アラブ首長国連邦(UAE)における模倣品対策として、インドのKamal & Sons (KAMAL社)は、インド・グジャラート州シドプール地区のインド政府認定の輸出企業であり、有名な「S.Bと鹿」ブランドのサット・イサゴール(Sat Isabgol:サイリウムハスク・パウダー)を所有している。KAMAL社は、商標権を侵害したトラック3台分の模倣品(約6722キログラム)を没収し、模倣品の摘発しに成功した。R.K. Dewan & Co.は、UAEにおける商標権侵害の刑事訴訟において、UAEの代理人とドバイ警察の協力を得て、KAMAL社を支援した。
背景
「S.Bと鹿」ブランドのサット・イサゴールは1943年にインドで誕生した。
KAMAL社は、1948年に高品質のサイリウム(Ispaghula)製品する会社として設立された。ビジネス、商取引、輸出で長く様々な経験を持つ同社は、1950年代初頭に高品質のサイリウム種子と種子外皮を輸出し始め、やがてヨーロッパ、アメリカ、中東市場にサイリウム製品を提供する主要なサプライヤーの1つになった。
KAMAL社の商標「S.Bと鹿」は、インドやUAEなどでさまざまな形態で登録され保護されており、製品ラベルは、オリジナルの芸術作品として著作権法で保護されている。
経過
KAMAL社は、1984 年UAEに「S.Bと鹿」ブランドのサット・イサゴール製品の輸出を開始した。この輸出は、国内の様々な業者を通じて行われていたが、2011年から2013年にかけては、さまざまな規制のために輸出を独占的に取り扱う必要があり、その結果、インドのアーメダバードにあるモナーク・インターナショナル(モナーク社:Monarch International)がUAE市場を取り扱う総代理店として任命された。モナーク社は、長年にわたってKAMAL社の製品を輸出してきた。しかし、モナーク社の活動に不審な点があったため、KAMAL社とモナーク社の間に紛争が生じた。モナーク社は、KAMAL社から商品を購入していたが関係が悪くなったため、KAMAL社は、モナーク社への「S.Bと鹿」ブランドのオリジナル製品の供給を停止した。その後、モナーク社は自社製品をUAE市場に投入するとまで言い出し、モナーク社の製品はUAE市場に投入された。しかし、その商品には製造メーカー名がなく、UAEのDREAM STAR TRADING LLC(ドリームスター社)という会社が販売していた。ドリームスター社が販売していた商品は、品質は悪く、KAMAL社の段ボール箱と似たような段ボール箱に梱包され、KAMAL社のビジネスに損害を与えるような低価格で販売されていたことが判明した。さらに調査を進めると、モナーク社はインドのUnjhaにあるGIRIRAJ ENTERPRISE(GIRIRAJ社)と密かに契約を結び、侵害品を製造・梱包してUAEのドリームスター社に輸出していたのである。その後、デザインをKAMAL社の「S.Bと鹿」製品ラベルに酷似させるように変更した。侵害品とオリジナルの製品ラベルを以下に示す;
侵害者は、KAMAL社の登録商標と製品ラベルを文字通りコピーした。楕円形の中に鹿が描かれたデザイン、配色、レイアウト、その他「S.Bと鹿」商標ラベルのユニークな特徴を含んでいた。また、侵害者は、KAMAL社の「鹿(DEER)」という単語を「STAG(牡雄ジカ)」に置き換えているが、この2つの単語は英語の辞書で同じ「鹿」を意味することを踏まえたものといえる。侵害者はKAMAL社の商標を模倣し、外観を似せて消費者を欺くようにしたものだ。
2021年12月、KAMAL社は、モナーク社がUAEのドリームスター社に大量の侵害品(8万個)を輸出していることを知った。KAMAL社は、UAEの代理店がドリームスター社から購入した数点の模倣品に基づき、KAMAL社の登録商標 「S.Bと鹿」(ロゴ)および 「S.Bと鹿+Sat Isabgol」(ラベル)の侵害を理由にドバイ経済開発省(DED)にドリームスター社に対する商標権侵害の申立を行った。KAMAL社の申立てにより、侵害者の場所で査察が行われたが、DEDの職員は侵害品を1つしか発見できず、結局DEDは申立てを終わらせた。KAMAL社の失敗は、侵害者がDEDの査察に関する何らかの情報または疑いを持ったため、おそらく侵害品をドバイ首長国の市場で公然と入手できたにもかかわらず、行動を回避し侵害行為を隠すために製品/サンプルをより安全な場所に移動させたことが原因であったと思われる。
また、DEDへの申立てのフォローアップとして、詳細な技術報告書を作成しDEDに提出し、ドリームスター社による侵害と模倣品の販売がアラブ首長国連邦全体で続いていることを示そうとした。しかし、DEDはこの問題を解決したものと捉え、それ以上動くことはなかった。
2022年2月、KAMAL社はモナーク社がインドからドリームスター社にさらに約2万個の模倣品を輸出していることを知ることとなった。この情報を受けて、KAMAL社はUAEで商標権侵害に対する刑事訴訟を起こすことにした。2022年6月、ドバイ警察とUAEの代理人がディーラーを名乗り、ドリームスター社から新しい模倣品サンプルを購入すると同時に、隣国へ再輸出するために大量の模倣品を発注したいとの意向を伝えた。購入した模倣品は、鑑定書を作成してもらうためにKAMAL社のオリジナルサンプルと共に法医学研究所に提供した。法医学研究所から模倣品であることを示す報告書を受け取った後、ドリームスター社に再度連絡して大量注文を確認した上で、倉庫を訪問し非常に多くの模倣品があることを確認した。そして、侵害の証拠、オリジナルと模倣品サンプル、法医学研究所の報告書、商標登録証、著作権証などの証拠書類とともに警察に告発した。現地の慣例に従い、ドバイ警察から捜査のための検察官の許可証が発行され捜査が行われた。同時に、R.K. Dewan & Co.の担当者(変装したディーラーとして)もドリームスター社に連絡し、予定日に大量の発注を実行したい旨を伝えた。
2022年6月29日、朝から店舗とその周辺は密かに監視され、午後になって弁護士、警察などの立ち会いのもとフルレイドが実施された。その結果、警察は約570箱、約114,000個、約7.41トンの模倣品を押収した。押収された商品は、トラック3台で船会社に運ばれ、刑事事件に基づく更なる捜査と手続きを待つことになった。
ドバイ警察は、捜査後にKAMAL社に有利な公式鑑識報告書の発行などの手続きを終えたのち、本件を検察当局に送致した。その後、刑事裁判所で審理され判決が下された。
2022年9月22日、裁判所はKAMAL社を支持する判決を下した。同裁判所は、侵害者が支払うべき罰金としてAED20000(UAEディルハム:約75万円)を科し、押収した商品の廃棄を命じた。この判決に対し侵害者は上訴しており、2022年11月に上級審で審理される。