英国におけるブランド・オーナーとスーパーマーケット・チェーンとの間の法廷闘争で、サッチャーズ・サイダー社は、アルディが販売する類似品に対して提起した訴訟に勝訴した。紛争の背景とこの事件がマーケットリーダーにとって朗報となった理由をFarhan Kaziが解説する。
1月、英国控訴院(Court of Appeal of England and Wales)は、サッチャーズ・サイダー・カンパニー・リミテッド(Thatchers Cider Company Ltd、以下「サッチャーズ」)とアルディ・ストアーズ・リミテッド(Aldi Stores Ltd、以下「アルディ」)との間の商標侵害訴訟の判決を言い渡した。サッチャーズは、アルディによる「Taurus Cloudy Cider」標章の使用が、サッチャーズの「Cloudy Lemon Cider」商標を侵害していると控訴院が認めたことに歓喜したに違いない。

サイダー商標事件の背景
1904年に英国で設立されたサッチャーズは、2020年に「Thatchers Cloudy Lemon Cider」を発売し、第33類「サイダー、アルコール飲料(ビールを除く)」を指定して商標(写真右)を英国で登録した。
アルディは有名なディスカウント・スーパーマーケットであり、他社と類似する製品を開発する際、しばしば「ベンチマーキング」、つまり特定の商品(通常は市場のリーダー商品)を参考にして類似の商品を開発していたため、商標権侵害の訴訟が複数発生していた。アルディは2013年から「Taurus」という名前でサイダーを販売しており、2022年5月には「Taurus Cloudy Cider Lemon」を発売した(写真下)。

2022年9月、サッチャーズはアルディに対し、1994年英国商標法(TMA)第10条(2)項及び(3)項、および英国のコモンロー上の不法行為である「パッシングオフ(詐称通用)」に基づき、サッチャーズの英国登録商標を侵害したとして訴訟を提起した。
英国の知的財産企業裁判所(IPEC:Intellectual Property Enterprise Court)は、次のように結論づけて、アルディに有利な判決を下した。
* アルディの標章とサッチャーズの商標の類似度は高くない
* サッチャーズの商標には高い評判があり、関連する消費者がサッチャーズの商標とアルディの標章との間に関連性を認めるであろう。しかし、そのことでアルディの標章はサッチャーズの商標に便乗したことにはならない。
* サッチャーズの「Cloudy Lemon Cider」にはグッドウィル(営業上の信用)が認められる。しかし、アルディが不当表示を行った証拠はない。
サッチャーズは、1994年TMA第10条(3)に基づき、アルディの標章はサッチャーズの商標と酷似しており、アルディは正当な理由なく、商標の特徴的な性質及び高い評判を不当に利用し、不利益を与えたと主張し、IPECの判決を不服として控訴した。アルディは、第10条(2)及びパッシングオフに関する裁判官の判断を受容れた。
控訴院の判決
控訴院は、2025年1月に以下のような判決を下した;
標章:アルディの標章は、アルディ製品の缶及び4缶入りの紙パックのデザインであり、アルディの製品そのものではない。
類似性:IPECがサッチャーズの商標(平面標識)とアルディ・サイダーの立体デザインのみを比較したのは誤りであり、IPECはサッチャーズの商標とアルディのサイダーと4本入りの紙パックに印刷された平面デザインを比較すべきだった。
そのため控訴院は、サイダー商標紛争に関するIPECの審理において、より高い類似性の認定がなされるべきであったと判断した。
意図:サッチャーズは、IPECの判事が判断を誤ったと主張した。その理由は、「欺く意図」と「商標の高い評判を利用しようとする意図」を混同するか、少なくとも明確に区別しなかったとし、アルディの意図は、アルディの製品が「Taurusブランドのサイダー」として明らかに認識されることを目的としていたという証拠に重点を置いた。これは「欺く意図」の主張にとって非常に重要な要素となるが、サッチャーズが主張した「アルディがサッチャーズ商標の高い評判を利用しようと意図していた」という主張とはそれほど関連性がない。
控訴院は、アルディの標章がサッチャーズ商標に酷似していることは明らかであり、そのような酷似がなくても飲料がレモン風味であるというメッセージを伝えることは十分に可能であるとした。従って、類似は偶然ではあり得ない。
控訴院は、このことは以下によって確認されるとした;
* アルディが「Taurus Cider」の企業スタイルから逸脱していること
* 淡い横線の模倣(the imitation of the faint horizontal lines)
* 証拠によって明らかになったデザインプロセス
これらのことから、アルディの標章が消費者にサッチャーズの商標を想起させるのはアルディの意図であり、アルディの製品はサッチャーズの製品と同じで安いというメッセージを伝えるためであったという結論に達した。従って、アルディがアルディ製品の出所に関して消費者を欺いたり混乱させたりするつもりはなかったと主張しても、アルディはサッチャーズ商標の名声を利用してアルディ製品の販売を助けるつもりであったことを否定できない。
不当な利益
サッチャーズは、IPECの判事が、アルディ標章の使用はサッチャーズ商標の名声を不当に利用したという主張を斥けたのは誤りであると訴えた。特に、サッチャーズ商標に類似した標章の使用が、「L’Oréal 対 Bellure」事件で欧州司法裁判所(CJEU)が認めた「イメージの移転(transfer of image)」をもたらしたという主張には言及しなかった。
控訴院は、アルディの使用は「商標に関するイメージの移転」であり「商標に便乗した」ものであるとした。従って、アルディの使用はサッチャーズ商標の評判を不当に利用したものであり、サッチャーズの投資から利益を得て、アルディの製品販売を支援したものであると結論づけた。
ただし控訴院は、「アルディの標章の使用が商標の評判に害を及ぼすことをサッチャーズが立証できなかった」とする認定を不服とするサッチャーズの控訴理由を棄却した。
抗弁
アルディは、仮に標章の使用が第10条(3)に該当するとしても、1994年商標法第11条(2)(b)に基づく商標紛争の抗弁が可能であると主張した。具体的には、商標に類似する標章の要素は記述的または識別力がないものであり、その使用は誠実な慣行に従ったものであると主張したが、控訴院は、この抗弁を適用する目的で、アルディが使用した標章全体をその構成要素に分割することは正しくないとし、さらに、アルディはサッチャーズ商標の高い評判を認識しており、それを利用するつもりであった。したがって、アルディによる標章の使用は不正競争行為であり、産業および商業上の誠実な慣行に従っていないとの判断を示した。
本文は こちら (Cheers to the latest UK trademark dispute: Another round of… cider!)