2024-05-29

EU:ソーシャルメディア上での商標の使用は使用証拠になるか? - Novagraaf

ブランドオーナーがソーシャルネットワーク上で商標を使用した場合、それは真正な使用の証拠となるのだろうか。商標とソーシャルメディアに関する最近のEU判決についてFlorence Chapinが解説する。

ソーシャルネットワーク上で商標を使用した場合、どのような場合に真正な使用の証拠となるのか。これは、EU一般裁判所が2024年2月7日、T-74/23事件で判決を下した際の問題であった。

事件の背景として、Caramé Holding AG(以下「Caramé」)は2016年3月1日に図形商標(右図)を第3類の「皮膚、爪、唇、目及び毛髪用の洗浄剤及び化粧品;香料、薫料及び香水類;化粧品;装飾用化粧品;つめ用化粧品:髪用化粧品;整髪用化粧品」の商品を対象にEUを指定して国際商標登録した。

Oriflame Cosmetics AG(以下「Oriflame」)は、2004年2月19日に登録した先行する国際商標第822851号(左上図)に基づき、Caraméの商標に対して2016年11月25日に異議申立を行った。この商標はブルガリア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、スロベニアを指定し、第3類の「石鹸、香水、精油、化粧品、ヘアローション、歯磨き」の商品を対象にしていた。

Oriflameは、2003年以来先行する商標を主たる商標(principal trademark)として、また単独の商標(standalone trademark)として商品やマーケティング資料など商業的に使用してきたと主張し、先行する商標に関連するガイドラインを文書化し、それをオンライン上に置き、独立した販売コンサルタントがソーシャルメディアで商品を宣伝し、カタログを配布し、サンプルを提供して注文を受け付けるイベントを開催することによって、直接販売で商品を市場に出していた。

様式化された商標と真正な使用の問題
Caraméの請求で、欧州知的財産庁(EUIPO)は、先行する商標の真正な使用の証拠を提出するようOriflameに求めた。その証拠を評価した結果、EUIPOの異議部は2022年4月4日に異議を棄却した。多くの企業が商品を識別するために完全な形態と略した形態の2つの形態の商標の使用は通常のことであり、例として、「Nespresso」、「Fila」、「Carlsberg」、「Disney」の完全な形態と、完全な形態の最初の文字を様式化した文字「N」、「F」、「C」、「D」で表される省略形態も使用されていると主張したが、審判部は、単独での使用や他の要素(例えば、文字要素の「oriflame」や「one」など)との組み合わせでも実際の使用を証明しておらず、先行する商標の真正な使用が立証されていないとして、Oriflameの審判請求も斥けた。

一般裁判所へ控訴
Oriflameは、EU規則207/2009の第42条(2)および(3)に基づき、審判部の決定を不服として一般裁判所に控訴した。第42条(2)は、出願人が請求した場合、異議申立をした先の EU商標の所有者は、EU商標出願の出願優先日前5年間に、登録されているEU商標の対象である商品・サービスについてその商標をEUにおいて誠実に使用しており、その商標を自己の異議申立の正当化のために引用することの証拠又不使用について正当な理由が存在することの証拠を提出しなければならないと定めている。

Oriflameは、提出した証拠の評価を審判部が誤ったと主張した。Oriflameによると、その証拠は、登録された形態で単独で使用されたか、他の要素と組み合わせて使用されたかにかかわらず、先行する商標の真正な使用を証明するものであるとし、また、Oriflameが提出したソーシャルメディアにおける商標の使用に関する証拠の役割と重みを審判部が評価する必要性についても言及した。

一般裁判所の判決
一般裁判所は、EUIPOにおける手続中に、Oriflameは、登録され異議申立の根拠となった商品に関して、保護されている地域で先行する商標の真正な使用があったことを証明するために、関連する期間中の先行する商標の商業的使用があったことを立証するのに関連する事実と状況を明示する証拠を提出したと主張した。この証拠は、先行する商標が他の要素との組み合わせだけでなく、単独の商標として商品やマーケティング資料に使用されていることを示すものでもあった。 

一般裁判所が認めた証拠;
* 2015年年次報告書の裏表紙など、単独の商標として先行する商標が商業的に使用された
* 化粧品や香水の蓋の上部及び化粧品が入ったチューブ容器での使用
* フェイスブック、インスタグラム、ユーチューブ、ツイッター(X)などのソーシャルネットワークからの抜粋、グーグルプレイなどのアプリケーションストア、ソーシャルネットワーク上での商標の表示や使用。ソーシャルネットワーク上での商標の使用は、当該分野における一般的なコミュニケーション手段であるため関連性が認められる 
* 商標の使用を示す記事及びウェブサイトのスクリーンショット
* 蓋しか見ることができない消費者のために商品の出所が商標の正当な所有者であることを商標によって保証するために化粧品等の蓋に商標の使用を示す送り状(Invoices used to prove the use of the mark on the top of the cap or lid of cosmetic products to guarantee the identity of origin of the products for consumers who would only be able to see the cap or lid)

よって、一般裁判所は審判部の判断は誤りであると結論づけ審判部の決定を取り消した。

商標とソーシャルメディアにとって判決の意味
商標とソーシャルメディアに基づく証拠に関連する裁判所の理由は興味深く、今後の判決で確実に引用されるであろう。

一般裁判所は、審判部がソーシャルメディア上における先行する商標の使用を十分に重視しなかったとのOriflameの主張を支持した。ソーシャルメディアの利用は、Oriflameが明示した先行する商標の商業的使用の一部であり、様々なソーシャルメディア上で先行する商標に表示したアカウントは、電話のようなスペースがあまりない小さな画面で閲覧されることが多かったため、先行する商標の省略形の使用に有利であった。また、提出された抜粋は、プロモーションやマーケティングの目的であろうと、例えばビデオ、写真、テキストによって、Oriflameの商品を識別するために商標が使用されていたことを立証するものであった。

本文は こちら (Trademarks and social media: Simply communication or evidence of use?)