タイでは長い間、ローマ字とアラビア数字の組み合わせからなる商標の登録は困難とされてきた。特にスタイライズされていないものや発音できないものについてはだ。タイ商標法第7条の「創作された語及び装飾化された文字又は数字」の解釈については、これまで様々な見解が対立してきた。商務省知的財産局(DIP)は、文字や数字が本質的な識別力を持つためには、顕著な外観的特徴を備えていなければならないと考えており、「創作」は文字の重なり(overlapping)や文字の連結(interlocking)のあるものとか、タイの伝統的な文様や幾何学的モチーフのような複雑なデザインなど、スタイライズされたものでなければならないと考えている。
しかし、裁判所は一貫して、3文字の標章はスタイライズされずに表現された場合であっても、本質的な識別力を有し得ることを認めてきた。その根拠は、これらの標章はランダムで珍しい組み合わせとして見た場合、多くの場合一般的な単語と区別することができ、公衆が関連する商品・サービスを識別し、他人の商品・サービスと区別するのに十分であるというものである。
登録可能性に関する最高裁判所の判例に従い、DIPは2022年1月に審査ガイドラインを訂正し、3文字以上の組み合わせであれば、たとえスタイライズされていなくても、発音可能な単語を形成していなくても、本質的に識別力があると認められることを明確にした。しかしながら、2文字の標章については依然として登録の障壁が大きく、困難が続いている。
JD事件
背景
中国最大級の電子商取引会社である北京京东三六零度电子商务有限公司(Beijing Jing Dong 360 Du E-Commerce)は、広告および経営に関する第35類のサービスを指定して、「JD.COM」(および図形)および「JD.CO.TH」(および図形)の商標(下掲図参照)を登録出願した;
DIPは、「JD」が十分にスタイライズされておらず、「.com」および「.co.th」は一般的な用語であるとして商標の登録を拒絶した。出願人はDIPに審判請求したが、DIPは全体的に商標には固有の識別力がないとして拒絶査定を支持した。
出願人は、「JD」は出願人の会社名(Jing Dong)に由来する恣意的な文字の組み合わせであり、「.com」と「.co.th」は第35類のサービスを説明するものではないため商標に本質的な識別力があると主張して控訴した。
知的財産・国際取引中央裁判所(IP & IT Court)の判決
IP & IT Courtは、「JD」は通常のローマ字から構成されているが、これは出願人の会社名(Beijing Jing Dong 360 Du E-Commerce)に由来し、通常とは異なる方法で結合されているため、商標法第7条に基づき識別力があると判断し、出願人に有利な判決を下した。IP & IT Courtはまた、「.com」のような一般的な用語を商標として登録することは、他人のサービスを区別するものであれば禁止されず、「.com」や「.co.th」と組み合わせた場合、「JD」に識別力はあり登録できるとの判断を示した。
控訴審判決
被告であるDIPは、「JD」には識別力がなく、「.com」と「.co.th」は一般的な用語であるため、審査結果は正当であり、商標には本質的な識別力がないとして、IP & IT Courtの判決を不服として専門事案控訴裁判所(Court of Appeal for Specialized Cases)に控訴した。2022年1月9日、控訴裁判所はIP & IT裁判所の判決を支持し、以下のように述べた;
*「創作」文字とは、通常使用される形とは異なる特異な方法で文字を配置し、公衆が区別できるようにしたものを指す
*「出願人の商標の場合、ローマ字の「J」と「D」は訳や特定の意味を持つことなく一次元的に配置されている。そして、このような文字の配置が一般的に使用されているという証拠はなく、そのため、「JD」は文字の独自の配置と見なされ、商標法に基づいて本質的な識別力を有するものと考えられる」
最高裁判決
2024年8月8日、最高裁はDIPの上告を棄却し、控訴審判決を確定させ、2つの「JD」商標の登録が可能であることを確認した。
コメント
本件、特に「JD」が特徴的な文字の配列であると裁判所が認めたことは、タイにおける2文字商標の登録可能性に関する法的基準の積極的な進化を浮き彫りにするものである。本事例は、将来の出願人に対し、2文字商標は、十分に構成された事例があり、全体として識別力が立証できれば、実際に登録できる可能性があることを明らかにした。
Source: IP & IT Court’s Back Case No IP 79/2564 (Red Case No IP 137/2565)
本文は こちら (The Inherent Distinctiveness of Two-Letter Marks Under Thai Trademark Practice)