2022-11-28

知的財産の権利行使:「鉾」と「盾」としての商標 - Novagraaf

 よくある誤解として、商標は単に、自社のビジネスと同一または類似の標章を他者が使用するのを阻止するための法的ツールであるというものがあるが、それにもまして、商標はパートナーとの取引では商業的ツールとして、それ以外の他社との取引では法的ツールとして「鉾」または「盾」の役割を果たすことができる。知的財産権の行使と保護戦略を決定する際には、これらの異なる機能を念頭に置く必要があると、Laura Morrishは解説する。

 第三者に対して知的財産権を行使することは重要なことだが、その価値は「盾」としての役割にもあり、第三者からの攻撃に対する防御に使用しつつ、権利者が投資やイノベーションに対して権利を主張できるようにすることだ。

 可能な限り知的財産権を登録することで、ブランドオーナーに選択肢を提供し、知的財産権を使用するかどうか、どのように使用するかを選択できるようになる。知的財産を所有することで、権利行使、交渉、あるいは何もしないといった選択肢が生まれる。知的財産権がなければ選択肢はない。

 それでは、知的財産の様々な機能と、それらがビジネスにどのような利益をもたらすのかを見てみよう。

「鉾」としての知的財産
 知的財産は「鉾」として、競合他社を含む第三者が、意図的か否かに関わらず知的財産のある側面を権利侵害の形で利用しようとした場合に、それを攻撃するために使用することができる。

 知的財産の所有者の中には、その権利を行使するために排他的なアプローチをとり、その使命のためにほとんど常に紛争手続きに巻き込まれることがある。商標が非常に特徴的であったり、市場がニッチであったりする場合、このようなアプローチを取ることは有益かもしれない。なぜなら、ブランドの周りをできるだけ多くの清流で保ち、その価値を高めることが目的だからだ。

 このアプローチでは、ブランドオーナーは、少なくとも5年間の不使用取消猶予期間(一部法域は3年間)内に、幅広い権利行使を可能にするために、可能な限り広範囲の商品・サービスに対して商標の保護を求めることを検討すべきであろう。権利者は一部の法域で商標の使用意思要件に留意する必要があるが、そうすることで、ブランドの評判を確立する時間を確保し、その結果、より幅広い知的財産権の行使を可能にする。

 例えば、飲み物の「ジン」に関心がある場合、第三者が同じ標章を別のスピリッツやアルコール飲料に使用するのを防ぐために、「アルコール飲料」という広い用語で標章の保護を求めることができる。ジンに対する評判が確立されれば、最終的にジンに限定して使用する場合でも、知的財産権者は、異なる商品に対するより広い保護範囲の恩恵を受けることができる。つまり、5年間の不使用取消猶予期間中に、最初の広い保護範囲を「鉾」として使用すれば、最終的に使用が1つの商品カテゴリーに限定される場合でも、権利の希薄化を防ぐことができる。

「盾」としての知的財産
 しかし、シナリオによっては商標を登録することが防御策になる場合がある。例えば、記述的商標の使用が市場で多く行われている場合、スタイライズした形で商標を登録することで、同じ記述的商標を使用する第三者による侵害の申立てに対する防御になる可能性がある。商標の保護範囲は狭く、同じ記述的用語を使用する第三者に対する権利行使は難しいかもしれないが、登録することで所有者は根拠を堅固にすることができる。また、登録により権利の開始日と権利範囲を確定でき、第三者の異議申立てに対して併存を示す有効な証拠となりうる。これにより、第三者にとって登録を無効としなければならないという不都合をもたらすことができる。また、記述的な用語を商標として使用しているというメッセージを世界に発信するためにも有効な手段となろう。

 商標を「盾」として使用する場合、所有者は権利行使の制限に留意し、登録によって付与される予想権利範囲を管理する必要がある。商標権を所有するだけで商標のすべての要素における排他的独占権が保証されるものではなく、権利が「盾」として保護されている場合、第三者使用に対する将来の権利行使を制限される可能性が高まる。

 また、知的財産権は「和解の象徴」の役割を果たし、より大きな商業的紛争に直面した際に交渉ツールとして利用することができる。当事者間で知的財産権をライセンスすることで、争点となる問題の解決につながる可能性もある。

商標戦略
 商標登録は、第三者が同一または類似の商標を使用することを抑止するのに有効な手段であり、これまで見てきたように、商標登録は「鉾」または「盾」として有効に利用できる可能性がある。しかし、すべての商標が登録にかかる費用を正当化できるわけではない。法的および商業的な分析を行い、保護する価値があるかどうかを確認することが重要であり、その結果得られる登録により商標をどのように使用できるかも含めて検討したい。このような評価の一環として、商標のクリアランス調査を実施することも重要だ。

 クリアランス調査は、提案された商標の使用が先行する権利を侵害しないことを確認するだけでなく、商標登録が必要かどうか、あるいは使用可能かどうかを評価するための貴重な手段となる。場合によっては、商標登録は可能でも、その価値が限定的で商業的な観点から正当化されないことが、調査結果から判明することがある。

 商標戦略を評価する際には、市場の性質、製品、商標の機能と保護可能な要素、商標の寿命、商標のライセンス供与計画、ブランドカテゴリーなど、多くの要因を考慮する必要がある。商標が最終的に登録によって保護されるかどうかにかかわらず、登録商標の「鉾」と「盾」としての機能は将来の使用を形成し、その機能は登録期間中に変わる可能性もあるが、登録により知的財産所有者に与えられる選択肢を理解することが重要である。「盾」として機能するよう登録した商標を権利行使しようとしたとき、権利者は反撃に対して脆弱になり、最終的に「盾」を失ってしまうことにもなりかねない。

 知的財産権は、法的手段であれ商業的手段であれ、また「鉾」であれ「盾」であれ、大きな価値を持ち、企業の投資とイノベーションを保護する重要なメカニズムとなるであろう。

本文は こちら (IP enforcement: Trademarks as ‘sword’ or ‘shield’?)