ブランドは時代とともに変化・発展し、商標もしばしば変更される。ブランドの変化により、新たな商標出願が必要になるか、既存の登録が標識の変化を保護するために拡張するかをよく検討することが重要だ。
まず、登録した商標を使用するのが常に最も安全だ。これには、異議申立手続きにおいて登録商標に依拠する必要が生じたときに登録商標の真正な使用を証明するのに役立つなど、多くの理由がある。しかし、英国法およびEU法では、商標の識別的な要素を変えないという条件の下で、登録された形態とは異なる形態で商標を使用することが許されている。
EU一般裁判所の最近の判決(T-372/21:Sympatex Technologies 対 EUIPO)では、スペインのアパレルメーカー、リエ・エスパニョラ(Liwe Española、以下「Liwe」)は、他の商品およびサービスの中でも特に衣服に関するEU商標「INSIDE.(登録番号:009489436)」の真正な使用を立証しなければならなくなった。Liweはこの登録商標に基づき、ドイツのシンパテックス(Sympatex Technologies、以下「シンパテックス」)の類似する商品・サービスを指定する「Sympathy Inside」という商標出願に異議を申立てた。Liweの「INSIDE.」商標は登録後5年以上経過していたため、シンパテックスはLiweに対して「INSIDE.」商標の真正な使用を証明するよう請求することができた。Liweは、主に以下のような様式で商標の使用したことを証明する証拠を提出した;
EUIPO(欧州連合知的財産庁)の異議部は、Liweが提出した使用証拠が、「INSIDE.」商標登録が衣服、履物、帽子に関連して真正に使用されていることを立証するのに十分であるとみなした。その結果、異議申立は25類の複数の商品と35類のサービスに関して認められた。シンパテックスはこの決定を不服として審判請求し、審判でも敗れたため、EU一般裁判所に上訴した。シンパテックスの主張は、提出された証拠では、「IN」を囲む円が「INSIDE」を「IN」と「SIDE」の2つの単語に分断されているため、識別力のある要素が変更されており、「INSIDE.」商標の真正な使用と見なすことはできないというものであった。さらに、シンパテックスは、使用された標識では省略された句読点(.)が重要だと指摘し、標識と登録商標との間の全体的な外観的および観念的な相違が、それらの特徴を変更するのに十分であると見なすべきであると主張した。
EU一般裁判所は、関連する公衆が問題の標識を広く同等と見なすか、また、上記の標識の特徴が登録商標「INSIDE.」と異なるかどうかを検討した。裁判所はシンパテックスの主張を退け、上記の標識では、書体、色、および「IN」の周りの円は装飾的な機能のみを有しているに過ぎないと結論づけた。裁判所にとって重要なのは、単語要素のすべての文字が同じ書体、同じ大きさで同じ行に配置されていることで、様式化されていても、図が「inside」という単語で構成されていると理解されると判断した。さらに、裁判所は、標識の最後に句読点が付いていないことはわずかな違いに過ぎないとし、これらの相違は登録された商標の識別的な要素の変更にはあたらないとの判断を示した。
さらに裁判所は、商標が登録された形態と異なる形態で使用されたかどうかの検討は、異なる形態自体が商標として別途登録される可能性があるという事実によって影響されないことを確認した。
この事例は、登録された形態と異なる形態で標識の真正な使用を立証することは可能であるが、その使用が有効と見なされないリスクを伴うことがあり、その結果、長くて不必要な紛争につながり、登録された権利にリスクをもたらす可能性があることを強調している。ブランドの変更に際して新たな商標登録が必要かどうかの判断が難しい場合、専門家に相談することを勧めたい。
本文は こちら (Evolving brands and genuine use of trade mark registrations)