現状、決まっていない。