本件に係る商標:「康涅克」(出願番号:第16647402号)
事件の概要:
請求人の主な理由:「康涅克」は「COGNAC」の音訳であり、「COGNAC」はフランスの葡萄蒸留酒の原産地名称/地理的表示で、すでにEU、フランスおよび中国において原産地名称、地理的表示として法にもとづき登録、保護されている。本件に係る商標はフランスの原産地名称、地理的表示である「COGNAC」の複製であり、消費者の誤認・混同を生じさせやすいものである。商標法第16条などの条項にもとづき本件に係る商標を無効とするよう求める。
被告の答弁は次のとおり。「請求人が提出した証拠は、「COGNAC」に対応する中国語は「干邑」であり、「康涅克」は「COGNAC」に対応する中国語訳ではないことを示しており、本件に係る商標と「COGNAC」とは直接的な関係はなく、同社の先行する地理的表示を侵害してはおらず、本件に係る商標の登録維持を求める」
事件の分析:
本件で焦点となっている問題は、中国における国外の地理的表示の保護および国外の地理的表示の中国語翻訳の保護についてである。
本件において、請求人が提出したフランス政府が1936年5月1日に公布した法令、2009年9月24日に公布した第2009-1146号法令および中国の元国家品質監督検験総局の《干邑に対する地理的表示保護実施の承認に関する公告》から証明できるように、「COGNAC」は中仏両国において葡萄蒸留酒製品の原産地地理的表示として保護されており、本件に係る商標の申請登録日までにすでに中国の商標法第16条第2項が示す地理的表示を構成していた。
本件に係る商標「康涅克」は上述の地理的表示「COGNAC」を中国語へ音訳したものであり、両表示の全体的な構成は似ている。本件に係る商標の指定商品である葡萄酒などの商品と請求人の地理的表示が示すブランデー商品は同種の商品または類似の商品に属している。請求人が提出した証拠から、その地理的表示「COGNAC」は本件に係る商標の出願日までに、中国を含む世界規模ですでに一定の知名度を有していたことが十分に証明できる。また、被告が提出した証拠からは、それが指定する商品が上述の生産地由来のものであるとは証明できない。請求人が提出した被告のネットショップのスクリーンショット、購買記録などの証拠を合わせると、被告には実際にこれを使用する過程で請求人の「干邑」という地理的表示にあやかろうとする主観的故意があり、正当であるとは甚だ言いがたい状況であったことが十分に証明できる。それゆえ、本件に係る商標はワインなどの商品に使用することが認められており、同商品がこの地理的表示が示す地域に由来しているか、または関連の品質・特徴を備えていると関連公衆に容易に誤認を生じさせ得るものであり、商標法第16条第1項の規定に違反している。
外国語の地理的表示の保護にはその中国語翻訳の保護も含まれ、外国語の地理的表示の中国語翻訳はその決まった公式の訳し方のみに限らず、その地理的表示の中国語翻訳の形式(音訳を含む)のいずれもがその保護範囲にあると関連公衆に思わせることができる。本件について言えば、被告は中国語の「干邑」は「COGNAC」に対応する中国語翻訳であると認識しており、かつ実際の使用過程では出願人もまた「干邑」と「COGNAC」を共に使用しているが、しかし、「康涅克」を上述の地理的表示「COGNAC」の一般的な中国語の音訳として、保護の範疇に入れるべきである。
典型事例の意義:
地理的表示が示す商品の特徴的な品質、信用またはその他の特徴は長い歴史のなかで徐々に形成されていくものであり、大自然からの贈り物であり、多くの労働者の智慧の結晶である。本稿では具体的な事例を通じて、地理的表示の概念、関連法令およびその適用について分析、説明している。また、外国の地理的表示を保護するにあたっては、公式の訳し方のみに限定して音訳などその他の訳し方を軽視することがあってはならず、地理的表示に対して有効な法的保護をし、地理的表示の市場における名声を守り、消費者の合法的権益を確保し、市場の秩序ある競争を保証し、ビジネス環境の最適化を図る上で積極的な意義を有していると指摘している。(国家知識産権局商標局評審八処 任航、李頴)
(事例の出所:中国市場監管報)