事件の概要
上海万翠堂餐飲管理有限公司(以下、「万翠堂公司」という)は第12046607号登録商標(下図左) 、第17320763号登録商標(下図中)、第23986528号登録商標(下図右)の権利者であり、各商標の指定役務に第43類宿泊施設、飲食店などが含まれ、いずれも有効期間内にある。2021年5月21日、万翠堂公司は温江五阿婆青花椒魚火鍋店(以下、「五阿婆火鍋店」という)が店の看板に「青花椒魚火鍋」の文字を使用していることを発見し、五阿婆火鍋店がその商標権を侵害したことを理由に法院に訴訟を提起し、五阿婆火鍋店に侵害行為の即刻停止および万翠堂公司への経済的損失と合理的支出計5万元の賠償を請求した。一審法院は、五阿婆火鍋店の行為は商標権侵害を構成すると判断し、五阿婆火鍋店に権利侵害の停止および経済的損失と合理的支出計3万元の賠償を命じる判決を下した。五阿婆火鍋店はこれを不服として控訴した。
四川省高級人民法院は二審において次のように判断した。青花椒(イヌザンショウ)は四川料理の調味料として広く知られている。宿泊施設、飲食店のサービスと料理・調味料の間には自然発生的な繋がりがあることから、係争商標と「青花椒」の文字を含む料理名は識別する上で互いに混同が生じ、係争商標の顕著性を著しく低下させるものである。係争商標の弱い顕著性という特徴からその保護範囲を過度に広げることは好ましくなく、そうでなければその他の市場主体の公正使用を妨害し、公平な競争が行われる市場の秩序に影響を及ぼす。本件において、五阿婆火鍋店の看板に含まれる「青花椒」の文字は、その提供する料理である魚火鍋(海鮮鍋)に青花椒という調味料が含まれる特徴の客観的な記述であり、単独の際立った使用ではなく、万翠堂公司の係争商標を悪用する意図はなく、関連公衆の混同または誤認を簡単に生じさせることはない。五阿婆火鍋店の行為は公正使用であり、商標権侵害を構成しないことにより、一審判決を取り消し、万翠堂公司のすべての訴訟上の請求を却下する旨の判決を下す。
典型事例の意義
本件二審判決では商標の公正使用の認定基準が明確にされ、「権利には境界線があり、行使は誠実でなければならない」という「根本的な道理」が言及されている。二審判決は一般大衆の常識、一般的な心情および社会通念を十分に尊重し、誠実で、正当な経営を行う小型・零細企業の正当な権利利益および公平な競争が行われる市場の秩序を法により守る内容となっている。
(事例出典:最高人民法院「2022年中国法院十大知的財産権事件」)