2022-09-28

中国:マノロブラニクは、いかにして20年越しに商標の無効判決を勝ち取ったか - Marks & Clerk

 英国の高級靴ブランド、マノロブラニク(Manolo Blahnik)は、最近、中国で商標に関する決定的な勝訴を収めた。中国最高人民法院(SPC)が、20年以上前に中国の個人が登録した商標「MANOLO & BLAHNIK(+ 中国語音訳)」を無効とする判決を下したのだ(事件番号:2021 Zui Gao Fa Xing Zai 75)。

背景
 1960年代後半、大学で法律を学んだスペイン人デザイナーのマノロ・ブラニク・ロドリゲス氏(Manuel Blahnik Rodríguez、以下ブラニク氏)は、「Manolo Blahnik」という名で国際的なファッションシーンに進出した。1971年に自身の名を冠した靴ブランドを設立し、英国で最初のブティックをオープンした。1998年に世界的に大ヒットしたHBOテレビドラマシリーズ「セックス・アンド・ザ・シティ」は、マノロブラニクの靴ブランドの人気を大いに高めた。

 1999年1月28日、中国の靴製造業者であるFang氏は、「MANOLO & BLAHNIK(+ 中国語音訳)」商標を登録するため、中国で出願(下記:番号1387094)した。ブラニク氏はこの出願に対し、自身の氏名権の侵害及び先に使用した商標の不当な先取りであると異議申立てを行ったが、この主張は、中国の商標局によって支持されず、異議申立は失敗に終わった。ブラニク氏は、行政上及び司法上の救済手段を尽くしたが、結局、Fang氏の商標は2009年に登録された。

 ブラニク氏が失敗した主な理由は、当時、中国での個人名及び商標としての「Manolo Blahnik」の使用と評判に関する証拠が不十分であったためである。この事件での重大な間違いは、多くの外国語の証拠資料を中国語に翻訳しなかったことだと思料される。その結果、証拠は無視された。 

 Fang氏の商標が登録された後もブラニク氏は諦めず、2013年に不使用取消審判を申請し、不使用取消審判係属中の2014年には、登録商標の出所の正当性を争って無効審判も請求した。不使用取消は約8年間の行政手続きでも司法手続きでも、最終的に不成立となった。

本件の事実関係
 Fang氏の商標に対する2014年の無効審判請求は、主に以下の理由に基づくものであった。

1. 当該登録は、ブラニク氏の氏名権を侵害するものである。
2. 既に使用され周知であったブラニク氏の未登録商標「MANOLO BLAHNIK」の不当な先取りである。
3. 当該商標の登録には悪意がある。 
4. 当該登録商標の使用は欺瞞的である。
5. 当該商標の登録と使用は「社会的な悪影響」をもたらす。

 最初の2つの主張は、不服審判の根拠としたものだが、無効審判では外国語の証拠資料の中国語訳が提出され、さらに、本物の「MANOLO BLAHNIK」ブランドの評判と認識に関する新しい証拠も提出された。後の3つの主張は新たなものであった。

 2015年に商標評審委員会(Trademark Review and Adjudication Board、現在は中国国家知識産権局の一部)は、ブラニク氏の主張は支持できないと裁定したため、ブラニク氏は知識産権法院に上訴した。

 2018年に知識産権法院は以下の判断を下した。
* 最初の2つの主張とその根拠となる事実は、商標評審委員会への異議申立とその後の手続で既に検討されたものだ。
* ブラニク氏は、以前の手続において中国語の翻訳やその他の証拠を補足する十分な機会があったにもかかわらず、それを行わなかった。そのため自らの不作為による不利益を享受すべきである。 
* 今回提出された資料のかなりの部分は、係争中の商標の出願日以降のものである。

 知識産権法院は、今回提出された証拠では、さらなる審理を行うに足る新たな事実の存在を証明することはできないとし、また、本件紛争は私権に関わるものであり、社会公共利益や公序良俗を害するおそれはなく、本件商標が欺瞞的または悪意により登録されたことを立証する直接の証拠もない、との判断を示した。以上のことから、知識産権法院は中国国家知識産権局の判断を支持し、無効請求を棄却した(事件番号:2016 Jing 73 Xing Chu 849)。

 ブラニク氏は控訴したが、2019年に北京高級人民法院は知識産権法院の判決を支持した(事件番号:2019 Jing Xing Zhong 753)。高級人民法院は判決の中で、以前の手続きで提出した証拠と異なる証拠を提出しても、必ずしも「新事実」とはならず、新事実は、元の判決や決定後に新たに発見される証拠や、以前の手続きで客観的な理由により適時に入手・提供できなかった証拠によって立証されるべきで、以前の手続きで提出できた証拠を現在の手続きで新証拠として認めれば、事前に定めた法律の制限を無効とし、安定した法秩序に資さない、と説明した。

 ブラニク氏は、このような挫折を味わいながらも、最高人民法院(SPC)に本件の再審請求を行った。SPCはこの請求を受理し、2022年6月にCNIPA審決と下級審判決を取消し、ブラニク氏に逆転勝訴を言い渡した(事件番号:Zui Gao Fa Xing Zai 75)。

SPC判決のポイント
 下級審で提出されなかったもので、今回の無効審判手続で提出された外国語の証拠の中国語訳は、新事実に該当しない。しかし、図書館検索報告、メディア報道等、今回の無効審判手続きで提出されたその他の新たな証拠資料は「新事実」になり得る。したがって、無効審判請求におけるブラニク氏の氏名権侵害の主張は、適切に検討されるべきものである。
 MANOLO BLAHNIKは、ブラニク氏の名前としてのみ意味を持つ。商標権者は、当該商標の出所について合理的な説明をすることができず、本件の証拠から、MANOLO BLAHNIKが1971年より靴に使用され、1990年代より香港の高級ブランド専門店の間で一定の国際的な人気を獲得していたことがわかる。このような域外での人気や評判は、中国本土の関係者にもある程度は反映されていたはずである。また、1990年代以降、中国メディアもこのブランドを取り上げている。これらを総合すると、関連する公衆は「MANOLO BLAHNIK」を本物のブラニク氏の氏名とブランドとして認識していたと合理的に結論づけることができる。商標権者は靴業界で活動しており、係争商標の出願前にブラニク氏とブランドの人気について知っていたはずである。そのため、係争商標の出願は偶然ではあり得なかった。SPCは、係争商標の登録はブラニク氏の氏名権を損なうものであり、無効とすべきものであったと結論づけた。
氏名権の主張が支持されたため、SPCは他の主張についてコメントする必要はないと判断している。

コメント
 SPC判決で重要な点は、係争商標の独自性と先取り登録した出願人の明らかな悪意にあったと思われる。しかし、興味深い点は、SPCが域外での標章の使用、特に香港での使用について立証価値を認めていることである。今後、下級審でこの判決が踏襲されれば、このような権利に関する将来のケースに大きな影響を与える可能性がある。

 デザイナーのブラニク氏にとって、今回のSPC判決により、ようやく自分の氏名とブランドを取り戻し、彼の個人ブランドが中国で適切に保護される道が開かれたことで、第三者からの異議申立てを恐れることなく、中国市場でビジネスの機会を完全に得られる結果となった。

本文は こちら (China: Overseas Visibility is a Persuasive Factor in the Manolo Blahnik TM Case)