一、はじめに
台湾の商標制度は登録主義を採用しており、経済部智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当。以下「智慧局」という)から登録査定を受けた後、商標権者はその商標を独占的に使用する権利を有し、他人が商標権者の承諾を得ずに商標を使用することは許されず、さもなければ民事上及び刑事上の法的責任を問われることになる。また、他人が同一又は類似する商品又は役務について同一又は類似する商標を登録出願した場合、智慧局が行政手続により、その商標登録出願について拒絶をすべき旨の査定をする。このように、台湾では、商標登録を早期に取得することにより、有効な攻撃・防御手段を有することができるというメリットがある。
外国企業が商標ポートフォリオをグローバルに展開する際に、事業展開のスケジュールや商標登録の費用など、あるいは現地主務官庁の商標審査処理件数の影響により、台湾で商標登録出願をしなかったり、商標登録を適時に取得できなかったりすることがあるが、当該企業の権利が台湾で侵害された場合、どのように法的救済を求めるのか。1つの創作やデザインが同時に複数の知的財産権取得の要件を満たし、複数の知的財産権による保護を享受することができるため、企業は著作権侵害又は公平交易法(日本の「不正競争防止法」及び「独占禁止法」に相当。以下「公平法」という)上の不正競争防止の関連規定に基づき、その権利を主張することができる。
最近、最高裁判所が下した110年(西暦2021年)度台上字第2923号民事判決はその一例である。この事件では、一審裁判所は、台湾企業が中国企業に対して500万台湾元(約2,322万円)を賠償すべきとの判決を下したが、二審裁判所は、一審の著作権侵害及び不正競争の判断を全面的に覆し、中国企業による賠償請求を棄却した。その後、中国企業は判決の一部を不服として最高裁に上告したが、最高裁は本件を二審に差し戻した。著作権侵害と不正競争をめぐる争点について一審と二審で差異があることから、商標権の保護を受けることができなければ、権利救済方法はより厳しくなることが明らかになった。以下、一審・二審判決について簡単に説明する。
二、著作権侵害と不正競争をめぐる争点に関する一審と二審の判断の大きな差異
(一)一審判決
本件において、原告は、台湾で第一審民事訴訟を提起した時点では、すでに中国で著作権登録と商標登録を取得し、台湾で商標登録を出願していたが、台湾では商標登録がまだ取得できていなかった。したがって、原告は、台湾商標法上の商標権侵害に関する規定に直接依拠して、被告の商品・役務に使用する図案が原告の「咪哒miniK」ブランドの図案と類似し、簡体字と繁体字だけが異なる「咪噠miniK」商標図案が原告の商標権を侵害したと主張することはできない。
また、原告は、以下のことも主張した。
被告がその美術著作を複製し公衆送信したことは「著作権侵害」を構成する。また、被告商品の外観デザインは原告商品と類似しており、原告の商品及び商標は台湾ですでに著名程度に達しており、その「咪哒miniK」マークは台湾で「著名表徴」に属するため、被告がそのウェブサイトで「輸入」、「総代理」という文字を使用したことは、原告と被告との間に協力関係、代理関係又はライセンス関係などがあると消費者に誤解を与え、誤認混同を生じさせるものであり、被告が自身のビジネスチャンス拡大するために原告の努力の成果を搾取するものであり、公平法第21条、第22条又は第25条に違反する。
(二)二審判決
しかし、控訴審において、著作権が譲渡されたことを踏まえ、控訴審は関連する事実と証拠を審理し、控訴した中国企業はそれが譲渡された著作権者であることを証明していないと判断し、著作権侵害の請求を棄却した。
中国企業が中国で所有する商標の知名度が台湾に及んでおり、台湾の関連事業者及消費者に普遍的に認知されるようになったという主張については、控訴審裁判所はこれを完全に否定し、また、「商標法は属地主義の原則を採用しているため、被控訴人が大陸地区で取得した登録商標をもって我が国で民事上の権利を主張してはならない」と改めて強調した。
一審判決では、「原告は台湾市場に参入した明確な時期や計画があることを示す証拠を提出する必要はなく、製品市場と地理的市場の二つの観点から、原告が競争者として台湾市場に参入し、既存業者に競争圧力を形成する可能性があると認定されるため、原告は台湾に営業及び拠点がなくても潜在的な競争者である」として公平法を適用した。しかし、これに対し、二審判決では、より厳しい判断が下された。「被控訴人は、台湾市場への参入を計画していると始終主張しているが、原審で被控訴人は台湾で事業を行っていないことを自認しており…したがって、被控訴人が提供した…商品及び役務はまだ台湾市場に参入しておらず、…さらに、被控訴人は大陸地区の法人であり、台湾で事業を行おうとする場合、法律に基づいて投資許可を申請しなければならない。また、ミニKTV商品・役務を販売・提供するためには、営業拠点を設置するか、販売代理店を募集する必要がある。しかし、被控訴人は…台湾市場に参入する可能性を示すいかなる証拠も提出しなかったため、消費者は容易に取引先を選択・変更することができない」とし、中国企業は本件に関して公平法の適用を主張することはできないと判断した。
三、まとめ
最高裁は、「著名商標」という観点からアプローチし、中国企業が提出した事実と証拠が、中国での登録商標が大陸地区の著名商標であるだけでなく、台湾の関連事業者や消費者にも普遍的に認知されていると判断するのに十分であるかどうかは、公平法上の民事賠償責任が本件に適用されるかどうかを判断する上で、重要な攻撃方法であると判断した。控訴審がこの問題を十分に審理しておらず、「著名商標」の要件事実とその根拠をどのように判断したかを説明していないとして、控訴審判決が破棄され差し戻しとなった。
本件のこれまでの判決結果を踏まえると、立証責任や法的責任の効果という問題があるため、商標法以外の救済方法より、台湾における登録商標によって商標法上の救済方法を主張するほうが有利であることが分かる。したがって、企業はできるだけ早い時期に商標全体のポートフォリオを計画することが望ましいと考えている。これは、貴社の商品の製造・販売の国や地域において、他人による商標の先取り登録や模倣を防ぐたけでなく、将来、何らかの法的紛争が発生した場合にも、貴社の権利を主張するための強力な根拠となる。
2024-01-11