EUにおいて、色彩商標を登録する際に識別力があることを証明する難しさについて、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループのヴーヴ・クリコのオレンジ色のラベルを保護する戦いを通してGhalia Ben Jdidiaが解説する。
ヴーヴ・クリコ・ポンサルダン(Veuve Clicquot Ponsardin、以下「ヴーヴ・クリコ」)が、自社の有名なオレンジ色のラベルを保護しようとする戦いは、EU内で色彩商標を使用することによって獲得した識別力を立証する際にブランド所有者が直面する課題について完璧に説明している。
なぜ商標として色彩を登録することが難しいのか?
他の商標登録と同様に、色彩を商標として登録するには、EUにおける一連の厳格な法的条件を満たす必要がある。色彩商標の場合、最も困難な条件は識別力だ。
一般的に、欧州連合知的財産庁(EUIPO)は、色彩商標は本質的に識別力がないとみなす傾向がある。その結果、実務上、色彩は使用を通じて識別力を獲得した場合にのみ、商標としての保護を受けることができる。過去数十年間、フランスで有名なシャンパン生産者のヴーヴ・クリコは、オレンジ色のラベルについて、使用により獲得した識別力を証明するための戦いに直面してきた。
色彩商標:オレンジ
1998年、ヴーヴ・クリコは、特にMHCS(モエ・ヘネシー)社が販売して一般に知られているシャンパン等を指定して自社の特徴であるオレンジ色(下写真)を商標登録したことで物語は始まった。
当時の慣行に従い、色彩は出願時に「図形商標」の「色指定(colour claimed)」には以下の定義が付されていた;「色はオレンジで科学的な定義は以下の通り;三色座標/色特性:x0.520、y0.428、拡散反射率 42.3%、主波長 586.5mm、励起純度 0.860、色純度 0,894」
手間のかかる登録手続き(識別力がないという理由で何度も拒絶された)を経て、この商標は出願から約10年後、使用によって獲得された識別力により、最終的にEUIPO審判部に登録が認められた。その後、ドイツのディスカウントスーパーマーケット・チェーンのLidl Stiftung & Co. KG(リドル)が2015年に識別力がないことを理由に無効審判を請求した。
長年にわたる審理を経て、2021年9月にEU一般裁判所がヴーヴ・クリコとそのオレンジ色の商標を支持する判決を下したことで、この紛争は一見終結したかのように見えた。(リドルの子会社は2021年11月に係争商標の無効を求める3度目の請求を行ったが、この申請は2022年8月にEUIPOの第4審判部によって却下された。)
商標としての色彩、際立った特徴としての色彩
しかし残念なことに、ヴーヴ・クリコの喜びも束の間であった。3月6日にリドルの上訴を受け、EU一般裁判所は、商標としての色の使用に関する関連証拠が十分ではないとして、ギリシャとポルトガルにおける決定を取り消した。
EU一般裁判所はその決定において、ヴーヴ・クリコが提出した証拠(特に、販売量と広告資料に関するもの)は、問題となっている商標が特定の企業を出所とするシャンパンを識別する能力を持つようになったことを直接示しているわけではないとして、両国について「販売実績や広告資料は、関連性がある場合、市場調査などによって提供される直接的な証拠、専門機関や専門家の意見など、使用によって獲得された識別力の直接的な証拠を裏付ける二次的な証拠としてのみ見なすことができる」と明確に述べている。
EUにおける使用を通じて獲得された識別力の証明に関しては、関係する全ての加盟国に対して全体的に提供すること、または異なる加盟国や幾つかの加盟国グループごとに個別に提供することが認められている。実際、加盟国グループに関する文書が受け入れられる場合もある。(例えば、事業者が内部戦略として幾つかの加盟国を同じ流通ネットワーク内でグループ化し、単一の市場と見なす場合や、幾つかの加盟国で地理的、文化的、言語的に近いため、ある国の消費者が他の国で提供されている製品やサービスに精通している場合など)
しかし、判決で繰り返し述べられているように、「立証責任を負う者が、EUの一部、たとえその一部が単一の加盟国で構成されていたとしても、その一部に及ばない獲得証拠を提示するだけでは不十分である」。言い換えれば、当該証拠はEUの部分に限定されるものではなく、実際の使用を立証し、それによって公衆が各国で個別にその標識を商標として識別できるようにする必要がある。
このことは、評判の高い商標であっても、EUにおける使用を通じた識別力の恩恵を受けることが如何に難しいことかを物語っている。 実際、懸命な努力にもかかわらず、獲得した識別力を根拠に勝訴することはめったになく、商標としての色彩の使用など、いわゆる「非伝統的な」商標に対する権利を得るために使用を通じた識別力を主張する場合はなおさらである。
しかし、これで終わりではない。2024年5月16日、MHCS社は欧州連合司法裁判所(CJEU)に上訴した。CJEUが上訴を受理した場合、EU一般裁判所の判決を支持するかどうかが問題となる。引き続き裁判の行方を伝えていきたい。
本文は こちら (Veuve Clicquot and the battle to register colour as a trademark)