国家知識産権局は2023年6月に公式ウェブサイトに「審判事件の中止事由に関する規準」に関する解説を掲載し、国家知識産権局の内部業務制度である「商標審判事件の審査審理業務に関する制度」の一部、すなわち「審判事件の中止事由に関する規準」の一般公衆に公開できる内容を解説の形式で公開し、審判事件の審理中止の原則、事由、手続きなどを紹介した。筆者は実際の事件を扱っている時、審理中止に最も密接に関わっているのは商標出願の拒絶査定不服審判事件であると感じた。「審判事件の中止事由に関する規準」に関する解説の発表から1年が経った今日、既に公開されている商標出願の拒絶査定不服審判事件の審決と筆者の実務経験を合わせて、出願商標の拒絶査定不服審判における引用商標に関する審理中止請求の実際状況をまとめる。(中国商標弁理士 孟 麗穎)
I. 拒絶査定不服審判事件に適用される中止事由
拒絶査定不服審判事件において、審理中止が適用される事由は以下のとおりである:
1. 引用商標が登録名義人の名称変更又は権利譲渡により拒絶査定不服審判事件の請求人の権利になると見込んでいる場合
2. 引用商標の存続期間が経過して、更新猶予期間にある場合
3. 引用商標が抹消登録手続き、又は出願の取下げ手続き中にある場合
4. 『商標法』第50条に基づく引用商標(引用商標が取消された、無効宣告された、又は存続期間の経過後に登録更新の手続きがなされず、案件の審理において取消となった、無効となった、又は抹消登録の日から1年を経過していない場合)である場合(引用商標が継続して三年使用されておらず取消となった場合を除く)
5. 引用商標に係る事件の結論がすでに出ており、その発効を待っているか、又は発効した判決に基づき、さらなる裁定を待っている場合
6. 関連する引用商標の権利状態が、裁判所が審理している、又は行政機関が処理している別事件の結果を根拠にしなければならない場合
7. 拒絶査定不服審判事件に係る引用商標について、すでに無効審判が請求されており、且つ引用商標の権利者が別案件において『商標法』第4条、第19条第4項、第44条第1項などの「悪意による登録出願」の事由に該当すると認定された場合
8. 同様の事件、又は関連する事件の先行審決又は判決が下るのを待つ必要がある場合
事由6は、拒絶査定不服審判事件の請求人が明確に審理中止を請求することが求められている。事由1~5は明確に中止が必須な事由で、事由7~8は具体的な事件の情況に応じて中止の要否が判断されるもので、一般的には拒絶査定不服審判事件の請求人が審理中止を請求することが求められず、すなわち審査官が自ら審理中止を決定することができる。ただし、引用商標の事情変更が拒絶査定の後に発生した場合には、審査員がそれを発見できないことを防ぐために、拒絶査定不服審判の段階で自ら最新の状況を紹介して審理中止を請求することをお勧めする。
II. 具体的な実例から審理中止請求に対する官庁の認定状況を見る
審理中止請求は、「必須の場合」を原則とし、事件の審理において先行権利の確定などの事由が審理結果に実質的な影響を与える場合にのみ審理を中止する。その他の審判の請求理由や他の権利状態が確定した先行商標に基づいて審理結論を十分に確定できる場合には、審理を中止すべきではない。具体的な状況については、既に公開されている出願商標の拒絶査定不服審判の審決を通じて説明する。
引用商標1の指定商品は出願商標の指定商品「キャップ」のみと同一又は類似の商品を構成する。出願人は不服審判の段階で、指定商品「キャップ」における登録出願を放棄したので、引用商標1との登録の抵触は当然に解消された。 したがって、本件実際の引用商標は2件となった。
引用商標2の専用権期間は2022年12月13日まで、期限が満了して更新登録されておらず、『商標法』第50条に基づく引用商標であり、上述審理中止の事由4に該当する。引用商標3は取消手続きにあり、審理中止の事由6に該当する。本件の出願人は引用商標2&3の事由を基づいて審理中止を請求した。
2件の引用商標は審理中止の事由に該当し、かつ出願人が自主的に審理中止を請求したため、審査官は最終的に当該請求を認め、2件の引用商標の最終状態を確認した上、不服審判商品における登録出願に対して初歩査定を決定した。
出願人は不服審判段階において、引用商標の登録出願は拒絶されており、拒絶査定が発効すると出願商標の登録障害にならないという理由で、審理中止を請求した。しかし、本件には「悪影響がある」という絶対的な拒絶理由も存在する。不服審判請求の審決によると、審査官は出願商標の登録出願が『中華人民共和国商標法』第10条第1項第8号の状況に該当しないことを判断したため、最終的に引用商標の拒絶査定が発効したことを確認した上で、不服審判役務における登録出願に対して初歩査定を決定した。
しかし、仮に審査官は出願商標の登録出願が『中華人民共和国商標法』第10条第1項第8号の状況に該当すると判断した場合、引用商標の状態が本件の結果に実質的な影響を与えないため、本件の審理を中止する必要はなく、出願人に不利な審決が速かに下されることになる。
引用商標3は登録出願を取り下げており、引用商標4は商標審査手続きにあり、引用商標5は拒絶理由通知書の発効を待っており、それぞれ上述の審理中止事由3、6、5に該当し、本件の出願人が引用商標の状況を基づいて審理中止を請求した。
しかし、本件には安定した権利状態にある引用商標1、2もあり、上記3件引用商標の最終的な権利状態は本件の結論に実質的な影響を与えないため、審査官は出願人の審理中止請求を認めず、直接に不服審判商品における出願商標の登録出願を拒絶すると決定した。
III. まとめ
筆者自身の実務経験と本稿で挙げた拒絶査定不服審判の審決の実例をもとに、以下のようにまとめる。
(1) 出願商標の拒絶理由が引用商標のみであり、かつ引用商標は全て審理中止の事由に該当する場合、審理中止申請が認められる可能性が高い。
(2) 引用商標の一部は審理中止の事由に該当せず、かつ商標の類似性が高い場合、または引用商標は審理中止の事由に該当するが、識別力の欠如、品質の誤認、悪影響など克服しにくい絶対的な拒絶理由がある場合、審理中止申請は不必要と判断され、認められない可能性が高い。
(3) 審理中止の申請は規定の期間内に提出しなければならない。出願商標の拒絶査定不服審判事件において、審理中止の申請は、遅くとも出願人が不服審判を提出した日から起算する3ヶ月の補充材料期間内に提出しなければならない。上記の期限を過ぎた後に審理中止の申請を提出する場合、認められない可能性がある。
(4) 審理中止の請求は単独で提出する必要はなく、拒絶不服審判請求理由又は補足理由の一つとして主張し、中止に係る引用商標の登録番号、手続き、本件との関係など具体的な状況を明確に説明すればよい。ただし、審理中止請求が認められたどうかについては、官庁から通知が発行されないので、通常の審理期限内に拒絶査定不服審判の審決が下されたかを見て推測するしかない。
(5) 引用商標の権利状態が確定した後、出願人は相応の証拠材料を提出し、審査官は出願人からの追加証拠を受領し、中止状況が解消されたことを確認した場合、審理を再開する。実際の事件では、筆者が審査官が引用商標の権利状態の変化を自主的に発見してから直接に不服審判請求の審決を下す場合もあったが、中国全体の商標案件の多さを考慮すると、審査官が事件の状況変化を一々フォローすることは難しいと思われる。審理中止に係る引用商標の状況が全て確定した場合、出願人は官庁に関連資料を提出し、状況を説明し、できるだけ早く審理を再開するよう求めることをお勧めする。
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注釈
[1]商評字[2024]第0000020565号拒絶査定不服審判の審決
[2]商評字[2024]第0000013848号拒絶査定不服審判の審決
[3]商評字[2024]第0000064572号拒絶査定不服審判の審決