2025-01-09

アンデス共同体:示唆的標章と記述的標章 - OMC ABOGADOS & CONSULTORES

示唆的標章(suggestive trademark)は、暗示的標章(evocative trademark)とも呼ばれ、商品・サービスを実際に説明することなく、その商品・サービスの特徴又は性質について間接的に示唆又は暗示する標章である。例えば、コーヒーを識別するための標章「Nescafé(ネスカフェ)」、食器洗浄機を識別するための標章「Lavadocil」、シリアルを識別するための標章「Cerelac(セレラック)」などが挙げられる。また、「Dolomax」、「Cardioplus」、「Alercet」などの医薬品の標章も同様である。 

知的財産法を専門とするアルゼンチンの法学者ホルヘ・オタメンディによれば、「暗示的標章は、裁判所に弱い標章とみなされる。このため、暗示的標章の権利者は、同じ概念を暗示する他の標章の併存を受け入れなければならない。

アンデス裁判所(Court of Justice of the Andean Community)は、「示唆的または暗示的標章は、記述的標章に見られるような商品の特徴や品質と直接的な関係性を示すものではない」と繰り返し指摘している。消費者は、標章が対象とする商品・サービスを理解するために、想像力を働かせなければならず、つまり、標章と商品・サービスとの間の推論的なプロセスを経なければならない。従って、想起させる標章は、一般的標章や記述的標章とは異なり、標章の識別機能を果たすことから登録可能である。

アンデス裁判所は次のようにも述べている;
「(中略)想起させる標章が、登録しようとする商品・サービスに近ければ近いほど、著しく弱い標章とみなされる可能性があり、その結果、その権利者は、ある程度特徴的に類似する標章の登録を認めなければならない。これは、一般的、記述的、または一般的に使用される要素を含む暗示的標章の場合に発生する。これらの要素は標章に喚起力を与えるが、権利者が第三者による当該要素の使用を防ぐことができないため、特に弱くなる。

暗示的標章が創作的なものであり、識別を意図する商品やサービスに強い近接性がない場合には、消費者は自明でない推論をしなければならないため、標章の識別力は著しく強いものになる。

暗示的標章とは異なり、記述的標章はその名称が示すように、標章が識別しようとする商品・サービスの特性、性質、成分、品質等を直接記述する標章である。

したがって、アンデス共同体決議486号第135条(e)項には、以下の場合、標章として登録できないと規定している;

(e)商取引において、質、量、目的、価値、原産地、若しくは製造時期を記載する目的、又は、記号若しくは記述が用いられる商品又は役務に関して、商品又は役務を称える表現を含めて、他のデータ、特徴、又は情報を開示する目的を果たす、記号又は記述のみからなる標章

例えば、ポテトチップスのような塩味のスナック菓子に「Salados(スペイン語で「塩辛い」の意味)」という名称は記述的標章となる。この場合、標章は識別力を欠くということになる。

標章が記述的か暗示的かを判断された事例として、ARTECOLA PERU S.A.が第1類の「工業用化学製品、工業用接着剤」を指定して出願した標章「ULTRAFLEX」がある。この出願に対し、INTRADEVCO INDUSTRIAL S.A.は、同社が第3類の標章「REFLEX」と第30類の標章「ULTRASAL」の所有者であること、出願された標章は一般的な単語で「極端な程度」を意味する「ULTRA」と「柔軟な」を意味する「FLEX」から構成されていることから、「ULTRAFLEX」は「極端な柔軟性」を意味し、製品の品質を直接的に記述したもので識別力を欠く標章であると主張した。

公正競争・知的財産保護庁(INDECOPI)の標章局(Commission of Distinctive Signs)は、決議第1926-2016/CSD-INDECOPIで異議申立てを認め、標章の登録を拒絶した。出願標章を審査した際、標章局は、「ULTRA」という用語は「過剰」や「極度」を表し、「FLEX」という用語は 「柔軟」の概念を連想させると指摘した。加えて、「ULTRAFLEX」という名称は、第1類の工業用接着剤(糊)を他の商品から識別するために賞賛する名称として認識され、当該商品が同種の他の製品よりも柔軟性が高いという観念を与えるため、この名称に独占的な権利が発生することはあり得ないと指摘した。よって、出願標章は審決486号135条e項の登録できない標章となると判断された。 

ARTECOLA PERU S.A.は知的財産特別法廷に上訴し、特別法廷は決議No.740-2017/TPI-INDECOPIで、決議No.1926-2016/CSD-INDECOPIを取消し、当該標章は記述的な標章ではなく、喚起させるものであるため、第1類の商品としては弱い標章であるとの判断を示し、出願標章が第三者の先使用権を侵害しているかどうかを評価するため、新たな決定を下すよう審理を差し戻した。 

決議第1417-2017/CSD-INDECOPIにより、標章局はINTRADEVCO INDUSTRIAL S.A.が請求した異議申立を棄却し、出願標章の登録を決定した。しかし、標章局は、この標章が第1類に登録されている複数の標章に含まれている「ULTRA」と「FLEX」という用語で構成されていることから弱い標章であり、この権利者は他の商標にこれらの用語が含まれていても、他の要素によって識別力があり、第三者の保護対象となる他の標章と区別できる場合には、それらの使用や登録に異議を申し立てることはできないと指摘した。

結論として、暗示的標章は登録可能となる場合があるが、それが暗示的と記述的の境界を越えない限りにおいてだ。この境界は定義が難しく記述的と見なされた場合には、絶対的拒絶事由に抵触し、登録拒絶となることは間違いない。

一方、暗示的標章を他の標章と比較する場合、「coffee(コーヒー)」、「cardio(スペイン語で「心臓」の意味)」、「ultra(ウルトラ)」などの一般的または記述的な用語や要素は考慮されず、むしろ標章に付随するその他の要素、例えば、付加的な呼称要素や図形要素等、標章に識別力を与える要素が考慮されることに留意する必要がある。
(Autor: Marietta Flores)

本文は こちら (Suggestive trademarks)