ルイ・ヴィトンは、象徴的な「LVモノグラム」商標の高い評判に基づき、「XL Sporting」のEU商標出願に異議を申立て成功した。EUIPO(欧州連合知的財産庁)異議部は、2つの標識の違いは、2つの文字の配置の類似性によって覆い隠され、全体的に似た外観的印象を生み出していると判断したとFlorence Chapinが解説する。
「高い評判の」商標は、EU商標法で広い保護範囲を享受しており、その評判を不当に利用している可能性のある模倣品から高級な商標を保護する判例が増加している。
2024年10月21日、EUIPO異議部は、中国の企業Dongguan Xing Long Sporting Goodsによる「XL Sporting」EU商標の出願に対してルイ・ヴィトン (Louis Vuitton Malletier)が請求した異議申立に関する事件(B 3 206 933)の決定において、この判例法の妥当性を再確認した。
高い評判の商標
2023年11月、ルイ・ヴィトンは25類(衣料品等)を指定した中国企業の出願商標(右図上)に対して異議を申し立てた。根拠としたのはルイ・ヴィトンが25類に登録した「LVモノグラム」商標(右図下)で、混同の虞があると主張した。
ルイ・ヴィトンは、LVモノグラムが高級品業界において確立された標識であることを裏付けるため、詳細な主張やLVモノグラムの評判に関する証拠を提示し、出願商標が登録および使用されることで、商品の出所について消費者を誤解させる虞があり、その結果、ルイ・ヴィトン商標の識別力が損なわれる虞があると主張した。
EUIPO異議部は混同の虞と商標の評判に対するダメージについて検討した;
混同の虞
混同の虞の評価において、異議部は商標間の外観的、称呼的、観念的な類似度を検討した。これは主に平均的な消費者の一般的な認識に基づいたもので、その結果、両商標の外観的な類似度は平均的であり、称呼的な類似度は低く、観念的な類似度は低いと判断した。
両商標には2つの文字の組み合わせが含まれており、それらは非常に類似して配置されている。さらに、そのうちの1つの文字は、両商標でほぼ同一に描かれており、異議対象の商標に追加されている文字要素「sporting」は重要性が低く、弱い要素としかみなされない。
つまり、2つの商標の相違点は2つの文字の配置による明らかな類似性によって相殺され、この2つの文字は、商標間に同様の全体的外観印象を与えることに大きく寄与しており、異議部は、出願商標は「LVモノグラム」商標と混同の虞を引き起こすのに十分類似していると結論付けた。
商標の評判に対するダメージ
本審決の重要な側面のひとつは、ルイ・ヴィトンの商標の高い評判が認められたことである。判例法によれば、直接的に混同の虞が低い場合であっても、高い評判を有する商標は広い保護を享受するということが確立されている。本件で異議部は、ルイ・ヴィトン商標の高い評判が、ルイ・ヴィトンに代表されるラグジュアリーの世界を連想させることにより、「XL Sporting」商標に対する消費者の認識に影響を与える可能性があると判断した。
「混同の虞」に加えて、ルイ・ヴィトンは希釈化(dilution)の主張も行った。ルイ・ヴィトンは、それほど高級でないブランドが同様のモチーフを使用することで、高級ブランドの評判を落とす可能性があると主張した。希釈化が商標の識別性を損なうという考え方は重要だ。それは高級ブランドではないものが類似する高級ブランドの図形や様式的な要素を使用することで高級ブランドのイメージが損なわれる可能性があると考えられるからだ。
異議部は、「XL Sporting」商標がルイ・ヴィトン商標の模倣と認識される虞があり、それが高級ブランドのイメージを損なうと考え、ルイ・ヴィトンの主張を認めた。
ルイ・ヴィトンの異議申立戦略
ルイ・ヴィトンの戦略は、商標の名声、広範な商業的使用、希釈化の虞に関する具体的証拠の蓄積に基づくものだ。
証拠によると、ルイ・ヴィトンは1854年にフランスで設立され、現在、世界最大の高級品会社の一つである。1896年に模倣を避けるために「モノグラム・キャンバス」と呼ばれる複雑なパターンが作られた。モノグラム・キャンバスは、様々なモチーフとルイ・ヴィトンのイニシャル「LV」を図案化したもので、販促物やカタログなど様々な媒体で見ることができる。
ルイ・ヴィトンから提出された相当量の証拠により、「LV」商標が長年にわたり集中的に使用されてきたこと、および関連市場においてルイ・ヴィトンのイニシャルとして一般的によく知られていることが疑いの余地なく示された。当該商標は、バッグやその他の革製品から婦人服に至るまで、ルイ・ヴィトンの多くの製品に使用されている。
世界的に有名なタレントや著名人を起用した広告も証拠として提出された。ルイ・ヴィトンの主張は、ルイ・ヴィトンのポジショニングを引用した世界有数の高級ブランド・ランキングや、国内裁判所、国内官庁、EUIPOの過去の決定によっても裏付けられた。
当然のことながら、異議部はルイ・ヴィトンを支持する決定を下し、「XL Sporting」の商標登録は拒絶された。
EUにおける商標の評価を最大限に高めるためには
本決定は、よく知られた商標を保護することの重要性と、高級ブランドが類似する商標の登録を阻止するために希釈化リスクなどの議論をどのように利用できるかを浮き彫りにした。
特にファッションや高級品の分野では、混同の虞を評価する上で消費者の認識が中心であることを再認識させるものであり、高級品ブランドの評判を不当に利用する可能性のある模倣品や商標からの保護に関する判例法も強化されている。
最後に、今回EUIPOが商標の希釈化問題に対してますます注力していることに注目したが、これは他の高級品ブランドに対して自社の名声やイメージを損なう可能性のある使用に対して、積極的にデザインを保護するよう促すきっかけとなるかもしれない。
本文は こちら (Louis Vuitton flexes trademark reputation of LV monogram in EU)