「very」、「most」、「like」などの一般的な用語は、通常、商標登録に必要な識別力を欠くと考えられてる。「so」を使った2つの商標の混同の虞を認めた最近のEU一般裁判所の判決は注目に値すると、Florence Chapinが解説する。
2022年3月、欧州一般裁判所は、フランスの大手化粧品会社ロレアルが出願した商標に対してDebonair Trading Internacional(以下、Debonair)が申し立てたの異議に関するロレアル 対 EUIPO(欧州連合知的財産庁)事件で判決を言い渡した。この事件は、ロレアルの化粧品(第3類)「So Couture」のEU商標(EUTM)出願に対し、Debonairが香水(第3類)を指定した先行商標「SO…?」を根拠に異議を申立てたことから始まった。
EUIPOの第2審判部は、少なくともEU域内の英語圏およびフランス語圏の公衆にとって、この2つの商標の間に混同が生じる虞があるとの判断を示した。
一般裁判所は、混同の虞をもたらす要因について詳細な論拠を採用した。例えば、「so」は先行商標の支配的で本質的に識別力がある要素であるが、「so」はロレアル商標の最初の要素でもあり、消費者は商標の末尾よりも冒頭に注意を払うというものだ。
「SO…」に識別力があるか?
この事件で最も興味深かったのは、混同の虞があると結論づけるために2つの商標の比較で用いられたのが、識別力と要部を分離することである。
一般裁判所が指摘したのは、先行商標が「so」の文字の後に「3つの点(…)」と疑問符「?」が付いた文字商標であり、争われたロレアルの出願商標は「so」の要素に「couture」の文字が続くものであったことだ。審判部は、これらの商標の間には少なくとも中程度の外観的類似性があり、称呼的類似性は高々中程度で、観念的には先行商標は指定商品との関係で特定の意味を持たず、「couture」の語はフランス語でオートクチュール(高級婦人服)や贅沢品を指すとの認識を示した。
審判部は、「so」という要素は、異なる意味を持ちうる一般的な英単語であるが、他の文脈がなければ、おそらく導入部、フレーズの冒頭、ある種のサスペンスを生み出す疑問などと認識されるだろうとし、「so」という単語は、指定商品の特徴や品質を示唆するものではなく、化粧品や香水にとって本質的に普通の識別力を有するとの判断した。
一般裁判所は、同様の事件で消費者は一般的に商標の末尾よりも冒頭に注意を払うと想定されるとした欧州連合司法裁判所(CJEU)の判決(Groupe Léa Nature 対 EUIPO)を引用し、「3つの点」と疑問符は単一の単語要素である「so」との関係では無視できると判示した。
結論として、審判部は、単語要素「so」が先行商標の支配的で本質的に識別力のある要素であるとの考えを示し、「3つの点」の要素が最も顕著で特徴的であるというロレアルの主張を支持しなかった。したがって、商品の商業的出所を示し、消費者が混同の虞なく、問題の商品を別の出所を持つ商品と区別できるようにするのは、要素「so」であるとした。
「couture」という要素について、裁判所は、審判部がこの要素が重要でないと指摘したのではなく、単に補完的であり、実質的には指定商品との関係で弱い識別力を有すると考えたに過ぎないとした。裁判所は、「couture」が一つの形容詞としてではなく、関連する公衆、特にEU圏内の英語及びフランス語を話す消費者にも、高品質と同義の流行の物を指すものとして理解される可能性があり、したがって、関連する公衆の一部に関しては、「couture」は称賛的な言葉であり、指定商品に対してほとんど識別力を持たないとの認識を示した。
裁判所は、限られた文字数で、先行商標の最初の要素「so」は、ロレアル商標の最初の要素でもあり、消費者は一般的に商標の最後の要素よりも最初の要素に注意を払うため、その要部の特徴が強化されると指摘し、EUの英語圏とフランス語圏の消費者にとって、両商標は少なくとも中程度の外観的類似性を持つという審判部の判断を支持した。
審判部と一般裁判所が、混同の虞があると結論づけるために「so」の単語を分離した理由は、実に驚くべきものである。このような理由は、フランス企業のGroupe Léa Natureの商標「So Bio Etic」に関する事件(係争中)で用いられた理由と一致している。「So」の要素が強調されているのは、Debonairが「So」の商標ファミリーを所有していることにも起因しており、このことは判決でも繰り返し言及されている。
さらに、ロレアルの「So Couture」商標は2013年10月3日に出願され、Debonairも商標「So…? Couture」を2014年10月2日に出願した(現在、ロレアルが異議申立中)。
結論として、留意すべき点は、審判部と裁判所の判断が、「so」、「very」、「most」、「like」などの一般的な単語には識別力がないとみなす傾向があるEUIPOの商標審査における実務と矛盾しているという点だ。
本文は こちら (So… distinctive: EU General Court deals blow to L’Oréal in trademark opposition proceedings)