英国で最近下された商標権に関する判決において、英国最高裁判所は国境を越えた電子商取引と、グローバルなオンラインマーケットプレイスにおける英国およびEUの商標権を侵害する使用に関して「対象(targeting)」となるかを検討した。この判決がブランド所有者やグローバルビジネスにとって何を意味するのかについてLaura Morrishが概説する。
Amazon、Ebay、Alibabaといったオンライン販売プラットフォームの人気は、新型コロナウイルスのパンデミック以降に特に顕著となった。
Eコマースが提供する利便性と選択肢の幅広さは、この傾向が今後も続くことを示している。英国国家統計局によると、2023年12月、英国のインターネット小売売上高は29億ポンドに達した。
Eコマースの進化
ここ数年、Amazonは国際的に高い評価を得ており、消費財のマーケティングと販売では、主たるオンライン・プラットフォームとなっている。2022年には、Amazonが米国の小売におけるEコマース売上全体の39.5%を占め、オンラインで消費される5ドルのうち2ドル近くを占めると報告されている。
多くの小売業者にとって、Eコマースの成長により、自社ブランドの届く範囲を拡大し、収益にプラスの影響を与えることができるようになった。
しかし、オンライン市場での成功は、優れた製品を提供すること以上に重要なことがある。販売する優れた製品やサービスがあることは強力な基盤となるが、Eコマースの急速な進化は、方程式にさらに多くの要素を加えている。ここでの主な問題の2つは、選択肢の飽和と消費者の信頼への依存である。
オンライン市場は、地域や時間の制約を受けない。つまり、消費者は利便性や身近さに基づいて商品を購入する必要がなく、複数のプロバイダーが販売している商品の中から最も魅力的なものを選ぶことができる。
ブランドの信頼
供給が飽和状態になると、購買決定がブランドに影響されるようになる。
これが2つ目の要因となる消費者の信頼につながってくる。インターネットは消費者に多くの選択肢を提供するが、その中には低品質の商品や詐欺的な商品も数多く存在する。一貫したブランド・アイデンティティを持つことで、消費者の間に信頼を築くことができる。消費者は、ブランドの名前、ロゴ、スローガンを知り、認識し、他の人々がその商品を使用しているのを見る。
このような背景から、商標登録と、登録された権利を行使できることは、長期的に電子商取引市場で成功するために極めて重要になる。
しかし、こうした権利の保護がどの程度広範囲に及ぶのかは、明らかではない。インターネットのグローバルな性質やAmazonのようなプラットフォームは、英国の消費者が世界中の店舗やEコマース・プラットフォームから商品を閲覧・購入できることを意味する。
そのため、これらの販売プラットフォームを通じて発生した商標権侵害について、誰が責任を負うのか、また訴訟になった場合、管轄する裁判所はどこなのかといった問題が生じてくる。
オンラインマーケットプレイスにおける商標権の侵害
英国においてAmazonが関与した最近の裁判で、英国最高裁判所は国境を越えた電子商取引において、どのような行為が「対象」に相当するか、また、英国及びEUの商標権者が、グローバルにアクセス可能なオンラインマーケットプレイスに出品された商品に関して、第三者による権利の使用に対して、異議を申し立てることができるかについて検討する必要があった。
Lifestyle Equities CV(以下、「Lifestyle」)は、BEVERLY HILLS POLO CLUB(BHPC:ビバリーヒルズポロクラブ)ブランドに関する英国およびEU商標の所有者であり、独占的ライセンシーである。同じ商標の対応する米国の商標権は、無関係の事業体であるBHPC Associates LLCが所有している。
Lifestyleは、Amazonがその.comプラットフォームを通じて英国の消費者に米国ブランド商品を広告し販売することでLifestyleの商標権を侵害したと主張した。また、Amazonには、これらの商品を英国に輸入した販売者と同様に責任があると主張した。これらの行為はすべてLifestyleの同意なしに行われた。
Amazonは、amazon.co.ukとamason.euのウェブサイトがあることから、amazon.comが米国の消費者のみを対象としていることは明らかであると反論した。
当初、この主張でAmazonは一定の成功を収めた。高等法院は、amazon.co.ukのような国指定のサイトで広告、販売された米国ブランドの商品に関して、Lifestyleの英国とEUにおける商標権をAmasonが侵害したとの判決を下した。
高等法院は、一方でAmazon.comで同じように広告、販売された商品が英国の消費者を対象としているとは考えなかった。これに基づき、AmazonはLifestyleの商標を英国で「使用」しておらず、商標権侵害は発生していないと判断した。
控訴院は、高等法院の判決を覆す判決を下し、証拠にあるすべての広告と販売は、英国およびEUにおける商標の使用として商標権侵害を構成すると認定した。
控訴院は、結論に至るにあたり、以下の要素を考慮した;
* 米国のウェブサイトのトップページは、8つの異なる言語で60以上の異なる国で購入できること、商品を英国に配送できることを消費者に対して告知していた
* 検索結果のウェブページと商品詳細ウェブページは、商品が英国に配送・発送可能であることを示していた
* 注文のウェブページには、購入希望者が英国に在住し、配送先住所が英国、請求先住所が英国、支払通貨がポンドである場合、Amazonが商品を英国に配送し、英国に輸入(輸入関税の事前見積もりを含む)して英国の消費者に配送するために必要なすべての手配を行うことが示されていた
最終的に、Amazonが米国ブランドの商品を英国およびEUの消費者に販売することは、関連する地域における商標の使用を構成し、侵害的使用に相当するとした。
そして、英国最高裁判所は控訴院の判決を支持した。
グローバル企業にとっての意義
今回の判決は、グローバルな販売プラットフォームで事業を展開する企業や、その拠点がある国以外の国で知的財産権侵害の責任を負う可能性のある企業に大きな影響を与えるものとなろう。
企業はこれまで以上に、不用意に他の法域の消費者を対象にしないような措置を講じる必要があるだろう。英国への発送や英国の住所への配送が可能であることを含め、英国内の消費者が商品を購入できることを示す記述をすべて削除するために、ウェブサイトの変更が必要になるかもしれない。企業はまた、商品の代金をポンドで支払うオプションを削除する必要がある。より断固とした行動としては、対象の市場のみがアクセスできるように、ウェブサイトにジオブロッキング(Geo-blocking)を導入することなどが考えられる。
ブランド所有者の配慮
今回の判決はEコマース・プラットフォームに対して出されたものだが、自社のウェブサイトを通じて販売するブランド所有者も同様に慎重になるのが賢明だろう。販売開始前に商標調査を行い、販売先となる国に第三者のリスクがないかどうかを確認することで、管轄区域を越えた紛争が生じるリスクを軽減できる。また、理想的には対象市場での保護を求めることだ。
ブランド所有者にとっては、本決定により、英国を対象とするEコマース・プラットフォームに対して、そのプラットフォームの本国で商標保護がない場合でも、行動を起こす余地が広がる可能性がある。この決定により、ブランド所有者は侵害出品の削除を要求する自信を深め、おそらくEコマース・プラットフォーム側は、このような問題における自らの責任を軽減するための行動を取る傾向が強まる。
このような環境下では、オンラインブランド保護がさらに重要になる。Eコマース・プラットフォームを効率的に監視し、タイムリーかつ費用対効果の高い方法で侵害出品を削除する措置を講じることができれば、ブランド所有者はオンライン侵害との闘いにより強い一歩を踏み出すことができる。
本文は こちら (Lifestyle v Amazon: A milestone for online cross-border trademark infringement)