2022-07-19

EU:認められなかった「Think Different」商標の使用証拠 - Novagraaf

 6月8日、欧州の第一審裁判所は、米国のアップル社(Apple Inc.)とスイスの時計会社スウォッチ社(Swatch AG)という有名企業2社の間で5年以上にわたって続いてきた争いに判決を下した。Carole Rogerが解説する。

 1997年、アップル社は象徴的な広告キャンペーン「Think Different」(2002年まで使用)を開始し、アルバート・アインシュタイン、ボブ・ディラン、マーティン・ルーサー・キング、ジョン・レノン、モハメド・アリ、マリア・カラス、パブロ・ピカソ、マハトマ・ガンジーなど多くの著名人を白黒で起用した(ビデオは こちら:Apple – Think Different – Full Version)。

 「Think Different」のスローガンは、アップル社によって1997年(出願番号:671321)、1998年(出願番号:845461)、2005年(出願番号:4415063)にEUIPO(欧州連合知的財産庁)に9類を指定して商標出願された。2016年10月、スウォッチ社は「Tick Different」広告キャンペーンを開始するにあたって、アップル社の3件の「Think Different」商標の取消を申請した。その後、両社の争いはポルトガル、チェコ、イスラエル、アルバニア、モルドバ、スイス、アイスランド、ルーマニアなどに展開した。

商標権についての真正な使用の立証
 アップル社は使用証明に以下の証拠を提出した。

* 法務部長の証人陳述で、広告キャンペーンを始めた経緯や経過状況、1994年から2016年までのキャンペーンで受賞した賞、広告費、販売台数が報告され、陳述書には日付の入っていない写真、「iMac」パッケージのラベルが添付されていた。
* ウェブサイト(macrumors.com)上の記事及びForbes(2012-2015)、The Telegraph (2012)、Time (2015)に掲載されたアップル社関連の雑誌記事
* 広告キャンペーンそのものに関する1998年から2011年までの記事(Wall Street Journal、Forbes、Advertising Age)
* 1998年に発行された書籍「The Year of Thinking Different」が獲得した賞と写真
* 1997年から2016年にかけて発行された広告キャンペーンに関する多くの記事及びブロードウェイミュージカル「Nerds, A Musical Dot-Comedy」を含むパロディー
* 日付付き年次報告書(2009年、2010年、2013年、2015年)

 2018年8月、EUIPOの取消部門は3件の「Think Different」商標の取消を認めた。アップル社は審判請求したが却下され、欧州裁判所に上訴したが、これ以上の成果は得られなかった。

欧州裁判所の判決:使用証拠に関する問題
 欧州第一審裁判所は、目的は審判部による決定の適法性を審理することであり、使用証拠が事件を再評価する目的で提出されたとしても、新しい要因を審理することはないとして、6月8日の判決では提出された新しい証拠を退けた(cf. 2018年2月27日の判決:Graberg 対 EUIPO)。

 そして、取消の対象となる期間(取消申請前の5年間、すなわち2011年10月14日から2016年10月13日まで)について、証拠が正しく評価されていたことを確認するために、証拠の再評価が行われた。

欧州裁判所の判決:真正な使用の評価
 欧州裁判所が言及したように、真正な使用の評価は、事案のすべての要素を考慮した総合的な評価に基づいて行われなければならず、具体的かつ客観的な方法で実証されなければならない。その評価においては以下の点が指摘された。

* 関連する公衆と提供された写真/ラベル:この種の製品に関係する消費者の注目度が高いことは認められるが、提供されたラベルは、ブランド名を、パッケージの目立たないスペース、つまりバーコードの横で、長い技術仕様の後ろの一箇所にだけ示されていた。関連する消費者でさえ、包装をそれほどじっくり見ることはないのだから、これらの要素は、その大きさと位置から真正な使用を立証することはできない。したがって、第一審裁判所は、これを商標の使用とは見なさない。
* EUにおけるコンピュータの販売台数:アップル社の関係者である法務部長の陳述は、論理的に善意の第三者より信頼性が低いと考えられる。したがって、この陳述だけでは十分ではなく、他の証拠による裏付けが必要である。報告された販売台数は、iMacの全世界の販売台数に関する情報のみでEU域内の内訳が含まれていないことから、このケースに当たらない。
* 他の「Macintosh」商標または「Mac」商標と組合わせた使用:このような併用は理論的には認められるが、ケースバイケースであり、併用される商標が引き続き製品の出所を示すものとして認識されることが条件となる。ここでは「Think Different」は、同じフォーマットの「Macintosh」よりも小さなサイズで表示されていた。
* 発売当時の広告キャンペーンの成功に言及した報道記事:これらは対象期間より10年以上前のものである。したがって、これらの証拠も十分とはいえない。

 過去の名声だけで使用されていない商標を救済することはできない。商標権者は、商標を利用するだけでなく、取消申請から権利を保護するために、定期的かつ適切な方法で長期的に使用する必要がある。また、このような申請がなされた場合には、使用に関する許容される証拠を提供することができなければならない。

本文は こちら (Think Different: Think proof of trademark use!)