2022-11-09

中国:CNIPAの「『商標権侵害の判断基準』に対する理解と適用(14条、20条、21条)」 - 北京路浩

 2022年8月12日に、国家知識産権局(CNIPA)が、「『商標権侵害の判断基準』に対する理解と適用」を発表した。2020年6月15日、 国家知識産権局(CNIPA)は「商標権侵害の判断基準」を制定し、公布した。 商標権に関する法執行の業務指導をさらに促進し、基準の普及と解釈をさらに改善し、法執行者が規定の意味を正確に理解し、各地での実施過程における基準の適用に関する質問を迅速に答えるため、国家知識産権局(CNIPA)は、「『商標権侵害の判断基準』に対する理解と適用」を作成した。

 当文書は、38条からなる「商標権侵害の判断基準」を逐条解釈した上、各条文に関連する典型的な判例も紹介した。
 本稿は、「『商標権侵害の判断基準』に対する理解と適用」の重要な内容を取り上げ、抄訳の上、連載を行う。

第十四条 被疑侵害商標は、他人の登録商標と比較し、登録商標との同一性が認められる状況には、以下の場合を含む。
(一) 文字商標が次のいずれかの状況を有する場合。
1. 文字の構成および配列順序が同一である場合。
2. 登録商標のフォント、アルファベットの大文字・小文字、文字の水平・垂直方向の配置を変更し、登録商標と基本的に区別がつかない場合。
3. 登録商標の文字、アルファベット、数字の間隔を変更し、登録商標との間に本質的な差異がない場合。
4. 登録商標の色を変更し、登録商標の識別力に影響を与えない場合。
5. 登録商標に商品の一般名称、図形、型番及び識別力を欠くその他の内容のみを追加し、登録商標の識別力に影響を与えない場合。
(二) 図形商標は、構成要素、表現方式等の視覚的差異が基本的にない場合。
(三) 文字と図形の組合せ商標の文字構成、図形外観及びその配置が同一であり、全体として基本的に視覚的に差異がない場合。
(四) 立体商標の識別力のある立体標識と識別力のある平面要素が同一であり、または基本的に差異がない場合。
(五) 色彩組合せ商標における色彩の組合せ及びその配置が同一であり、または基本的に差異がない場合。
(六) 音声商標の聴感と音楽全体のイメージが同一であり、または基本的に差異がない場合。
(七) 登録商標の視覚的効果または聴覚的認識と基本的に差異がない場合。
本条では、文字商標、図形商標、文字と図形の組合せ商標、立体商標、色彩の組合せ商標、音声商標を他人の登録商標と同一のものと認定することについて詳細に規定するものである。本条は、関連する司法解釈と一致し、同時に、立体商標、色彩組み合わせ商標、音商標などの非伝統的な商標の商標同一性の判断方法に関する規定を追加するものである。

 本条に対する解説: 強調すべきなのは、『商標権侵害の判断基準』及びその後発表された『最高人民法院・最高人民検察院による知的財産権侵害刑事事件の処理における具体的な法律適用の若干問題に関する解釈(三)』のどちらも、登録商標に商品の一般名称、型番及びその他の識別力を欠く内容のみを付加し、登録商標の識別力に影響を及ぼさない場合、同一商標と認定すべきと規定する。

 立体商標の構成はより複雑で、識別力のある立体標識からなる立体商標・識別力のある立体標識と識別力のある平面要素からなる立体商標・識別力のある立体標識と識別力のない平面要素からなる立体商標・識別力のない立体標識と識別力のある平面要素からなる立体商標などがある。本条は、立体商標の識別力のある立体標識と識別力のある平面要素が両方同一であるか、または基本的に差異がない場合にのみ、同一商標として判断できると規定する。

 音声商標のような非伝統的な商標は、同一商標のケースは実務上比較的稀であるため、本条では原則のみを規定する。

第二十条 混同が生じやすい場合として、次の場合を含む。
(一) 関連公衆に、当該商品またはサービスが登録商標の権利者によって生産されまたは提供されていると信じさせるのに十分なものである場合。
(二) 関連公衆に、当該商品またはサービスの提供者が登録商標の権利者との間に投資・許可・加盟または提携などの関係があるように信じさせるのに十分なものである場合。

 本条に対する解説: 強調しなければならないのは、混同が生じやすいというのは、混同が実際に発生することを要件としない。混同の可能性さえあれば充足のである。

第二十一条 商標法執行機関は、混同が生じやすいか否かを判断する際に、以下の要因およびそれらの相互作用を考慮しなければならない。
(一)商標の類似性
(二)商品又はサービスの類似性
(三)登録商標の識別力及び知名度
(四)商品又はサービスの特徴及び商標使用の態様
(五)関連公衆の注目度や認知度
(六)その他の関連要因

 本条に対する解説: 本条では、混同が生じやすいか否かの判断は、様々な要素を総合的に考慮する必要があることを明らかにする同時に、要素間には一定の関連性、柔軟性、非排他性があることも明確にした。各要素は可変的であり、相対的であり、そしてケースに応じた役割は関数となるような特徴もあり、決定的な役割を果たしたわけでもない。したがって、特定のケースに対処する場合、商標の法執行機関は、各ケースの状況を考慮する必要があり、各要素を総合的判断すべきである。

 商標の類似度と商品・サービスの類似度は、混同と正の相関があり、 商標の類似度が高ければ高いほど、商品・サービスの類似度が高ければ高いほど、他の条件が同じな場合、混同を招く可能性が高くなる。

 商標の識別力の強さは、3 つの要素に左右される。1 つ目は、標識の独自性である。 標識は、ユニークであればあるほど、識別力が強くなる。 文字商標の場合、固有語よりも造語の方が特徴的である。 例えば、「長城」の文字よりも「華為」(ファーウェイ)の文字の方が商標として識別力が高い。 図形商標の場合、実在するもののデザインよりも、架空のもののデザインの方が識別力が高い。例えば、架空の宇宙人は、実在する動物用よりも、識別力が高い。2 つ目は、商標標識とそれが標識する商品またはサービスとの関連性である。関連性が弱ければ弱いほど、識別力は強くなる。例えば、携帯電話に「アップル」を使用した場合、アップルが携帯電話そのものと関連しないため、より識別力が高くなるが、果物の商標として「アップル」を使用した場合、両者が強く関連するため識別力を欠くことになる。3 つ目は、商標標識の認識可能性である。認識可能性が強ければ強いほど、識別力も強くなる。商標が複雑すぎたり、単純すぎたりすると、関連公衆の認識や記憶に資することができない。商標の識別力が弱くなる。また、商標自体の識別力、すなわち生得的識別力の上、特定の商品やサービスに使用された結果としての商標の識別力、すなわち後天的識別力を考慮する必要がある。したがって、商標の識別力の判断は、以下を考慮する必要がある。 商標の識別力の判断は、商標の使用が認められた商品又はサービス、使用期間、使用範囲、広告宣伝等を考慮する必要がある。通常、登録商標の識別力が強ければ強いほど、類似の商標が同一または類似の商品に使用された場合の混同の可能性は高くなる。

 登録商標の知名度とは、その商標が関連公衆にどの程度知られているかを意味する。商標の知名度の判断は、商標を使用した商品またはサービスの事業売上高、利益、納税額、市場占有率、広告量、売上高、広告宣伝のエリアを総合的に考慮すべきである。通常、商標の知名度が高ければ高いほど、混同の可能性は高くなる。

 商品またはサービスの特徴とは、商品またはサービスが所属する産業の特殊性を意味する。例えば、自動車産業は、商品の専門性が高く、商品価値が高いという特徴があり、商標の使用態様は、主として、表示場所、表示方法等、当事者による商標の使用を指す。

 関連公衆の注目度・認知度とは、消費者などの関連公衆が商品やサービスを購入したり選んだりする際に、その商品やサービスの特徴に注目し、それを識別する能力のことである。 注目度や認知度は、通常、商品やサービスの価格、寿命、消費者の健康への影響、消費頻度、消費環境などに関連して決定される。通常、関連公衆の注目度や認知度が高ければ高いほど、混同の可能性は低くなる。

 その他の関連要因としては、被疑侵害者のパクリの意図などがある。 被疑侵害者のパクリの意図がある場合は、混同の可能性を認定する要件が低くなる。
(出典)「『商標権侵害の判断基準』に対する理解と適用」の全文は、CNIPA の公式サイトで掲載

本文は こちら (路浩知財ニュースレター9-10月号)