中国商標の長い審査期間は、かつて、解決が急務な問題であった。2007年当時、出願から登録までの審査期間は36ヶ月にも及びこの問題を解決するために、中国国家知識産権局(以下、「CNIPA」という)は一連の措置を取り、特に2013年の商標法第3回改正において、商標登録出願の審査期間を9ヶ月以内に定めるなど、商標案件の審査期間を初めて明確にした。その後、商標登録出願の平均審査期間は、2019年末までに4.5ヶ月に短縮され2、2021年末までに更に4ヶ月に短縮された。現在、商標を登録出願して3ヶ月余りで初歩査定公告が出されたり、拒絶査定されたりしているケースがあることから、CNIPAは既にこの目標を繰り上げて達成できたことは明らかである。
商標出願の審査期間が短縮されたことで商標登録までの時間が短縮され、商標登録出願の効率が高められた。商標出願人にとってはよいことであるが、商標審査期間の短縮に伴い、優先権を主張した商標登録出願に影響が及び、かつ審査スピードが継続的に加速されるにつれて、この問題はますます顕著になると思われる。
『中華人民共和国商標法』第25条は、「商標登録出願人は、その商標を外国で最初に登録出願した日から6ヶ月以内に、中国で同一商品について同一商標の登録出願をする場合、当該国と中国とが締結した協議又は共に加盟している国際条約、もしくは相互に承認する優先権の原則に従って、優先権を享受することができる。」と規定している。簡単にいえば、出願人は、中国において商標の登録出願をした日が第三者より後であっても、その出願人が特定の外国で関連商標の登録出願を先にしてさえいれば、中国における商標登録出願は、第三者の商標登録出願に対して、優先権を有するということである。
商標の審査期間が長かった頃、優先権を主張した商標出願人は、法律で定められた6ヶ月以内であれば、6ヶ月の期限満了前に中国でその商標を登録出願しても、その優先権の主張が有効であると認定されさえすれば、通常、中国で第三者に先取り出願された商標の登録を阻止することができた。なぜならば、第三者に先取り出願された商標は、まだ審査を待っている状態である可能性が高く、かつ優先権を有する商標登録出願の情報をCNIPAのシステムに入力する時間も十分あったため、審査官は審査する時に当該優先権の日時によって、その優先日の後に中国で第三者に登録出願された同一又は類似の商品又は役務に使用する同一又は類似の商標を、法に基づき拒絶することができたからである。
しかし、商標の審査期間が短縮されるにつれて、優先権を主張した商標の権利確定にも様々な問題が生じている。
CNIPAの視点から見れば、商標の審査スピードを速めることは、むろん重要であるが、審査の質を保証することも軽視できない課題である。しかし、現在の審査スピードによれば、実体審査段階において有効な方法はなさそうだが、今後救済措置を取ることを考慮することができる。例えば、審査官は、優先権を主張した商標登録出願に対して実体審査を行う時に、他の拒絶理由がなければ、その優先日の後に登録出願した第三者の商標(同一又は類似の商品又は役務における同一又は類似の商標)が既に初歩査定公告されたか、又は登録査定された場合、優先権を主張した商標に対して初歩査定を行い、かつその第三者の商標に関する情報を上級審査部門にフィードバックすることが考えられる。また、上級審査部門は、関連事実を確認した後に、その第三者の商標の初歩査定公告を自発的に取り下げるか、又は既に登録査定された商標を無効宣告することも考えられる。残念ながら、現行商標法及び商標法実施条例には関連規定がないため、中国官庁がこの状況を考慮して、次回の法改正において関連条項を追加することが期待される。
現在のところ、優先権を主張した商標出願人が積極的に対応策を検討するのがより効果的であると思われるが、以下にいくつかの対応策を提案したい。
1. 優先権を主張する商標であっても、中国においてできるだけ早く商標登録出願をすることで、上述の問題をできるだけ回避する。
出願日が早ければ早いほど、第三者による同一又は類似の商品又は役務における同一又は類似の商標の登録を阻止できる可能性が高くなる。これは最もコストを節約できる手段でもある。そのため、出願人が中国において、できるだけ早く商標登録出願をすることを勧めたい。
2. 商標登録出願の前又は後に商標調査を行い、第三者の問題先願商標があるか否かをできるだけ早く確認する。
出願人に商標登録出願の前又は後に商標調査を行うことをお勧めする。商標調査によって、同一又は類似の商品又は役務における同一又は類似の先願商標があるか否かを確認できる。問題先願商標があれば、その商標状態をウォッチングし、タイムリーに対応策を講じることができる。
3. 第三者の問題先願商標が出願中であれば、陳情書を提出して、その登録出願を拒絶査定するように、官庁に請求する。
第三者の問題先願商標がまだ実体審査を待っている場合、出願人は優先権を主張した自分の商標登録出願によって、CNIPAに陳情書を提出し、関連状況を説明した上で、第三者の問題先願商標の登録出願について拒絶査定するように、請求することができる。もし出願人が主張する優先権が有効であれば、CNIPAは第三者の問題先願商標の登録出願を自発的に拒絶査定する可能性はより高い。
4. 第三者の問題先願商標が既に初歩査定公告されたか、又は登録査定された場合、できるだけ早く異議申立をするか、又は無効宣告を請求する。
この場合、出願人に第三者の問題先願商標に対して、できるだけ早く異議申立をするか、又は無効宣告を請求することをお勧めする。もし出願人が主張する優先権が有効であれば、異議申立の主張又は無効宣告の請求が認められる可能性はより高い。ただし、その第三者の問題先願商標が同一又は類似の商品又は役務における類似商標である場合、異議申立の主張又は無効宣告の請求が認められるか否かについて、商標の類似程度や悪意による冒認出願であるかなどの要素を総合的に考慮して判断されるため、注意が必要である。
(中国商標弁理士 孟 麗穎)