2023-04-24

中国:CNIPAの「『商標権侵害の判断基準』に対する理解と適用(31条、33条)」 - 北京路浩

 2022年8月12日に、国家知識産権局(CNIPA)が、「『商標権侵害の判断基準』に対する理解と適用」を発表した。2020年6月15日、国家知識産権局(CNIPA)は「商標権侵害の判断基準」を制定し、公布した。商標権に関する法執行の業務指導をさらに促進し、基準の普及と解釈をさらに改善し、法執行者が規定の意味を正確に理解し、各地での実施過程における基準の適用に関する質問を迅速に答えるため、国家知識産権局(CNIPA)は、「商標権侵害の判断基準』に対する理解と適用」を作成した。 当文書は、計38条からなる「商標権侵害の判断基準」を逐条解釈した上、各条文に関連する典型的な判例も紹介した。本稿は、「『商標権侵害の判断基準』に対する理解と適用」の重要な内容を取り上げ、抄訳の上、連載を行う。本稿は最終版である。

第三十一条 他人の登録商標と同一または類似の文字をドメインネームとして登録し、そのドメインネームを通じて関連商品またはサービスの電子商取引を行い、関連公衆に誤認を生じさせる可能性があるものは、商標法第 59 条第 7 項が規定する商標権侵害に該当する。

本条に対する解説:商標の分野では、他人の登録商標をドメインネームとして登録することが時折発生する。ドメインネームの使用は商標権侵害と判定されるには、3つの要件を満たす必要がある。第一に、他人の登録商標と同一または類似の文字をドメインネームとして登録すること;第二に、ドメインネームを通じて同一または類似の商品またはサービスの取引を行うこと;第三に、関連公衆に誤認を生じさせやすいこと。 ドメインネームを通じて同一または類似の商品またはサービスの取引を行っていない者については、具体的な状況に照らして、反不正競争法に従って対処することが適切である。

第三十三条 商標法第 59 条第 3 項が規定する「一定の影響力を有する商標」とは、中国で使用されている未登録商標の内、一定の範囲内で関連公衆に知られているものを指す。
 一定の影響力を有する商標の認定は、商標の継続使用の期間、販売量、事業の規模、広告宣伝等の要素を考慮して総合的に判断する。
 以下の場合は、本来の使用範囲内での継続的使用とはみなされない。
(一) 商標の使用商品または使用サービスを追加すること。
(二) 商標の図形、文字、色彩、構造、文体を変更すること。ただし、他人の登録商標と区別するために行った変更は、その限りではない。
(三) その他、本来の使用範囲を超える場合。

本条に対する解説:本条は、先に使用された未登録商標の継続的使用のための条件に関する詳細規定である。本条の目的は、商標権の登録取得の制度を害することなく、商標登録者と商標の先使用者の間の利益のバランスを取り、市場ですでに一定の影響力を持つ未登録商標の先使用者の権利と利益を保護することにある。
 「一定の影響力を有する商標」は、2つの要件を満たす必要がある。第一に、中国国内において先に使用され、その地理的範囲が中国国内に限定されること;第二に、一定の範囲の関連公衆に知られていること。
 「一定の範囲」とは、一定の地理的範囲および一定の業界を含む範囲である。
 「関連公衆」とは、商標を使用するある種類の商品又はサービスの消費者、上記の商品を生産し又はサービスを提供する他の事業者、及び流通経路に関与する販売者及び関係者などを指す。関連公衆を決定する際には、商品又はサービスの性質、種類及び価格等の要因がその注目度に及ぼす影響を考慮すべきである。異なる商品またはサービスは、異なる関連公衆に及ぼす。一般消費財(衣料品、食品など)の商標は、一般消費者を主な対象とする。より専門的な商品(例:大型機械)については、関連分野の従事者を対象とする。
 商標法第 59 条第 3 項を適用させるには、先使用者が以下の 5 つの条件を満たす必要がある。第一に、商標登録者が商標登録を出願する前に既に使用していたこと;第二に、商標登録者より先に使用していたこと;第三に、商標登録者が商標登録を出願する前の使用が「一定の影響力を有する」レベルに達していること;第四に、元の販売された商品または提供されたサービス、及び経営の地域を超えていないこと;第五に、商標登録者から適切な識別標識を付するよう要求された場合、その要求を応じなければならない。
 「一定の影響力を有する商標」の判断基準は、厳しすぎるものであってはならない。先使用者が、先に商標を一定の期間、一定の地域で、販売や広告の場面で使用し、公衆の間で商業信用を築いたことを証明できれば、通常、一定の影響力を有するとみなされる。先使用者は、同じ商品またはサービスにおいてのみ当該商標を使用することが認められ、この使用は、類似の商品またはサービス、類似の商標に拡大することはできない。先使用による抗弁の権利は、先使用者に一身専属する。先使用者以外の者は、先使用者の同意を得たか否かにかかわらず、商標法第 59 条第 3 項に基づき、侵害に該当しないとの抗弁を行う権利を有しない。

本文は こちら (路浩知財ニュースレター2023年1-2月号)