現行商標法第30条第1項第10号は、「商標が次に各号のいずれかに該当するときは、登録を受けることができない。……十、同一又は類似の商品又は役務について、他人の登録商標又は先に出願された商標と同一又は類似であり、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれがあるもの。……」と規定している。これにより、両商標の「商標の類否」及び「商品・役務の類否」は、「誤認混同のおそれ」の有無を判断する際の2つの重要な参酌要素であることが分かる。
本件は、WanPay Digital Marketing Co., Ltd(中国語社名:「旺沛大數位股份有限公司」、以下「WanPay社」という」は❝(下図左)❞の「ダブルチェックの商標及び図形」(以下「ダブルチェック商標」という)を、コンピューターハードウエア、コンピュータープログラミング、タブレット型コンピュータなどの商品への使用を指定したところ、米国Amazon.com, Inc.(以下「アマゾン社」という)が、同社が所有する❝(下図右)❞商標(以下「円形商標」という)に基づき、異議申立を行った事案である。智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)は、本件を審理した結果、ダブルチェック商標が上記商標法第30条第1項第10号の要件を満たすと判断し、その商標登録を取り消すべき旨の決定をした。しかし、知的財産及び商業裁判所(以下「IPCC」という)は、111年(西暦2022年)度行商訴字第28号判決において、両商標の図形デザイン、全体的なスタイル及び外観は「ダブルチェック」デザインの有無及び色彩により大きく異なり、消費者に与える全体的印象は異なるため、両商標の類似度は高くないとし、関連する消費者に誤認混同を生じさせるおそれはないと結論付けた。
アマゾン社の上告を受け、最高行政裁判所は、(1)両商標の円形枠は、曲率、形状、線の太さ及び距離、欠けた角の位置と角度などの点で非常に類似していること、(2)関連する消費者は、WanPay社のダブルチェック商標よりもアマゾン社の円形商標の方が馴染みがある可能性があること、(3)両商標はいずれもオンライン決済及び金融決済において使用される可能性があることなどを考慮し、原審(IPCC)は「誤認混同のおそれ」に関する各判断要素をさらに取り調べる必要があるとし、原判決を破棄し、原審に差し戻す旨の判決を言い渡した(最高行政裁判所112年(西暦2023年)度上字第21号判決を参照)。
本件における各審級の見解を参考にすると、両商標の「誤認混同のおそれ」の有無を判断するうえで、両商標の類否及び商品・役務の類否は、重要な参酌要素であるが、誤認混同のおそれの有無の判断をより正確に把握するために、他の関連要素がある場合、それらも可能な限り考慮すべきである。