2024-01-18

EU:ニベアが「Nivea」を含む商標に対する異議申立に勝利 ― Novagraaf

2023年11月、EU一般裁判所は、商標出願された「Nivea Skin-Identical Q10」と登録商標「SkinIdent」との混同の虞について判断を行った。

事件T-665/22(2023年11月8日判決)でEU一般裁判所は、先行する商標「SkinIdent」を理由に権利者が異議を申立てた「Nivea Skin-Identical Q10」商標の登録について、以下のように判断した;

* 「Nivea」は出願商標において要部である。
* 先行する商標に含まれる「SkinIdent」の要素は、全体としてみたとき関連する消費者には特定の意味を持たない造語である。

混同の虞に関する判断の背景
 2019年3月、ドイツの化粧品会社Beiersdorf AG(バイヤスドルフ)はEU商標「Nivea Skin-Identical Q10」を第3類「医療用のものを除くボディケア用及び美容用の化粧品」を指定して登録出願した。スイスに本店を置く化粧品会社SkinIdent AGは、2019年8月に「SkinIdent」に関する先行する権利に基づき、「Nivea Skin-Identical Q10」商標の登録に異議を申立てた:先行する商標は、 第3類の「化粧品」を指定して2003年5月16日に登録された商標「SkinIdent(第30317555号)」と同じく第3類の「化粧品」を指定して2003年8月28日に登録され、複数のEU加盟国を指定する国際登録商標「SkinIdent(第812547号)」である。「SkinIdent」は、「美容用化粧品」及び「化粧品」、「美容用化粧品」及び「化粧品」の分野における「消費者/高級品」の開発及び販売でドイツにおいて取引上使用される企業名である。

 異議申立は2021年7月1日に棄却され、「SkinIdent」はEUIPO(欧州連合知的財産庁)に審判請求したが、2022年8月18日EUIPOの第5審判部は、問題となる商品が同一であり、関連する公衆の一部にとって先行する商標に本質的識別力があることは認めたものの、両商標間に混同の虞はないとの判断を示した。 

 審判部はまた、SkinIdent AGの会社名と争われた出願商標の間には混同の虞はなく、両者の相違は先行する権利の識別力に関する機能を破壊する虞を排除するのに十分であると判断した。SkinIdent AGはEU一般裁判所に上訴した。 

混同の虞に関するEU一般裁判所の判決
 EU一般裁判所は、混同の虞の有無を判断するため、標識の要素について比較の観点から審理した。

 まず、SkinIdent AGは、「skin-identical」という語の要素は、出願商標の中で自律的で識別性を占めるもの(autonomous distinctive position)であり、「紛れもなく著名」である「Nivea」という要素と、商標の指定商品の記述的要素である「Q10」は、相反する標章間の混同の虞を評価するために考慮されるべきではないとして、出願商標の要素「skin」と「identical」の間のハイフンに識別力はなく、したがって、先行する商標との外観的・称呼的な違いを強調することはできないと主張した。 

 SkinIdent AGはさらに、ギリシャ、キプロス、ハンガリー、そしておそらくフィンランドにおいても、英語を話さない公衆にとって「identical」という要素は造語に映るだろうと主張した。しかしながら、審判部は、そのような一般の人々を考慮に入れた審理を行わず、そのため、審判部の審理は不十分で、関連する公衆の大部分が「identical」という要素の意味を「完全に同一のもの」であると理解すると結論づけたことで、評価を誤ったとも主張した。

 裁判所の判断は以下のようなものであった。2つの商標間の類似性の評価は、SkinIdent AGの主張に反して、複雑な商標の1つの構成要素のみを考慮し、それを別の商標と比較することに限定することはできない。商標の他の構成要素がすべて無視できる場合にのみ、要部のみに基づいて類似性の評価を行うことができる。いずれにせよ、「skin-identical」という要素は、ハイフンの追加と「ical」という語尾により、「skinident」という要素とは明らかに識別可能である。

 また、要素「Nivea」は、争われた出願商標の冒頭に位置し、商標の全体的な印象を支配していたため重要であり、さらに、ハイフンの存在は、この句読点によって、関連する公衆は、「skin-identical」という言語要素を、これらの2つの用語に対する公衆の理解とは無関係に、互いに明確に区別される2つの用語に分解することになるため、取るに足らないものと考えることはできない。

 同様に、裁判所は、SkinIdent AGの先使用権は単一の要素「SkinIdent」から構成されており、全体としてみれば、関連公衆には特定の意味を持たない造語であると認定した。争われた出願商標の「skin-identical」という言葉の要素は、2つの異なる用語で構成されており、それぞれの用語は、関連する公衆の大部分にとって明確かつ具体的な意味を持つものである。

 以上のことから、裁判所は出願商標がその各構成要素に対する公衆の理解とは無関係に、全体として以外で認識されることはあり得ないと考えた。したがって、「Nivea」の要素が出願商標において要部を占めており、先行する商標は、「skin」と「ident」の要素を分離することが不可能な一体を形成しており、これとは対照的に、争われた出願商標の「skin-identical」の要素は、理解しやすく、対象となる商品に関する識別力が弱いことを、審判部は正しく判断したと結論づけた。よって、控訴は棄却された。

本文は こちら (Nivea saves its skin in likelihood of confusion challenge)