2024-12-05

英国:商標の登録要件と「うさんくさい」マーケティング手法 - Novagraaf

 英国のスーパーマーケットによる最新の商標権争いにおいて、英国のスーパーマーケットチェーンのアイスランドが「King Prawn Ring」の商標登録出願を行った。これはアイスランドの象徴的なディナーメニューを守ろうとする試みなのか、それとも単に目立つことを狙う「うさんくさい」マーケティング手法なのか、Megan Taylorが、商標の登録要件や英国における知的財産登録の「注意点」について、この商標出願から見えてきたことを解説する。

 英国ではスーパーマーケットの戦いが続いている。アイスランドは、「King Prawn Ring」の商標保護と意匠保護を申請した。さらに、アイスランドは、競合他社(ALDI:アルディ、Tesco:テスコ、Asda:アズダ、Lidl:リドル)に対して公開書簡を送付し、アイスランドの出願と、他のスーパーマーケットが自社製品の販売を中止しなかった場合の潜在的な影響について警告した。

 1994年英国商標法(TMA)が定める商標の登録要件を考えれば、アイスランドの出願商標が登録される可能性は極めて低いと言わざるを得ない。とはいえ、この怪しげなマーケティング手法は、英国における知的財産登録の「すべきこと」と「すべきでないこと」を思い出させてくれる有益なものでもあろう。

英国商標の登録要件
識別性(Distinctiveness)
 英国知的財産庁(UKIPO)が商標の登録を拒絶できる絶対的理由に、「識別性」の欠如がある(TMA第3条(1)(b))。これは、商標は消費者が様々な事業者の商品・サービスを区別できるものでなければならないという考えに基づくものである。  
商標の登録要件に基づけば、「King Prawn Ring」という用語が消費者に商標として認識される可能性は低く、したがってアイスランドの商品を競合他社の商品と区別することはできないだろう。
 英国での使用を通じて獲得した識別力を主張することは可能だが、この主張を裏付けるには広範な証拠が必要となる。

記述性(Descriptiveness)
 商標の登録が拒絶される絶対的理由に、商標が記述的というのもある。商標法第3条(1)(c)は、商標が「商品若しくはサービスの種類,品質,数量,用途,価格,原産地,生産時期若しくは提供時期又は商品若しくはサービスのその他の特徴を表すために取引上役立つことができる標章又は表現のみからなる商標」からなる場合、登録を拒絶すると規定している。
「King Prawn Ring」という用語が、海老をリング状に並べたものという意味で使用される場合、記述的であるといえることは疑いない。

意匠の登録要件
 もちろん、知的財産権の保護を受ける手段は商標だけではない。アイスランドは登録意匠の保護も申請した。登録されるためには、新規性及び独自性の要件を満たさなければならない(1949年登録意匠法第1B条)。この要件を満たすためには、意匠の全体的な印象が、先行意匠と比較して消費者に異なる印象を与えるものでなければならない。アイスランドはこの商品を1990年代に発売したと主張しているので、この意匠に新規性及び独自性があるかどうかの評価において不利になる可能性がある。

 さらに、UKIPOへの出願前に意匠が一般に公開されていた場合、その新規性が失われる可能性もある。英国には、公開後に意匠を出願できる期限が定められている。従って、スーパーマーケットによる広範な使用は、アイスランドを追いつめることになるかもしれない。

不当な脅迫
 本件でアイスランドには適用されないが、その公開書簡は、「不当な脅迫」に関する商標法第21条(侵害訴訟の脅迫)を想起させるものでもある。

 訴訟前通告書(pre-action letter)は、全体から見たら重要ではない些細なことと感じる人も多いが、送付を検討する際には注意が必要だ。英国では、「侵害」という用語は特定の法的意味を持っており、弁護士もクライアントも、そのような脅迫が不当であると判断すれば、差止命令や損害賠償を請求される可能性がある。訴訟前通知書(および通知書記載の期限)は、英国の民事訴訟規則(Civil Procedure Rules)に基づく訴訟前プロトコル(Pre-Action Protocol)に従わなければならない。  

知的財産権保護に関するその他の注意事項
 アイスランドの商標出願と公開書簡は宣伝のためのもののようにも見えるが、商標と意匠の登録は必ずしも簡単なプロセスではないことを念頭に置くことが重要である。知的財産保護戦略の一環として考慮すべき商標の登録要件は数多くあり、また知的財産権の種類も多岐にわたるからだ。

本文は こちら (UK trademark requirements and Iceland’s ‘fishy’ marketing ploy)