2023-12-20

韓国:優先審査の対象から「専門機関による先行技術調査および先行商標調査」を除外 ー Kim & Chang

 2023年12月19日付で韓国特許法および商標法施行令が改正・公布されることにより、特許/商標出願における優先審査の事由から、従来対象であった「専門機関に先行技術調査または先行商標調査を依頼した特許/商標出願」が除外されました。

 通常、韓国特許庁において特許出願の審査順序は審査請求が先に行われた出願順で行われ、商標出願の審査順序は単に出願順で行うことが原則とされています。これにより特許出願の審査請求日または商標出願日から最初の審査結果(拒絶理由通知または特許決定)が発行されるまでの期間は、特許では10~15カ月程度、商標では10~14カ月程度が要されるのが現状です(韓国特許庁2023年発行『2022年知識財産統計年報』、第134頁)。ただし、こうした審査順序の例外として、特定の事由に該当する出願に限り他の出願より優先して審査を行うことができる、いわゆる「優先審査制度」が存在します(特許法第61条、商標法第53条)。

 特許法、商標法における優先審査の対象となる事由としては、「特許出願公開後に、特許出願人でない者が業として特許出願がされた発明を実施している場合」(特許法第61条第1号)と、「商標登録出願後に、出願人でない者が商標登録出願がされた商標と同一・類似の商標を同一・類似の指定商品について正当な事由なしに業として使用していると認める場合」(商標法第53条第2項第1号)」があり、すなわち「第三者実施/使用」の場合のみが明示的に条文に規定されています。それ以外の優先審査事由については、下位法令(特許法/商標法施行令)に一任されています(特許法第61条第2号、商標法第53条第2項第2号)。

 下位法令としての特許法/商標法施行令には、様々な優先審査の事由が規定されているところ(特許法施行令第9条各号、商標法施行令第12条各号)、その中で特に外国企業が多く利用してきた優先審査の事由としては、次の2つを挙げることができます。
(i) [特許出願のみ該当]韓国特許庁長が外国特許庁長との間で優先審査をすることに合意した特許出願(いわゆるPPHまたはPCT-PPH、特許法施行令第9条第10号)
(ii) [特許/商標出願のどちらも該当]優先審査の申請人が所定の専門機関に先行技術/商標の調査を依頼した場合であって、その調査結果を特許庁長に通知するように当該専門機関に要請した特許/商標出願(いわゆる専門機関への先行技術/商標調査依頼出願、特許法施行令第9条第11号、商標法施行令第12条第8号)。ただし、(ii)の事由は国際商標登録出願に対しては適用されない (商標法第189条第2項)。

 (i)の事由で優先審査を申請するためには、事前に外国特許庁や国際調査機関から肯定的な審査結果を得ているといった、いくつかの要件が必要になります。これに対し、(ii)の事由による優先審査申請は、こうした特別な要件なしに、特許庁が定めた機関に所定の費用を支払って先行技術/商標調査を依頼すれば容易に申請できるという理由から、これまで国内外の企業を問わず、(ii)の「専門機関への先行技術/商標調査依頼」は優先審査申請の事由として最も多く活用されてきました。
* (2022年に申請された優先審査の事由のうち、「専門機関への先行技術/商標調査依頼」は特許約13,000件、商標約16,000件で、「自己実施/使用」は特許約9,000件、商標約20,000件(韓国特許庁2023年発行『2022年知識財産統計年報』、第124~127頁))

 こうした状況に対し、今回の特許法/商標法施行令の改正では、「専門機関への先行技術/商標調査依頼」が優先審査の対象から除外されました(特許法施行令第9条第11号、商標法施行令第12条第8号が削除)。 これまで特許庁は、優先審査の対象件を処理する内部指針として「第三者実施/使用」または「自己実施/使用」を事由とした優先審査については原則的に優先審査決定日から2カ月以内に審査結果を通知し、「PPH」または「PCT-PPH」を事由とした優先審査については4カ月以内に通知する一方で、「専門機関への先行技術/商標調査依頼」による優先審査については8カ月以内に通知するものとしており、よって優先審査の事由に応じて審査の迅速性に違いを持たせてきました。これに対し、今回の特許法/商標法施行令の改正は、「専門機関への先行技術/商標調査依頼」を優先審査の対象自体から除外するものです。
 今回の特許庁による改正の背景としては、「専門機関への先行技術/商標調査依頼」による優先審査の申請件数が大きく増加していることがあり、このことによって、より緊急な処理を要する他の優先審査の対象件の審査が十分迅速にはなされていなかった点を考慮したものと見られます。

 今回改正された特許法/商標法施行令は2024年1月1日から施行される予定で、2024年1月1日以降に提出される優先審査申請においては「専門機関への先行技術/商標調査」を申請事由として活用することができなくなります(改正特許法施行令附則第3条、改正商標法施行令附則第2条)。したがって、現状、「専門機関への調査依頼」を事由とする優先審査申請を行う予定がある場合には、今年(2023年)中に申請する必要がある点に留意する必要があります。特に商標出願については、2022年の時点で平均の審査処理期間が約14ヶ月程度まで長引いている状況であり、優先審査を行おうとする場合に申請事由として「第三者使用」または「自己使用」が利用できない場合には、今年中であれば「専門機関への商標調査依頼」を事由として優先審査を申請し、早期の権利化を検討することができます。

 なお、2023年12月19日に公布されたデザイン保護法施行令も、上記と同一の趣旨により、「専門機関への先行デザイン調査依頼」 (デザイン保護法施行令第6条第13号)を優先審査の申請事由から除外しており、この改正規定は2024年1月1日から施行される予定です(改正デザイン保護法付則第1条ただし書)。