商標の登録は、絶対的理由(1999年商標法第9条)または相対的理由(1999年商標法第11条)のいずれかにより拒絶されることがある。商標法第9条は、商標が識別力を欠き、登録に適さないと判断される条件を規定している。つまり、商標は本質的に識別力がなくてはならず、人は所有者の商標を市場にある他人の商標と区別することができなければならない。もし、所有者の商標が他人の商標と類似しているのであれば、消費者は両商標を互いに関連付けることになり、混同の虞が生じることになる。市場の混乱を避けるために、両商標には明確な違いがなければならない。
第9条では次のような商標に識別力があるとされる;
1. ある者の商品・サービスを、他人の商品・サービスから一目で容易に識別することができる
2. 商品・サービスの種類、品質、量、意図する目的、原産地、商品・サービスの価値や特性を示すものではない
3. 現行言語において又は公正な確立した取引慣行において慣習的となっている
商標の識別性については、最近、アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)とデリー商標登録局が争った事件で、ADGMの出願商標(右上図)について、商標登録官補が決定した拒絶査定をデリー高等裁判所が覆した。この商標を出願したADGMは、アラブ首長国連邦の首都アブダビのアルマリヤ島にある国際金融センターおよびフリーゾーンである。ADGMには、国内外のさまざまな企業や機関が入居しており、事業を立ち上げ、事業の拡大を実現するための安全なプラットフォームとなっている。ADGMは右上図の商標を出願したが拒絶された。商標登録官は拒絶理由を次のように説明している;
1. 標章は造語や創作ではなく識別力があるとは思えない
2. 標章には「ABU DHABI(アブダビ)」が含まれているが、これは地理的表示であるため識別力がない
ADGMは、出願商標の要部である図形(右中図)は既に登録されており、その識別力は確立されていると主張した。文字「ABU DHABI GLOBAL MARKET」との結合商標の文字部分は、アラブ首長国連邦(UAE)の連邦法(2013年2月11日付連邦令第15号)に基づいて出願人が採用したものである。したがって、ADGMはそのロゴに「ABU DHABI」を使用する権利を有するというものであった。
両者の意見を聞いて、デリー裁判所は、登録審査で登録官が下した査定に誤りがあると指摘した。冒頭、この査定には不合理な点があるとした。裁判所は、商標に関しては登録のために商標が「造語」または「創作」であることを要件としていないと述べた。商標は確かに識別力がなければならないが、創作的である必要はなく、さらに、使用者の宣誓供述書は商標の識別力を立証するものではないとも説示した。識別力は、商標が所有者の商品やサービスを他の人のものと区別することができる場合にのみ立証される。
裁判所は、出願人が主張した前述の理由を支持し、出願人が商標に「ABU DHABI」を使用することを正当に認められていることから、出願された結合商標には識別力があるとの判断を示し、以下のように出願人に有利な判決を下した;
1. 商標登録官補の拒絶査定を破棄する
2. 出願商標(出願番号3184380)の公告手続きを認める
商標法第9条の規定を見ると、商標は、所有者の商品やサービスを他の人のものと区別できるような形で採用されなければならないということが分かる。どんなにシンプルな標章(文字や図形)であっても、誰もその標章やそのバリエーションを使用していない場合は、識別力のある標章とみなすことができる。例えば、「Apple」という有名な商標がある。文字「Apple」や図形の「Apple(右下図)」を見て真っ先に思い浮かぶのは、その商標の下で販売されている電子機器である。ここでは、文字と図形の標章は識別力を有するとされる。文字や図形を見て消費者が何かと混同することはない。
商品やサービスに関して、消費者が明確に区別することができるのであれば、その標章は一点の疑いもなく識別力を有するとみなせる。