2023-06-13

ブランドの背景にある物語:シャネルNo.5 - R. K. Dewan & Co.

 ブランドとは、単なる名前やロゴではなく、長い時間をかけて築き上げられた物語であったり世代から世代へ受け継がれたりするものが具象化されたものだ。すべてのブランドの背景には、アイデンティティを形成し、成功に寄与してきた豊かな歴史とユニークな状況が存在する。これらの物語はブランドの重要な一部となり、ブランドロイヤリティを築き、顧客との不可欠なコミュニケーションツールとなっている。今回はシャネルNo.5にスポットライトを当てたものだ。


ロシアより愛をこめて
 シャネルNo.5(香水)は、世界で最も象徴的な香りの一つであり、その起源にはちょっと興味をそそられる。シャネルNo.5は、伝説のファッションデザイナー、ガブリエル・ボヌール・ココ・シャネルによって1921年に発売されたものだが、ココ・シャネルは、モダンな女性らしさのビジョンを具象化するような香りを作りたいという願望からインスピレーションを得たものだ。  

 しかし、シャネルNo.5がロシアや石鹸と深い関わりがあることを知っているだろうか?
それは、フランスのオートクチュール・デザイナー、ココ・シャネルが、ロシア貴族のドミトリー・パヴロヴィチ大公と恋に落ちたことから始まった。20世紀初頭、パリで出会った2人はすぐに恋に落ちた。

 この頃、ココ・シャネルは時間と共に広がり、直ぐには薄れることのない深い香りを作りたいと考えていたが、当時フレッシュな香りを作るにはレモン、ベルガモット、オレンジなどの柑橘系の香りしかなかったため、新しい香りを作り出せる調香師を探すのに苦労していた。柑橘系の香りは魅力的ではあるが、肌の上で持続することはなかった。

 そこで、パヴロヴィチは、ロシアの化学者で調香師のアーネスト・ボーをココ・シャネルに紹介した。ボーは、細部にまで細心の注意を払い、複雑で深い香りを作り出す能力があることで知られていた。ボーはロシア王室のために香水産業の中心地であるグラースで働いていた。ボーは好奇心旺盛で大胆な職人であり、ココ・シャネルから「フレッシュさを具象化するフレグランスを作りたい」という要望を受けた。ボーは数ヶ月かけて香りを完成させ、最終的に1から5、20から24の番号をつけた10種類の香水サンプルをココ・シャネルに提示し、すべてのサンプルが試されたのち5番が選ばれた。 

 ココ・シャネルにとってサンプル番号5の何が特別だったのか、数あるサンプルの中からなぜそれを選んだのか、これもまた興味深い話である。

 シャネルNo.5の成功の秘密は、香水でよく使われる有機化合物のアルデヒドを使い、香りに清潔感や石鹸のような香りを持たせたことにある。ボーはサンプル番号5にアルデヒドを大量に加え、フレッシュでモダンな香りを作り出した。アルデヒドの使用によって、フレッシュで長持ちする香りを作りだせたことは調香における画期的なものとなった。

 アルデヒドの濃度を高くしたため、石鹸のような香りがすることから、ココ・シャネルは他のサンプルよりも5番を選んだのだ。この石鹸の香りは、コインランドリーをしていた母親の手伝いをしていた幼少期を思い出させるもので、石鹸と清潔な洗濯物の香りは、幼少期の日々に常に存在し、記憶に深く刻み込まれていたそうで、その香りは、馴染み深さとモダンさを併せ持ち、ココ・シャネルが思い描く「現代の女性らしさを具象化する香水」のイメージを見事に表現していた。 

 この香水は瞬く間にヒットし、瞬く間に高級感と洗練のシンボルとなり、マリリン・モンローをはじめ、世界中の有名な女性たちに愛用された。今日、シャネルNo.5は、世界で最も愛される香水であり続けている。一方で、数え切れないほどの模倣品が生み出され、それ自体が文化的なアイコンとなった。しかし、この香水の誕生秘話は、どんなに華やかで豪華なものでも、その始まりは慎ましいものであることを思い起こさせるものであり、コラボレョンが持つ力、そして本当に特別なものを作るときに小さなディテールにまで注意を払うことの重要性を物語っている。

本文は こちら (Stories behind Brands – Chanel No.5)