ベトナム知財庁(以下、「知財庁」)が毎年発表している統計によると、近年、知財権の譲渡請求を含む知財取引や知財権設定の申請件数が増加している。それにもかかわらず、知財庁が承認した商標権の譲渡件数はこの傾向に沿っておらず、2022年に承認された1,281件から2023年に承認された1,120件に減少している。この減少は、譲渡人の商号との抵触を理由に譲渡請求を拒絶するなど、知財庁が商標の譲渡を承認する際の条件を厳格にしすぎたためと考えられる。
譲渡請求に関する知財庁の実務
ベトナムの知的財産法は、第139条4項で「標章に対する権利の譲渡は,当該標章を有する商品又はサービスの特質又は出所について混同を生じさせてはならない」と規定されているように、ケースによって商標の譲渡を制限している。従って、譲渡商標が譲渡人の商号の要部と同一である場合、知財庁は、譲受人による当該商標の使用が譲渡人の商号との混同をもたらすとみなし、譲渡請求を即座に拒絶する。この場合、知財庁は、知的財産権者が以下の条件の少なくとも一つを証明する関係当局発行の書類を提出した場合に限り、譲渡請求を受理する;
* 譲渡人が、その名称の下にある全ての事業所及び事業を譲受人に譲渡した
* 譲渡人が商標を付した商品・サービスに関連する事業ラインを終了し、それが企業登録証に記録されていること
* 譲渡人が契約締結後に解散した、または存在しない
* 譲渡人が契約締結後にその名称を変更し、譲渡商標と同一または類似の要素を含まなくなった場合
* 譲渡人と譲受人が関連会社である
これらの書類がなければ、譲渡承認を得ることは困難で、譲渡請求の拒絶を不服として審判請求しても多くの場合、審判部での非常に長い審判手続きにつながることになる。
知財庁の実務に対する見解の相違
譲渡人の商号との抵触を理由とする譲渡拒絶の可能性に関する規定は何年も前から設けられており、知財庁は、譲渡商標が譲渡人の商号の要部と同一または類似する場合にも譲渡請求を拒絶してきた。しかし、以前は、このような理由で商標の譲渡請求の拒絶が出された場合、譲渡人がベトナムで会社名を使用していないことを証明する宣誓書、譲渡人と譲受人の関係を証明する宣誓書、または譲渡人が解散手続きを開始したことを証明する宣誓書を提出すれば、拒絶を克服するのに十分であり、当局発行の書類は必要なかった。
しかしながら、知財庁の実務は過去3年間で変化し、これらの書類を要求するようになったため、知的財産権者がこの理由による譲渡拒絶を克服することが困難になっている。この変化は、知的財産実務家の間で、そして知財庁の中でさえ多くの議論を引き起こしている。
よくある議論は、拒絶理由そのものに根拠がないというものだ。ベトナム法では、会社名はデフォルトで商号になるわけではない。省令11/2015/TT-BKHCN第14.2条によると、会社名は、実際の事業活動で使用され、知的財産法第76条及び第78条に規定されるいくつかの条件(例えば、同じ事業分野及び地域で活動する他の事業体とその名称を付した事業体を区別することができる)を満たした場合にのみ、商号とみなされる。そのため、ベトナムにおける譲渡人の会社名の実際の使用に関する証拠や情報なしに、譲渡人の商号との抵触を理由に知財庁が譲渡請求を拒絶することは、説得力に欠けるように思われる。残念ながら、省令11はもはや有効ではなく、省令11を修正・補足する新たな省令はまだ保留中である。
第二に、知的財産法は、他人の商号と混同する虞があるという理由で係属中の商標を保護することを禁じているが、係属中の商標が商号権者によって反対されない限り、知財庁がこれを理由に職権で拒絶した事例は知られていない。
第三に、知財庁が提案する譲渡拒絶を克服するための選択肢、特に当局発行の書類の提出要件は非現実的であるように思われる。例えば、ベトナムで商標の譲渡を請求する譲渡人は、多国籍企業であることが多く、市場における商標の事業戦略が異なる。このような場合、ベトナムにおける単一の商標の譲渡請求のためだけに、社名を変更したり、譲渡商標を付した商品・サービスに関連する廃止された事業ラインを終了したり、事業所や事業活動全体を譲受人に譲渡したりすることを要求するのは不合理である。
譲渡人と譲受人が関連会社であっても、その関係を証明する法的書類を提出することは困難なこともある。また、譲渡人が知的財産権譲渡契約を締結した後に解散手続きを行ったが、譲受人への知的財産権の譲渡を含む全ての財産上の義務を履行した後にしか解散できないケースもある。この手続きには時間がかかるため、解散完了を証明する法的書類の提出を求める知財庁の要求は実現不可能と思われる。
提案
2022年に公布され、2023年1月1日に発効した改正知的財産法および2023年11月30日に公布され、即日発効した省令23/2023/TT-BKHCNには、知的財産手続きに光を当てている。しかし、これらの法的文書には、譲渡人の商号と同一の譲渡商標の記録に関する明確な規定や指針となるようなものはない。
現在、改正省令23の草案についてパブリックコメントを募集中であり、知的財産実務者は、譲渡商標が譲渡人の商号と同一または類似の場合、知財庁がその要件を緩和するよう提言している。具体的には、譲渡人の商号不使用宣言、譲渡人と譲受人の関連会社関係を証明する宣言、または譲渡人が解散手続きを開始したことを示す証拠は、過去に知財庁が認めたように、この理由による譲渡拒絶を克服するのに十分であるとみなすべきである。
将来的には、譲渡人の会社名が実際にベトナムで使用されており、したがって商号として保護される可能性があると信じるに足る根拠がある場合にのみ、関連する譲渡請求が拒絶されるべきである。
本文は こちら (Vietnam: Challenges in Recordal of Trademark Assignments)