過去10年間で、銀行における消費者の実店舗離れが加速し、ますますオンラインバンキングに移行している。その結果、銀行は次々と支店を閉鎖した。HSBC(香港上海銀行)やNatWest(ナショナル・ウエストミンスター銀行)などは2023年だけで100店舗以上の閉鎖を発表した。
インターネットバンキングの台頭、銀行アプリの開発、デジタルテクノロジーを活用して運営される新しい形態の銀行「ネオバンク」の設立は、新しい商標出願の統計データにも反映されている。第36類(金融サービスなどを含む)と、第9類(コンピュータソフトウェア、アプリケーションソフトなどを含む)や第42類(コンピュータソフトウェア開発などを含む)を組み合わせた新規商標出願件数は、市場における金融技術(「FinTech」)サービスの発展に興味深い洞察を与えている。
以下のグラフに示すように、2014年に英国で新たに出願されたFinTech関連の商標件数は、2013年の出願件数の約3倍であり、この急激な増加は、2011年に世界初の「完全に機能する」銀行アプリが市場に登場するなど、この時期に銀行アプリが台頭したことが影響していると思われる。
2014年から2019年にかけて、FinTech関連の商標の新規出願件数は上昇を続け、2019年には約6,000件の新規出願でピークを迎えたが、おそらく2015年頃に英国で初めて登場したデジタル・チャレンジャー・バンク(digital challenger banks)に後押しされたものと思われ、2017年から2021年にかけては、主にBrexit(英国のEU離脱)の影響で、すべての区分で新規の英国商標出願件数が全体的に急増したため、この期間のデータは多少偏っている可能性があるが、この時点に至るまでの出願件数の着実な増加を考えると、36類、9類、42類における商標出願は、この間も既存のトレンドにほぼ沿って継続したものと思われる。
2020年以降、FinTech関連の商標の新規商標出願件数は例年に比べて減少しており、現在のところ2023年もこの傾向が続くと見られている。もちろん、2020年から21年にかけては新型コロナウィルスのパンデミックの影響で経済的に不安な時期であり、2022年から2023年にかけてはインフレ懸念が高まっていることに留意しなければならない。
顧客のコスト意識が高まり、投資家も消極的になる中、既存の銀行がコスト削減を目指すのは理にかなっており、同様に、FinTechの分野では、新技術の開発資金を確保することが難しくなり、販売されていない製品の新しいブランド名を保護する必要性が低くなる可能性はある。
上のグラフからわかるように、2008年の金融危機後の数年間は、商標出願件数が比較的低迷していたことがわかる。国家統計局の数字によると、GDPが金融危機前の水準に戻ったのは2013年で、その頃から商標出願件数が増加し始めている。2018年には、英国の経済規模は金融危機前より11%拡大したたため、金融の安定と成長の回復は、商標出願件数にも反映されているようだ。
最近の国際通貨基金(IMF)の予測によると、2023年に英国が景気後退に陥ることはないということから、今後数年間、物価がより手頃な水準に低下し、商標出願件数が再び上昇傾向になるかどうか注目する必要がありそうだ。