2024-09-05

インドネシア:7月30日から適用された商標の不使用期間延長に関する判断の危うさ- Tilleke & Gibbins

多くの国と同様、インドネシアでも一定期間使用されなかった登録商標は取り消すことができる。憲法裁判所(Constitutional Court)の最近の判決(144/PUU-XXI/2023)により、商標の不使用取消期間が3年から5年に延長される。この変更は2024年7月30日から適用されている。判決144号は、同国の商標権者に大きな影響を与える可能性がある。

事件の背景
 インドネシアの2016年商標法第74条は、商標が登録日または最新の使用日から起算して継続3年間、商品/サービスの取引に使用されていないことを事由として、商標を取り消すことができると規定している。この規定はパリ条約とTRIPs協定に沿ったものである。

 2023年10月27日、Ricky Thio氏というインドネシアの個人は、商標法第74条により中小企業(SME)が所有する商標を第三者が排除する道を開くものであり、自身の登録商標に保護期間の確実性を与えていないとして、憲法裁判所に第74条の合憲性について審理を求めた。さらに、継続した3年という期間は中小企業にとって負担が大きいと主張し、裁判所に対し、第74条を無効とし、不使用取消の適用除外として不可抗力的状況(新型コロナのパンデミックなど)を追加するよう求めた。 

 Thio氏は、浙江大華科技有限公司(Zhejiang Dahua Technology Co., Ltd.)が提出した不使用取消請求から商標登録を守るためにこの請求を提出したもので、取消請求に対する抗弁の中で、Thio氏は、商標の不使用は新型コロナのパンデミックによるものであると主張した。この取消訴訟は別の司法経路を辿り、Thio氏が最高裁判所の司法審査手続(judicial review)を申請した時点では最高裁判所に上告されていた。 

 Thio氏の事件は、インドネシアで比較的新しい傾向であるアミカス・ブリーフ(第三者の意見書)が提出されるきっかけとなった。アミカス・ブリーフは、国内の二人の知財コンサルタントによって提出されたもので、Thio氏に憲法裁判所に提訴する正当な理由がなく、個人的権利は侵害されていないとし、商標法にはThio氏の権利と利益を保護するための十分な手段が提供されていると指摘されていた。 

憲法裁判所の判決
 証拠を検討した結果、憲法裁判所は判決第144号を下し、不使用取消期間を登録日または最新の使用日から起算して継続3年から継続5年に修正した。また憲法裁判所は、不使用取消の適用除外として不可抗力を追加した。

商標法第74条の司法審査手続で憲法裁判所は次のように指摘した;
* TRIP協定は、最低期間として3年間を挙げている(すなわち、「… 登録は、少なくとも3年間継続して使用しなかった後においてのみ、取り消すことができる」)
* 5年の不使用期間は、商標の無効請求が出願日から5年以内に提起できることから、商標の無効請求と一致する
* インドネシアは、同国が批准している国際法と矛盾しない法律を制定する権限を持っている
* 一般的に、コモンローの国(シンガポール、イギリスなど)は先使用主義により5年、シビルローの国(日本など)は先願主義により3年となっている。インドネシアの建国理念であるパンチャシラ(Pancasila)は、中小企業が自社の商標を使用して商品やサービスを準備するための時間をもっと与えることで支援すべきである
* 中小企業が大企業に比べて成長や資金調達に時間がかかるため、3年間という期間が中小企業にとって不利になる可能性がある

影響
 判決144号は即時施行された。2024年7月30日から、不使用取消請求の原告は、当該登録商標が継続した5年間使用されていないという証拠を提出しなければならない。つまり、利害関係のある第三者は、不使用取消申請を提起する前に、より長い時間待機し、観察する必要がある。不使用取消請求を準備中であった者は、市場調査により継続した5年間不使用である証拠を確実に収集しなければならない。

 理論的には、使用証拠を集める労力が増えることになる。一方、この追加期間は、商標権者(新興企業や中小企業を含む)が事業計画を立て、練り直す時間を増やすことになる。

 判決144号は不可抗力を適用除外として認めているが、政府はこれに関する実施規則を発行する必要がある。不可抗力がインドネシアで登録商標を使用しない正当な理由にはまだならない。

 浙江大華科技が提起した不使用取消請求に関する判決第144号により、Thio氏が利益を得るかどうかという問題は、浙江大華科技の訴訟が第一審の不適切な手続きにより欠陥があるとみなされたため、あまり重要ではないかもしれない。2024年5月、最高裁は、登録抹消請求と自社商標の登録請求が組み合わされていたとして、訴訟を受理できないとした中央ジャカルタ商務裁判所の決定を追認した。 

 皮肉なことに、Thio氏の商標は2017年6月2日に登録されたもので、5年以上使用されていないことから、不使用取消請求を起こされる可能性がある。Thio氏は、当該商標が未使用のままであれば、将来の不使用取消請求を克服するために判決第144号に依拠することができないかもしれない。

考察
 憲法裁判所は、Thio氏が現在進行中の不使用取消訴訟の被告であることを知っていたにもかかわらず、商標法第74条の司法審査手続を継続したことは興味深い。観念的には、憲法裁判所はThio氏の司法審査手続を却下できたはずである。なぜなら、この決定が今起こっている不使用取消請求を回避するために利用される可能性が強く示唆されていたからである。 

 判決第144号は、今後、他の当事者が知的財産法から関連条項を削除することで裁判に勝つための一手段と見なすよう促す可能性がある。もし憲法裁判所が、積極的な法的措置に関与している当事者が司法審査手続を請求することを禁じなければ、将来、知的財産権侵害者や商標権不法占拠者が、知的財産権訴訟に直接対応する代わりに、関連条文の削除を求めるような同様の事例を発生させる可能性がある。このような「創造的」な憲法訴訟により、インドネシアの知的財産権法が繰り返し変更される可能性があり、法的確実性の欠如により公序良俗に影響を及ぼさないとも限らない。

本文は こちら (Indonesian Court Extends Trademark Non-Use Period, Risking Far-Reaching Consequences)