UEFA欧州選手権(EURO)からウィンブルドン選手権、ツール・ド・フランス、そしてオリンピック・パラリンピックまで、2024年の夏は華やかなスポーツイベントが目白押しだ。Laura Morrishが成功を支える商標保護戦略の舞台裏に迫る。
スポーツにおける卓越した能力を思うとき、商標保護が最初に頭に浮かぶことはまずないだろう。しかし、UEFA欧州選手権、ウィンブルドン選手権、ツール・ド・フランス、オリンピック・パラリンピックなどの世界的なスポーツイベントにおいて、商標は不可欠な役割を果たしている。
イベントの主催者は、イベントの名称そのものを保護する必要があるだけでなく、広告(エンドースメント)契約やマーチャンダイジングによって多額の収入を得ることができ、著名なスポーツイベントの公式スポンサーは、ブランドと結びつけるために多額の費用を支払っている。スポーツにおける知的財産の役割を過小評価すべきではない。商標権だけでも、ライセンス契約やスポンサー契約の基礎となり、アンブッシュマーケティング(待ち伏せマーケティング)を防ぐため、イベント主催者にとって不可欠である。
スポーツにおける知的財産: UEFA欧州選手権における先進的な考え方
欧州サッカー連盟(UEFA)は、今年ドイツで開催されたサッカー欧州選手権の組織と運営を担当する公式スポーツ団体である。
世界中で数百万人が観戦し、アディダス、LIDL、Booking.comを含むEURO 2024の公式グローバルスポンサーを持つUEFAが、ブランド保護のためにかなりの予算を使っていることは驚くにはあたらない。
UEFAが今年の大会に関連する商標の保護を求めたのは2012年と古く、以下の商標を登録した:
* EURO 2024
* EURO 2024 GERMANY
* UEFA EURO 2024
その後、大会全体で使用されるブランディングを反映してスタイライズされた商標出願が続いた。例えば、2019年にはブルーのEURO2024ロゴ(左下写真)、2023年末にはピンクとブルーのロゴ(右下写真)を登録した;
色彩を守るためのウィンブルドンの挑戦
スポーツにおける知的財産の重要性については、ウィンブルドンのダークグリーンとパープルの色彩を守るための苦闘のキャンペーンから多くを学ぶことができる。オールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ(All England Lawn Tennis and Croquet Club)は、関連する文字やロゴについて複数の商標を登録するなど、商標戦略において常に積極的である一方で、歴史的で特徴的な色彩商標の保護を確保したのは、1909年に初めて色彩(色の組合せ)を使用してから1世紀以上が経過した2016年のことであった。
以前は、商標として保護がなされなかったため、クラブは、ウィンブルドンの公式大会と関係があるかのように見せかけチケットの転売などで使われるシグネチャー(対象を同定するための目印となる情報)の第三者による無断使用に取り組むことができなかった。
残念ながら、(文字やロゴの要素がない)色彩商標の保護を確保することは非常に難しく、ウィンブルドン・カラーも例外ではなかった。クラブは、以下に示す緑と紫紺の色彩商標(UK00003097108及びUK00003095405)の登録を確保するために、多大な労力を費やさなければならなかった;
これには、消費者がこれらの色をウィンブルドン大会と関連付けていることを示す詳細な調査や、緑と紫紺の色彩の使用を示す1900年代初頭まで遡る相当量の証拠という形で、使用証拠を提出することが含まれた。当初、クラブの色彩商標登録の試みは失敗に終わったが、最終的に2016年6月24日に英国知的財産庁(UKIPO)に対し、継続的な使用を通じて緑と紫紺の色彩(色の組合せ)の特徴が確立されていることを納得させることができた。
ツール・ド・フランスにおける商標問題
スポーツにおける知的財産の重要な役割にもかかわらず、常にイベント主催者の思い通りに事を運ぶとは限らない。ソシエテ・デュ・ツール・ド・フランス(Société du Tour de France、以下「ソシエテ」)とEUIPO(欧州連合知的財産庁)との争いを見てみよう。
「Tour de France」商標などを所有するソシエテは、欧州商標(EUTM)である「Tour de France」と「Le Tour de France」を根拠に、ドイツのスポーツジムチェーンのFitXがEUIPOに図形商標「Tour de X」を登録申請したことに対し、混同の虞に基づき異議を申立てた。消費者がドイツブランドの製品を有名な自転車レースと混同し、その結果、両者を関連付けてしまうだけでなく、使用により権威ある自転車イベントの評判が損なわれたり、不当にただ乗りの恩恵にあずかったりする虞があると、ソシエテは主張した。
しかし、EU一般裁判所はこれに同意せず、裁判官は次のように結論づけた: 商品とサービスの同一性や類似性にもかかわらず、公衆が商標を混同することはない。さらに、「Tour de France」と「Le Tour de France」という先行する権利の使用と評判を通じて獲得された識別力の強化は、問題となった権利に共通する要素、すなわち「tour de」には及ばないとの判断を示した。
裁判所が指摘したように、「Tour de France」は確かにスポーツおよびアパレル市場において商標保護に値するほどユニークなフレーズであるが、「tour de」だけではそうはならなかった。
オリンピックに注目
ツール・ド・フランスが終わった今、世界はオリンピック・パラリンピックに目を向けている。2024年7月19日、米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)は、YouTuberのLogan PaulとKSIが所有する飲料会社Prime Hydrationが、最新のパッケージで米国オリンピックチームに関連する商標を使用し、商標権を侵害しているとしてコロラド州で訴訟を起こした。
Prime社は最新のパッケージと販促資料に「Olympic」、「Olympian」、「Team USA」、「Going for Gold」というフレーズを使用しており、米国選手でオリンピックバスケットボールチームのメンバーであるケビン・デュラントも登場している。
USOPCの訴訟では、Prime社がUSOPCの知的財産に関連するグッドウィルを利用して、その製品とブランドを販売・宣伝し、Prime社の実際の製品にUSOPCの知的財産を使用したことが立証された。
以前にも取り上げたが、国際オリンピック委員会(IOC)と各国の組織委員会は知的財産とスポンサーシップを競技そのものと同じくらい真剣に受け止めている。
本文は こちら (Intellectual property in sports: The race to trademark protection)