2024-05-30

英国:黙認に関するEU法からの逸脱 - Marks & Clerk

 ブレグジットの移行期間が終了して約3年が経過し、英国の裁判所は、2023年12月に下された重要な判決「Industrial Cleaning Equipment (Southampton) Ltd 対 Intelligent Cleaning Equipment Holdings Co Ltd & Anor [2023]」において、維持されたEU判例法(現在では「同化法」として知られている)から再び逸脱することを選択した。特に、これまで適用されていたEU法の原則と同化していた法律を切り離すことを意図して2024年1月1日に施行された「維持された2023年EU法(取消及び改定):Retained EU Law (Revocation and Reform)Act2023」に照らして、最近の逸脱が時間とともにブレグジット前のEU法に基づく既存の知的財産原則からさらなる逸脱を促すことになるのか興味深い。  

 今回の逸脱は、黙認の抗弁に関するものであり、具体的には、先行する権利者が侵害者に対して権利を行使する時計の針がいつ動き出すかという問題である。逸脱の理由は判決の中で徹底的に検討されており、英国の裁判所が既存のEU法の原則から逸脱する際には、ある程度の注意が必要であることを示している。

制定法上の黙認
 制定法上の黙認は、商標権侵害および無効訴訟において利用可能な抗弁となる。これまでは、特にブレグジット以降、裁判所は2018年欧州連合(離脱)法第6条第7項により、「Budvar事件」で下されたEUの判例法に従っていた。
「Budvar事件」で示されたように、先行して登録された商標の所有者には、後に登録された商標の無効性の宣言を申請することができる連続する5年の期間が与えられており、この5年の期間は、先行する権利者が後願商標の使用と(明示的またはみなし的な)登録の両方を知った時点から始まるとされた。

 アーノルド判事は、「Budvar事件」が特別な判決で、そこから派生した原則は、限定された解釈からの「ありのままの結論」の結果であるという事実を強調した。さらに、現在の立場における議論の余地のある不備を強調し、アーノルド判事は、後願商標の登録を知るという要件が、制定法上の黙認期間を計算する際に時計の針が進むのを避けるために、ブランド所有者が商標登録簿を参照しないことを効果的に促しているという点で、被告の主張を支持した。

 最後に、アーノルド判事は、英国ではブランド所有者が登録商標を示すために「®」シンボルの使用を義務付けていないことから、商業的な状況を考慮した。従って、特に英国におけるブランド所有者と弁護士の間のコミュニケーションには秘匿特権によって保護されることが多いことを念頭に置くと、使用に関する要件と比較して、登録に関する要件を証明することはより難しい可能性があると考えた。

乖離
 「Budvar事件」で下された見解とは対照的に、アーノルド判事は、先行する商標の所有者が後願商標の登録を認識しているかどうかに関わらず、先行する商標の所有者が後願商標の使用を認識し、後願商標が登録された時点で5年の期間が開始されるべきであるとした。これは、時計の針が動き出す前に権利者が使用と登録の両方を認識しなければならなかった従来の立場からの顕著な変化である。

評価
 上述の「Budvar事件」の問題はさておき、同化法からの乖離を決定づけた重要な要因は、この原則がEUで未解決ということである。実際、アーノルド判事は、EUの知財実務と一般裁判所の判例法が「Budvar事件」におけるEU司法裁判所(CJEU)と対立していることを強調することが重要であり、後日、CJEUによって制定法上の黙認が再検討され、既存の原則が再評価される可能性は十分にあるとの考えを示した。

 今回の逸脱は、被告が第一の根拠(時計の針を動き出させるために先行する商標の所有者が後願商標を認識していなければならないかどうか)について上訴に成功したものの、第二の根拠については上訴に失敗し、商標権侵害の責任を負うとされた。しかし、本件における商標法の解釈の相違がもたらす結果は広範囲に及ぶ。間違いなく、新しい立場は、ブランド所有者が商標登録簿を注意して侵害商標を監視して適切な権利行使の措置を取ることを奨励するものである。同化された法律の他の部分が長続きするかどうかについては、時間の経過とともに明らかになるかもしれない。

本文は こちら (Divergence of law relating to acquiescence)