以前、マラドーナの元弁護士とアラブ首長国連邦(UAE)の企業との商標紛争を取り上げた(記事は こちら)。
エル・ペルーサ(El Pelusa:縮れ髪)やDieguito (可愛いディエゴ)は、世界最高のサッカー選手の一人ディエゴ・マラドーナのニックネームだ。
UAEの会社は、マラドーナの漫画風イメージとマラドーナのイタリアでのニックネーム「Dieguito」の結合商標をEUに出願した。この商標登録に申立てた異議は、マラドーナの元弁護士が登録した「MARADONA」商標を理由にしたものだ。
EUIPO(欧州連合知的財産庁)がこの異議申立をどのように扱うかは興味深く、「MARADONA」商標は商標として使用されているのか、使用されているならば観念的な類似だけで混同のおそれを立証するのに十分なのか。
EUIPOの裁定で注目すべきは、まず、マラドーナが生前、自身の肖像権をEU商標の出願人にライセンス供与していたことだ。これは、異議申立人と出願人の双方がマラドーナの知的財産権に関連するライセンスを保有していることを意味する。この状況が法的に妥当であるかどうかは異議申立の範囲外であり、EUIPOはこの点についてこれ以上深く踏み込まなかった。
商標としての使用にあたるか?
興味深いことに、異議申立ての審理で、先行商標「MARADONA」の使用については争われなかった。これは、出願人が使用証明を要求したり、それに異議を唱えたりしなかったためだが、この問題は結局取り上げられることになった。なぜなら、異議申立人が「MARADONA」商標の名声を主張したからだ。
その結果、EUIPOは提出された証拠を精査し、「MARADONA」商標が名声とみなされるかどうかを判断する必要があり、提出された証拠に厳密に基づいて判断を行う必要があり、その証拠には、ライセンス契約書、商標一覧、および「MARADONA」という文字を付した商品の写真が含まれていた。EUIPOは、これらの商品について主にサッカー選手としてのマラドーナを指していることは認めた。しかし、商品やサービスの出所を示しているとはいえず、これらの商品が実際に販売されたのかどうかも怪しかった。
別に示された証拠にも収益の数字はなく、商標の名声に関する第三者の陳述もなく、市場占有率も提示されず、名声を立証するには不十分であった。そのため「MARADONA」商標の著名性は立証されなかった。
「Dieguito」と「MARADONA」の類似性
異議申立は「混同のおそれ」という理由にも基づいていた。混同のおそれを立証するためには、両商標は十分に類似していなければならない。しかし、「Dieguito」と 「Maradona」の文字が外観的にも称呼的にも類似していないことから、果たして類似するといえるだろうか?
EUIPOは、関連する公衆の少なくとも一部には、「Dieguito」と 「Maradona」がマラドーナを指すことから、観念的な類似性があると判断した。
しかし、観念的な類似性は混同のおそれを立証するのに十分だろうか? EUIPOの答えは「No」であった。両商標の相違点はあまりに大きすぎる。その結果、EUIPOは異議申立を棄却した。
この事例は、商標の名声を主張したり、混同のおそれを主張したりする際には、確実な証拠が重要であることを示している。観念的な類似性は一定の役割を果たすかもしれないが、それだけで異議申立で勝つことは難しいだろう。