最近カナダの連邦控訴裁判所(以下、控訴裁判所)は、Dragona Carpet Supplies Mississauga Inc.(以下、Dragona Mississauga)の主張を斥けた連邦裁判所の判決(2022 FC 1042)を不服としたDragona Mississaugaの控訴を棄却した。その際、控訴裁判所は、商標のライセンスと有効なライセンスを立証するために必要な管理の程度を立証することに関して、示唆に富む見解を示した。また、控訴審において、パッシングオフの主張における「営業権(goodwill)」の評価方法についても検討した。
連邦裁判所判決では、Dragona Mississaugaの登録商標が抹消され、Dragona Carpet Supplies Ltd. (以下、Dragona Scarborough)に対するパッシングオフの主張が斥けられ、パッシングオフに関する請求は棄却された。控訴審において、Dragona Mississaugaは、連邦裁判所がパッシングオフの主張を否定したことにのみ異議を唱え、登録商標の抹消に関する下級審判決に対しては控訴しなかった。Dragona Mississaugaは、連邦裁判所がDragona Mississaugaに「Dragona」に関する営業権は存在せずDragona Scarboroughの行為は不当表示ではないとした判断は誤りであると主張した。
本件の当事者である Dragona MississaugaとDragona Scarboroughは、同族関係者によって経営される床材関連の製品を販売する 2 つの別事業体である。Dragona Mississaugaは主にミシサガ(カナダ・オンタリオ州)で営業しており、Dragona Scarboroughは主に英国のスカボローで営業しているが、グレーター・トロント・エリア全域にも顧客を有していた。Dragona Scarboroughの元社長は、2012年までDragona Mississaugaの株式50%を所有していたが、その株式をDragona Mississaugaのもう一人のオーナーに売却した。1984年に営業を開始したDragona Scarboroughは、「Dragona」商標を最初に使用し、その後長期間にわたり、両社は自らのビジネスに関連して「Dragona」商標を使用していた。連邦裁判所は、Dragona Mississaugによる「Dragona」商標の使用は、Dragon Scarboroughからの(口頭による)ライセンスに基づくものであると認定し、控訴裁判所もこれを支持した。ライセンスが成立したという連邦裁判所の認定により、Dragona Mississaugaが「Dragona」商標を使用したことで発生した営業権は、Dragona Scarboroughに帰属するため、Dragona Mississaugaには「Dragona」商標に関する営業権は存在しないと判断した。
Dragona Mississaugaは、以下の2点を不服として控訴した。(1)連邦裁判所は営業権に関する正しい法的評価(legal test)を適用しておらず、法律上の誤りを犯した、(2)連邦裁判所は、Dragona Mississaugによる「Dragona」商標の使用から発生した営業権は、口頭のライセンスによりDragona Scarboroughに帰属すると認定した点で誤りを犯した。
しかしながら、結果的に控訴裁判所は両主張を斥けた。
第一に、連邦裁判所が営業権の存在で関連市場セグメントを特定しなかったことにより、法律上の誤りを犯したとのDragona Mississaugaの主張に対して、連邦裁判所は、両当事者の顧客を請負業者、小売業者、一般公衆と特定したが、最終的には、営業権分析を顧客集団の1セグメントに限定するのではなく、両当事者の顧客全体の営業権を考慮したもので、控訴裁判所は連邦裁判所の判断に誤りはないとして、「あるグループで明らかに混同される虞がある一方で、別のグループでは混同される虞がない証拠が示す場合には、特定のタイプの消費者に対する個別の分析が必要となる」ものの、「本件はそれに当てはまらない」とした。
第二に、Dragona Mississauga の 2012 年以降(2つの事業体の所有権が実質的に分割された時)の 「Dragona」 商標の使用から生じる営業権は、ライセンシーによるライセンス商標の使用から生じる営業権は、ライセンサー がライセンシーによってその商標の下で提供される「商品またはサービスの特性または品質を直接または間接的に管理」している場合に限り、ライセンサー/所有者に発生するとした商標法第50条(1)に基づき、Dragona Scarborough に発生するとした連邦裁判所の判断は明白な誤りであるとのDragona Mississaugaの主張に対して、控訴裁判所は、連邦裁判所の判断が「Dragona Mississaugaの最終的な商品およびサービスに対する管理を主張するDragona Scarboroughの言葉を単純に鵜呑みにするという誤りを「犯す危険に近づいていた」ことに注目したが、何らかの誤りが犯したとは認定せず、連邦裁判所はDragona Scarboroughが提出した証拠に基づき、「Dragona」商標の使用に対して十分な管理を行っていると判断した。
この結論を裏付ける証拠はそれほど多くはなかったが、Dragona MississaugaがDragona Scarboroughが「Dragona」商標を所有しているという事実を認めたという証拠があり、控訴裁判所は、この事実は管理の問題と大いに関係があるとし、「この承諾は商標に関連する確立された基準を遵守する意思の証拠となり得る」と指摘した。
とはいえ、控訴裁判所は、所有権は管理を決定付けるものではないと釘を刺したが、2つの事業体にある商品の大半が同一であったことを含め、管理を示す最小限の証拠は本件の文脈から理解できるとした。
Dragona Mississaugaに帰属する営業権の欠如に関する認定を踏まえると、判断する必要はなかったが、控訴裁判所は、Dragona Mississaugaが、パッシングオフを立証するために必要な2つ目の基準である不当表示がなかったとする連邦裁判所の認定に対する控訴も取り上げた。
Dragona Mississaugaは、「Dragona」商標の口頭ライセンスにより、Dragona Mississaugaはトロントのヤング・ストリート(Yonge Street)の西側で商標を使用することができ、Dragona Scarboroughはヤング・ストリートの東側でのみ商標を使用することができたため、Dragona Scarboroughがヤング・ストリートの西側で商標を使用したことは不当表示に当たると主張した。
これに対して、連邦裁判所はこのような地理的な使用区分は錯覚であるとの見解を示したが、控訴裁判所は、Dragona Scarboroughは長い間(2012年に当事者間で所有権が実質的に分割される以前から)これらの地域全体で商標を使用していたため、実際には、重複する地理的な地域で「Dragona」商標を使用する法的権利があり、Dragona Scarboroughがヤング・ストリートより西側で商標を使用したことは不当表示に当たらないと指摘し、連邦裁判所の判断を支持した。
控訴裁判所は、複数の当事者がそれぞれ権利を有する商標を同時に重複して使用することは競争であり、違法なパッシングオフとは言えず合法であると強調した。
本文は こちら (Double Dragona – No Goodwill When Using the Defendant’s Trademark Under License)