2022年11月初旬、タイの控訴裁判所は、商標登録機関の査定と商標委員会の審決を覆し、エクソンモービル（Exxon Mobil）が出願した商標であるガソリンスタンドの店舗レイアウトの商標登録を支持した。これは、エクソンモービルとタイ知的財産局（Department of Intellectual Property：DIP）の間で長年続いてきた紛争における最新の決定であり、DIPはこれまでこの商標を識別力がないとして登録を拒絶していた。
エクソンモービルがタイでよく知られている登録商標「ESSO」を付してガソリンスタンドの店舗レイアウトを独特のカラフルな図面で描いた商標を最初に出願したのは2015年4月、ニース国際分類の4類と35類を指定したものであった。
しかし、タイ商標登録機関はガソリンスタンドの店舗レイアウトは石油製品に関する商品・サービスの直接的な記述であり、識別力がないとして登録を拒絶した。登録官によれば、公衆はエクソンモービルの商標を付した商品・サービスと他社の商標を付した商品・サービスを区別することができないというものであった。
エクソンモービルはこの査定を商標委員会に審判請求し、商標委員会は最終的にエクソンモービルの商標には識別力がないとして査定を支持した。商標委員会はは、図面の支配的要素は、給油機（fuel dispensers）を備えた一般的なガソリンスタンドの外観から成っており、指定された石油製品に関する商品・サービスに直接関連していると判断し、また、提出された証拠では、この商標が使用を通じて識別力を獲得したことを証明するには不十分であるとの判断を示した。
エクソンモービルは、これらの決定を不服として中央知的財産・国際貿易裁判所（IP&IT Court）に上訴した。
IP&IT Courtは、この事件を審理したのちエクソンモービルに有利な判決を下した。商標に本質的な識別力があると判断したのだ。IP&IT Courtは、商標の識別性を評価するには、人々の心に認識され、際立つ要素があるかを見極めることが極めて重要であると指摘し、エクソンモービルの商標には、登録商標である「ESSO」がレイアウト上容易に視認できる位置と文字サイズで配置されており、また、「ESSO」商標は、タイで長期間にわたって使用され、タイの国内外においても一般的に認識されているとして、IP&IT Courtは、「ESSO」商標が、絵柄のガソリンスタンドや給油機よりもサイズが小さいにもかかわらず、人々の間で認識され、際立っているため、商標の識別力を考慮する際に支配的な要素であると認定した。
さらに、IP&IT Courtは、エクソンモービルの商標が他の商標と異なるのは、造語である「Fuel Technology」と「Synergy」に加えて、ガソリンスタンドと給油機の要素として色と形が任意に配置されている点にあると指摘した。これらは、この商標を付した商品やサービスがエクソンモービルに由来することを一般公衆が認識するのに寄与するもので、商標の識別力を評価する際に考慮されるべき支配的要素でもある。
その後、DIPはこの事件を専門事案控訴裁判所（Court of Appeal for Specialized Cases）に上訴した。裁判所は、よく知られた「ESSO」商標によって、この商標が付された商品がエクソンモービルに由来することを一般公衆が認識できるため、エクソンモービルの商標はタイ商標法の下で本質的に識別力があり登録可能であることを支持した。しかし、裁判所は、商標に含まれるガソリンスタンドと給油機については、IP&IT Courtとは異なる見解を示し、これらの要素の物理的特徴はガソリンスタンドと給油機一般に共通するものであると指摘した。したがって、これらの要素は記述的であり、独占権の対象とはならないが、商標全体としては本質的に識別力があることに変わりはない。
これらの判決は、両裁判所がタイにおける非伝統的商標について、より積極的な司法的見解を持つようになったことを示す有効な証拠であると考えられる。本件で専門事案控訴裁判所は、商標のガソリンスタンドと給油機の物理的特徴が記述的であると判断したにもかかわらず、エクソンモービルの商標全体に本質的に識別力があるとして商標登録を認めた。この判決は、タイにおける非伝統的な商標の受容する顕著な発展であり、ブランドオーナーが新しいタイプの商標の保護を求めることを促進するものと思われる。
本文は こちら （Thai Court Upholds Trademark Protection for Service Station Layout）