2024-03-28

英国:商標の評判をめぐるテスラ社とテイクアウト店の争い - Novagraaf

 UKIPOは最近、自動車大手のテスラ社に有利な判決を下し、小規模なファーストフード店が保有していた「TESLA CHICKEN & PIZZA」の英国商標登録を無効とすることに成功した。

 この種の「ダビデ対ゴリアテ」事件はしばしば英国でニュースになる。 しかし、ブランド所有者や知的財産権者にとって、この判決は、商標の評判とコモンロー上の虚偽表示との間の(時には大きな)ニュアンスの違い、先行的なグッドウィル(営業上の信用)の概念、取引前の広告に伴う英国コモンロー上のグッドウィルなど、多くの重要な法原則に触れている。

背景
 テイクアウト店のオーナー、Amanj Ali氏は2020年8月、第43類の飲食サービスを指定して英国商標「TESLA CHICKEN & PIZZA」を登録し、この商標を根拠にテスラ社が第43類のレストラン及びテイクアウトサービスについて出願した「TESLA」(スタイライズした文字商標)の英国商標の登録に異議を申立てた。

 Ali氏の異議申立に対して、テスラ社は先行する登録商標「TESLA CHICKEN & PIZZA」無効を請求した。しかし、テスラ社が所有する権利には第43類を指定する先行する登録商標がなかったため、テスラ社は、自動車関連の商品・サービス(第09類、第12類、第36類および第37類)における評判を主張し、英国における「評判の良い商品」、アルコール飲料およびレストラン・サービスに関する未登録の権利も主張した。また、悪意の根拠も追加した。

英国におけるグッドウィル
 テスラ社は答弁書と提出書類において、「自動車、電気自動車用モーターに電力を供給するためのバッテリー、自動車の修理サービス、自動車用資金の貸付け」だけでなく、「アルコール飲料」と「飲食物の提供」を含む様々な商品とサービスにおいてグッドウィルを保有していると主張した。アルコール飲料商品とレストラン・サービスについて、テスラ社はそのグッドウィルが「先見的なグッドウィル」であることを示唆した。 

 テスラ社が提出した証拠により、テスラ社は自動車(全般)、自動車に関連する保守・修理サービス、自動車用バッテリーについて「TESLA」標章にグッドウィルを有していると認定された。

 アルコール飲料に対するグッドウィルを立証するため、テスラ社はイーロン・マスク氏が2018年に行った「Teslaquila coming soon…」というTESLAブランドのテキーラ(Teslaquila)に関するツイートと、後に英国の日刊タブロイド紙「ザ・サン」に掲載されたテキーラの販売に関する記事を提出した。聴聞審査官(hearing officer)は証拠を検討した結果、ツイートだけではまったく不十分であり、記事は米国におけるテキーラの販売に関するものであるため、英国におけるグッドウィルは証明されていないと判断した。

 レストランに関連して、テスラ社は2018年のマスク氏による「ロスアンゼルスの新しいテスラのスーパーチャージャーの場所に、昔ながらのドライブイン、ローラースケート、そしてロックなレストランを設置する予定」という別のツイートを証拠として提出した。これはテキーラの証拠よりもさらに弱いと聴聞審査官に揶揄されて認められなかった。従って、英国ではアルコール飲料とレストラン・サービスについては保護可能な(先行的)グッドウィルとして認められなかった。

 これは知的財産権所有者に対し、英国では単なる広告だけではグッドウィルを発生させるには不十分であるという一般的な法的立場を思い起こさせるものである(1867年のMaxwell 対 Hogg事件)。裁判所はこれをいくぶん緩和し、取引前の企業もグッドウィルを主張できるようにしたが、それでも「大々的な」広告が必要であり、満たすべき閾値がある(1965年のAllen 対 Brown Watson事件、1981年のBBC 対 Talbot Motor Company事件)。

 しかし、テスラ社が提出した証拠は、この種のグッドウィルがどのように存在しうるかの教訓として見ることができる。ツイッターを例にとると、マスク氏が X 社へのブランド変更についてツイートし、数週間から数カ月にわたって大々的な宣伝広告を行ったとすれば、X 社に先行的なグッドウィルが認められる可能性があった。 

商標の評判と不当表示
 本判決はまた、コモンロー上の権利に対するパッシングオフ(詐称通用)の根拠となるグッドウィルが、レストラン・サービスや自動車のような一般的な分野でない活動であっても、認められる可能性があることを示唆している。 

 グッドウィルと関連付けられる不当表示と認められるためには、通常、一種の「欺瞞」が必要とされるが、これを立証することは一般的にとても難しい。 

 聴聞審査官が行った電気自動車市場とその平均的消費者の実態に関する調査によると、テスラ社が英国内の電気自動車充電施設周辺に飲食店を提供できる商業的蓋然性があることが判明した。

 その結果、関連性と不当表示の両方が存在すると見なされた。英国におけるAli氏の商標の使用目的は、彼のレストランがテスラ社の充電ステーションに近接する可能性があることを意味していた。したがって、顧客は両者が経済的に関連していると欺かれることになり、営業上の不当表示も認められた。

悪意
 Ali氏は「TESLA CHICKEN & PIZZA」の商標権をテスラ社に譲渡する対価として75万ポンドを要求した。これにより悪意とみなされる。

 悪意は非常に重いものとして扱われるため、UKIPO(英国知的財産庁)や英国の裁判所において悪意と判断される根拠となる証拠や事実について閾値は高い。

 Ali氏は反論の中でテスラ社が自動車で名声を得ていることを認めており、聴聞審査官は、TESLA(テスラ)がセルビア人の姓でありテスラ社による創作ではないというAli氏の主張を認めなかった。そのため、「TESLA CHICKEN & PIZZA」という名称は、「TESLA」というブランドの名声にただ乗りするため、あるいは自動車会社のレストラン市場への参入を阻止するために造られたものであり、最終的には商標を譲渡することで金銭的対価を不当に引き出すためのものであると認定された。

 アルコール飲料やレストラン・サービスに対するテスラ社のグッドウィルに対する主張は失敗に終わったが、自動車に対する商標の評判が勝り、Ali氏の登録商標は全面的に無効(取消)となった。

本文は こちら (Tesla and takeaway in trademark reputation dispute)