2023-08-31

EU:グーグル広告の商標権侵害事件における管轄権に関するCJEUの判決 - Novagraaf

 オンラインで商標権侵害が行われた場合、どの裁判所に管轄権があるのか。最近のCJEU(EU司法裁判所)の判決では、メタタグとGoogle Adsの商標権侵害をめぐる紛争において、この問題が検討された。Volha Parfenchykが解説する。 

 EU法には、商標権侵害事件におけるEU各国の裁判所の管轄権を決定するための規則がいくつか含まれている。EU商標理事会規則(EUTMR)第125条(国際管轄権)では、商標権者は、侵害行為が行われ若しくはその虞がある加盟国の裁判所において商標権侵害訴訟を提起することができると定めている。しかしながら、侵害が行われた場所を特定することは、特にオンラインの場合は必ずしも容易ではない。

グーグル広告の商標権侵害:管轄権の問題
 背景として、「Watermaster」商標を付して掘削機械(水陸両用浚渫船)を製造・販売するフィンランドの会社Lännen MCE(以下、Lännen社)は、ドイツの2社(Berky社とSenwatec社)に対し、オンライン上で権利を侵害されたとして訴訟を提起した。Lännen社は、Berky社がFlickr.com(ネット上の写真共有データベース)において、Berky社の機械をヒットさせるためにメタタグとして「Watermaster」という文字を使用し、権利を侵害されたと主張した。また、Lännen社は、Senwatec社のウェブサイトへのリンク広告で、Senwatec社がGoogle.fiのGoogle Adwordの用語として「Watermaster」を使用したとして、権利が侵害されたと主張した。
 重要なのは、広告リンクにもSenwatec社のウェブサイトにもフィンランドという地理的な言及が欠けていたことである。特にウェブサイトでは、Senwatec社が活動している国の地図が掲載されていたが、その中にフィンランドは含まれていなかった。Lännen社は、Senwatec社の機械が販売されている国としてフィンランドが直接挙げられていないことは関係なく、むしろ、広告は英語で記載されているので国際的な公衆に向けられたもので、広告が目にすることのできるすべての公衆が対象だと主張した。  
 Lännen社は、侵害行為はフィンランドで行われたとして、フィンランドの裁判所に管轄権があると主張し、フィンランドの裁判所に訴訟を提起した。フィンランドの裁判所は、CJEUにこの事件を付託し、この事件の管轄権を主張するために目下の主張が適切かどうか、また他の要素を考慮しなければならないかどうかを明らかにするよう求めた。

管轄権の評価要素
 まず、CJEUは、国内裁判所の管轄権を決定するために、国内裁判所が全面的な審査を行うことは期待できないとした。その代わり、侵害行為が加盟国の領域内で行われた、またはその虞があるという合理的な推定を生じさせる証拠があれば、その加盟国の国内裁判所が管轄権を認めるのに十分であるとしている。
 さらに、CJEUは、この問題に関する過去の判例を繰り返し、侵害の疑いがある行為は、そのような広告や販売先の消費者や取引業者が所在する加盟国の領域で行われたとみなされると述べている。
 しかし、今回のケースでは、商品の地理的なターゲットはグーグル広告に記載されていなかった。また、Senwatec社のウェブサイト上の地図は、フィンランドとの関連を立証するには不十分であった。したがって、製品の販売地域に関する正確な情報がない場合、フィンランドとの関連要素が存在するとしても、他の要素に基づいて立証しなければならない。

 これらの要素を立証するために、裁判所はさらに過去の判例、特にPammer事件とHotel Alpenhof事件のjoined casesを引用した。この判決には、活動が特定のEU加盟国に向けられたものであるかどうかを評価する際に関連する要素の例示が含まれている:
* 活動の国際性  
* 会社が設立されている加盟国の言語や通貨以外の言語や通貨の使用
* 国際電話番号の記載
* 様々な加盟国に居住する顧客で構成される国際的な顧客層に関する記載
* 他の加盟国に居住する消費者が業者や仲介業者のサイトにアクセスしやすくするためにデジタルレファレンスサービスへの出費
* 業者が設立されている加盟国以外のトップレベルドメイン名(TLD)の使用

 Lännen社の事件では、販売者が設立されている加盟国以外のTLDを持つウェブサイトでの広告や販売の提供(最後の2つの要素)が特に関連している。

 グーグル広告の使用に関して、CJEUは、企業が他のEU加盟国のTLDを持つ検索エンジンのウェブサイト(Google.fiなど)の運営者に、自社のウェブサイトへのリンクを表示し、この国の消費者に自社の商品を表示するために支払うという事実は、この国とのつながりを立証するのに十分な要素であると認定した。判決によれば、Senwatec社によるLännen社の商標権侵害はフィンランド国内で行われたものであり、商標権者はフィンランド国内の裁判所に訴訟を提起できる。 

 これに対し、CJEUは、ジェネリックTLD(gTLD)下の写真共有データベースにおけるメタタグとしての「Watermaster」の使用は、十分な関連要素にはならないと判断した。gTLDのウェブサイト(Flickr.comなど)は、特定の加盟国の公衆を対象としていない。また、メタタグは、検索エンジンがそのウェブサイトに含まれる画像をよりよく識別できるようにし、利用者のアクセシビリティを高めることのみを目的としている。

CJEUのグーグル広告商標権侵害判決が意味するもの
 本判決は、オンライン商標権侵害の管轄権をどのように判断するかという問題(Google Adsとメタタグの事例において)に重要な明確性を与えるものである。問題の回答は、商標権侵害の申立てを行うEU各国の裁判所の管轄権を確立するために不可欠である。オンライン広告が現在、企業の商行為において重要な役割を果たしていることを考えると、この問題は特に重要である。

本文は こちら (CJEU rules on jurisdiction in Google Ads trademark infringement dispute)