商標登録による保護を得た後、知的財産権者はどのようにしてブランドとそこから派生する法的権利を強化することができるだろうか。
ブランドを構築・強化する方法の一つは、商標ファミリーを発展させることだが、商標ファミリーにより、広告、ブランディング、マーケティングに共通し、時間をかけて知的財産法を補完する、第三者に対して比較的確実かつ容易に権利行使できる真に強力なブランドを遺すことができる。
商標ファミリー
商標ファミリーは、どのような製品やサービスにも共通し、識別可能な要素でなければならない。主たる商標(ハウスマーク)に異なる文字要素が追加される。例えば、McDonald’sは、McDONUT、McPIZZA、McMUFFIN、McCHICKEN、McRIBといった一般的な商品名に「Mc」を組み合わせた商標ファミリーを構築したことで知られている。
共通の特徴を持つ登録商標のファミリーは、強力な商標ポートフォリオを形成し、保護と権利行使の可能性を高めることができる。また、新商品のために全く新しい商標を創り出す必要もなくなる。全体的に見たとき、単独商標では認められないケースでも、商標ファミリーでは、少なくとも関連する消費者側で連想される可能性が高いという結論に至ることがよくある。
しかし、商標ファミリーを構築する際には、バランスを取る必要がある。おそらく最も重要なことは、商標ファミリーの拡大によりハウスマークを一般名称的なものにしない(または一般名称的な方法で使用しない)ようにすることである。また、権利行使するためには、商標をそのファミリーの一部として一般消費者に認識されるように商標ファミリーを構築する必要がある。
追加される文字要素によっては(何らかのクリアランスチェックを必要とするものもある)、ハウスマークの商標登録を行い、識別可能な要素を含む他の派生商標を使用することで、単独の商標登録を広範な権利行使手段にすることができる。これにより、類似商標の商標出願(及びその費用)を回避することが可能になる。
他の例では、拡大する商標ファミリーの一部として造られた他の商標を登録出願することで、権利行使能力が大幅に強化され、成功の可能性が高まり、証拠収集費用が削減されるため、出願は価値ある投資となる。
未登録商標
英国およびEUの知的財産庁では、知的財産権者が商標ファミリーを有すると認定するためには、通常、少なくとも3つの商標を使用する必要がある。これらはすべて登録商標でなくてはならないが、商標ファミリーの原則には未登録商標も含まれる可能性は否定できない。
EUIPO(欧州連合知的財産庁)では、未登録商標の使用は通常の証拠で足りるというのが一般的な見解である。
いくつかの例で説明する;
* 英国における商標「PANASONIC」の権利者は、「PANA ROBO」、「PANASYNC/PRO」、「PANAFAX」(いずれも第9類に登録)、「PANASERT」、「PANAFLO」(未登録)の商標も使用していた。
* McDonald’sは英国で関連性のある商標権を有していなかったが、その商標ファミリーに基づき、英国で「McVEGAN」の商標登録を阻止することができた。同様に、McDonald’sは英国で「McBAILEYS」の商標登録も阻止した。
* ベイリーズ・アイリッシュクリーム(Baileys Irish Cream)の権利者のディアジオも、英国で「McBAILEYS」商標の登録に対する異議申立てが成功したことで、自社のハウスマークに追加する他の要素を常に考慮する必要性を示している。使用前にクリアランスチェックを行うことを勧めたい。
商標ファミリーは、一般的なブランド認知を強化し、より広範な保護を与えることができる。さらに、商標ポートフォリオを強化し、ブランドの権利行使を容易にできる。
一貫性
商標ファミリーを構築するには、戦略的かつ一貫したアプローチが必要だ。潜在的なブランド戦略が有用かつ効果的であることを保証するための重要な考慮事項は、商標ファミリー間に明確なリンクを確立することである。ファミリーではないとみなされた商標「JACK DANIEL’S」、「JACK」、「JACK ROCKS」に基づいて異議申立された商標「JACK & VICTOR」に関するUKIPO(英国知的財産庁)の決定は良い例となった。「JACK DANIEL’S」、「JACK」、「JACK ROCKS」の各商標の違い、特にコンセプトの違いは、「JACK & VICTOR」ブランドの商品によって消費者が混同する虞は低いと判断するのに十分とされた。
したがって、ブランド・ファミリーの基盤となるブランド・アイデンティティとその主要な属性を非常に早い段階で定義することが推奨される。その一環として、製品やサービスを分類し、サブブランドを作った方が良い場合もあるだろう。すべてのブランディング要素に一貫性を持たせることで、共通の識別可能な要素を中心とした、まとまりのあるブランド・アイデンティティが生まれるのだ。
認知されたブランドの存在感や評判を引き継ぐことができるため、市場拡大やクロスプロモーションが容易になる。ハウスマークを傷つけることなく、不評であればサブブランドの販売を簡単に中止したり、サブブランドの名称を変更する必要があっても、共通の識別可能な要素を残せば、消費者の信頼や認知度に大きな悪影響を与えることはないだろう。
スタイライズ(様式化)すること
法的に合意された商標ファミリーを構成するものではないが、同じ様式化された商標の使用は、権利行使能力を強化し、法的権利範囲の拡大に役立つ。
あるブランドが複数の異なる商標を登録し使用しているが、これらの異なる商標がそれぞれ同じように様式化されていたり、または非常に特徴的なフォントで使用されている場合、(著作権は別として)知的財産権者は、未登録の権利に基づく第三者の商標に対して強化された権利行使能力を享受することができる。特に英国では、「パッシングオフ(passing off)」というコモンロー上の不法行為が、登録に反対したり、第三者の使用を差し止めたりする根拠となる可能性がある。
ブランドが名声を享受している場合、例えばディズニーのフォントで書かれたものと同様の立場なる。つまり、不当表示や連想される虞がある。
本文は こちら (Brand development and IP: Building your family of marks)