Coinbaseは、米国最大級の暗号資産取引所の1つであり、暗号通貨の世界では確立された名前である。論理的に考えれば、この名称の権利を主張できるのはEUで1社だけだと思われるが、現在2社がこの名称を使用している。両社がかなり長い間EUで対立しているのは驚くにはあたらない。
紛争の発端は、Coinbase Global OÜ(エストニア)が「coinbase」という商標をデジタル通貨の金融サービス(第36類)とニュースサービス(第41類)を指定してEUに商標出願したことだった。2019年、Coinbase Inc.(米国)は、先にEUで登録した「COINBASE」商標を根拠に、エストニア企業のEU出願に対して異議申立を行った。先行する米国の「Coinbase」のEU登録には第36類は含まれていたが、第41類はカバーしていなかった。
商標が十分に類似していることは明らかだが、指定されたサービスも類似しているかどうかを判断することも同様に重要である。特に、第36類と第41類のサービスは類似しているか。また、仮想通貨取引などのサービスがニュースサービスに類似していると主張することは可能だろうか。
すぐに思ったのは、これはなるほどと思わせる議論かもしれないということだ。結局のところ、ニュースでもデジタル通貨のようなトピックを扱っており、おそらくほとんどの人は暗号通貨を購入する前にニュース記事を読んで何らかの調査をしていることだろう。
両当事者はこの問題を徹底的に検討した。米国のCoinbaseは、サービスが類似していると確信し、第36類と第41類のいずれについてもエストニア企業の商標登録を容認するつもりはなかった。欧州連合知的財産庁(EUIPO)がエストニア企業のEU出願を第36類すべてのサービスに対して拒絶しなければならないという決定を下したことは驚きではなかった。しかし、第41類のニュースサービスの登録申請は、商標が実質的に同一であるが、混同の虞を想定するほどサービスは類似していないとして登録が認められた。
米国のCoinbaseはこれに納得せず、その後の話し合いで欧州第一審裁判所に至った。欧州第一審裁判所も米国のCoinbaseの主張を支持しなかった。サービスが類似していなければ、混同の虞は生じない。注意すべき点は、例えば、ある報道機関が暗号通貨など特定のトピックに関する出版物やニュースを発行したとしても、それが自動的にこの分野のサービスを提供していることを意味するわけではない。つまり、それを認めるとニュースサービスは他の様々なサービスと類似すると考えられてしまう。そのため、米国のCoinbaseが多くのニュースを提供しているという主張は棄却された。であれば、米国のCoinbaseは第41類のサービスも商標登録しておくべきだった。
今回の事例から2つの重要な教訓を得ることができる。第一の教訓は、米国のCoinbaseにとって、EU商標の評判を利用して他のクラスに対して法的措置を取ることは戦略的なことであっただろうが、問題はEUで評判を立証できるかどうかである。
第二の教訓は、追加商標については常に慎重に考える必要があるということである。もし米国のCoinbaseが最初から第41類を商標出願に含めていれば、もっと簡単にことは済んだであろう。今回のケースは、登録のために綿密に計画された戦略を持つことがいかに重要かを示している。