英国知的財産庁(UKIPO)は、英国におけるメタバース、NFT(Non-Fungible Token:代替不可能なトークン)、仮想商品、サービスに関連する商標出願を検討しているユーザーに対するガイダンスを発表した。
このガイダンスは、明確化のためのものであり直ちに適用される。
1.NFTについて
NFTは、暗号通貨ネットワークから生まれたもので、芸術品、収集品、ゲームなどの仮想または物理的な資産の所有権を証明するユニークで代替不可能なデジタル証明として機能するものである。
NFTはブロックチェーン上で記録される一意で代替不可能なデータ単位だが、関連する資産(通常はデジタル資産)と表裏一体であり、主に資産の所有権を表すために使用される。しかし、必ずしも著作権などの知的財産の所有権を表すものではなく、例えば、デジタルアート作品やオーディオファイルなどのユニークな作品をNFTとして「ミントする(新しいNFTを作る)」ことでブロックチェーン上に記録し、デジタル資産の所有権の証明・管理を可能にしている。
以上のことから、NFTだけでは指定商品・サービスの用語としては受け入れられない。それは、NFTに関連する資産が示されなければ、この用語は本質的に曖昧だからだ。UKIPOが9類において受け入れる商品例は;
*digital art authenticated by non-fungible tokens [NFTs]
(代替不可能なトークン[NFT]によって認証されたデジタルアート)
*downloadable graphics authenticated by non-fungible tokens [NFTs]
(代替不可能なトークン[NFT]で認証されたダウンロード可能な図形)
*downloadable software, namely, [list the type of goods], authenticated by non-fungible tokens [NFTs]
(ダウンロード可能なソフトウェア、すなわち、代替不可能なトークン[NFT]によって認証された[商品リスト])
*digital audio files authenticated by non-fungible tokens
(代替不可能なトークン[NFT]で認証されたデジタルオーディオファイル)
*downloadable digital files authenticated by non-fungible tokens [NFTs]
(代替不可能なトークン[NFT]で認証されたダウンロード可能なデジタルファイル)
上記例は、ニース国際分類第12版の9類「代替不可能なトークン(NFTs)により認証されたダウンロード可能なデジタルファイル」に沿ったものである。
NFTは主にデジタル資産に関連するものだが、NFTは物理的な商品を含むあらゆるものの認証に使用できる可能性がある。このことを踏まえ、NFTによる認証であることが明確に定義された物理的な商品も受け入れる。UKIPOが9類以外で受け入れる商品例は;
*artwork, authenticated by non-fungible tokens [NFTs] [Class 16]
(代替不可能なトークン(NFT)により認証された芸術品(16類))
*handbags, authenticated by non-fungible tokens [NFTs] [Class 18]
(代替不可能なトークン(NFT)によって認証されたハンドバッグ(18類))
*Training shoes, authenticated by non-fungible tokens [NFTs] [Class 25]
(代替不可能なトークン(NFT)によって認証されたトレーニングシューズ(25類))
NFTは、他の商品・サービスと同様に、オンラインマーケットプレイスを通じて小売として提供することができる。そのような慣行に沿い、UKIPOが受け入れる35類のサービス例は;
*Retail services connected with the sale of [e.g. virtual clothing, digital art, audio files] authenticated by non-fungible tokens
(代替不可能なトークンによって認証された(仮想衣類、デジタルアート、オーディオファイルなど)の販売に関連する小売サービス)
*Provision of online marketplaces for buyers and sellers of goods and services which are authenticated by non-fungible tokens
(代替不可能なトークンで認証された商品・サービスの買い手及び売り手のためのオンライン市場の提供)
また、クラブ会員やイベントへの参加などをNFTに関連付けることが可能なサービスもある。そのようなサービスは娯楽サービスとして41類に分類される。
NFTのその他の使用については、ケースバイケースで検討される。
2.仮想商品
仮想商品は、物理的な商品とは異なり、ニース国際分類の9類に分類される。これは、関連する商品が、基本的にデジタル画像などのデータから構成されているためで、「商品」または「xで出来た商品」という用語は、物理的な商品として簡潔性(Conciseness)と明確性(Clarity)の要件を満たさないために受け入れられないのと同様に仮想商品も扱われる。したがって、仮想商品は、明確に定義されている場合にのみ受け入れられる。9類で許容される用語の例としては、以下のようなものがある。
*downloadable virtual clothing, footwear, or headgear
(ダウンロード可能な仮想の衣服、履物および帽子)
*downloadable virtual handbags
(ダウンロード可能な仮想ハンドバッグ)
3. メタバースで提供されるものを含む仮想サービス
パンデミックの間、従来は対面で提供されていたサービスが、ビデオ会議、インスタントメッセージングなどのネットベースのアプリケーションの使用で仮想的に提供されるようになったものが急増した。UKIPOは、仮想的な手段で提供されるサービスを受け入れている。
*education and training services delivered by virtual means [class 41]
(仮想的手段により提供される知識の教授及び訓練(41類))
*conducting interactive virtual auctions [class 35]
(双方向性仮想オークションの運営(35類))
メタバースとは、仮想現実の一形態で、人々が仮想空間にアクセスし他人と交流することである。ビデオ会議のように仮想的な手段で提供できるサービスが、メタバース内で提供できない理由は原理的に存在しない。例えば、研修サービスをメタバース内で提供し、受講し、提供することも可能だ。そのためIPOはメタバースを通じて提供されるサービスを従来と同じ分類で受け入れている。UKIPOが受け入れ可能とするサービス例は;
*education and training services provided via the metaverse [class 41]
(メタバースを介して提供される知識の教授及び訓練(41類))
*conducting interactive auctions via the metaverse [class 35]
(メタバースを介した双方向性オークションの運営(35類))
すべての「メタバース」サービスに対して同じアプローチを取ることはできないかもしれない。なぜなら、メタバースにおけるサービスの発現は、従来の提供形態と同じ分類にはならない可能性があるからだ。例えば、物理的な世界での配達または消費のためにメタバース内で飲食物を注文することは可能かもしれないが、メタバース内で飲食物を「消費」するメタバースアバターは、43類のサービスを構成しないと思われる。メタバースを介した提供が具体的に言及されているが、求めるサービスがメタバース内で提供可能であることが直ちに明らかでない場合、審査官により明確化を求められる。
上記に該当するサービスは、実際に提供されるものが娯楽を目的とした仮想空間やメタバースへのアクセスであるという点で、実際にはより一般的なサービスのカテゴリーに含まれる可能性がある。そのため、以下のような例が考えられる;
*entertainment services, namely, provision of a virtual reality or metaverse based simulation gaming service
(娯楽サービス、すなわち、仮想現実やメタバース上のシミュレーションゲームサービスの提供)
4.通知と回答期間
審査官が出願された商標の指定商品・サービスを曖昧であると判断した場合、審査の一部として2008年商標規則第8条(2)(b)に基づき通知される。それに対して、出願人は2ヶ月以内に反論のための意見書を提出することができる。また、出願人は聴聞を請求する権利も有する。