プーマ社の「PUMA」ブランドは、中国で広く使用されており、また広く宣伝されてもいる。ところが、第三者が類似する商標「sweet puma」(登録番号19051535)を第43類のケータリングサービス、バー・レストランサービス及び類するサービスを指定して商標出願し登録された。プーマ社は、(1)自社の一連の「PUMA」商標は中国で高い認識と評判を得ており、「著名」な商標として認められるべきである、(2)係争商標は「PUMA」ブランドの悪質な模倣である、(3)係争商標の登録と使用は混同を引き起こし社会的にマイナスの影響を与える、と主張して登録無効の訴えを提起し、審理をサポートするための広範な証拠を提出した。
CNIPA(中国国家知識産権局)は、プーマ社の以前の登録商標は、係争商標が指定しているレストランやバー・サービスとは異なるスポーツ用品のみを指定していたため、「sweet puma」商標の登録を維持する判断を示した。プーマ社が提出した証拠は、係争商標を指定するサービスに使用することで混同を生じさせると審判官を説得するものとはならなかった。
プーマ社はCNIPAの審決を不服として北京知識産権法院に控訴した。プーマ社は、「PUMA」商標が馳名商標として認められるべきものであり、登録された商品や商品区分を超えて保護されるべきとし、中国商標法第13条第3項により、係争商標は無効とされるべきであると主張した。(当該商標は、中国で非同一又は非類似の商品を指定して登録されている第三者の馳名商標の複製又は模倣であって、公衆を誤認させ、馳名商標登録者の利益に損害を与え得るため、このような商標の登録は禁止されている。)
北京知識産権法院はプーマ社の訴えを退け、「sweet puma」商標の登録を維持する判決を下した。同法院は、両商標は全く異なる無関係な事業分野で使用されており、その結果、一般公衆は係争商標をプーマ社及びプーマ社の事業と関連付ける可能性は低いと判断した。
プーマ社は、さらに北京人民高等法院に上訴した。プーマ社は、商業パートナーとの広範囲な事業活動を示す追加の証拠を提出すると共に、係争商標の所有者が2021年9月3日に登録を抹消されたと指摘した。
高等法院は、判決で(i) プーマ社の商標は馳名商標として認められるべきである、(ii) 係争商標「sweet puma」はプーマ社の商標に類似している、(iii) 問題の登録商標が指定するケータリング/レストランサービス等はプーマ社のスポーツ用品とは異なるが、宣伝・広告活動の結果、消費者が係争商標とプーマ社又はプーマ社の事業を連想するような重なりや関連付けを生じさせる可能性があると判断し、CNIPAと北京知識産権法院の判断を覆した。
この事例は、中国において商標の広範な使用と広告宣伝を示す詳細な証拠を提出すれば、中国の裁判所が、商標に「馳名」の地位(及びその結果として生じる広範な保護)を与える可能性があることを示唆するものだが、今回の商標所有者が係争中に登録を抹消されたことも見逃せず、この事実も高等法院が下した判断に影響した可能性もある。