台湾の規定では、一般商標と比べて著名商標の保護がより強化されている。著名商標は、他人による登録を消極的に防止することができ(商標法第30条第1項第11号規定)、また、他人が会社、商号、団体、ドメインネーム又はその他営業主体を表彰する名称として使用することを積極的に阻止することができる。同法第70条第2号の規定は、商標権者の同意を得ずに、他人の著名な登録商標であることを明らかに知りながら、当該著名商標中の文字を、自己の会社、商号、団体、ドメインネーム又はその他営業主体を表彰する名称とすることで、関連消費者に混同誤認を引き起こすおそれがある、又は該商標の識別性又は信用を損なうおそれがある場合、商標権侵害とみなされる旨を規定している。
しかし、著名商標の「著名性」はどのように認定するのか。商標が表彰する識別性と信用は「一般消費者」に普遍的に認知されている必要があるのか。それとも、「一般消費者」に普遍的に認知されていることが立証されていなくても、特定の関連商品の市場において「関連消費者」に広く知られていれば「著名」なのか。前者の基準を採用する場合、商標が保護されるためには、より高い著名程度が要求される。
この問題について、実務上では一致した見解がある。商標法施行細則第31条によると、商標法にいう著名とは、「関連」事業者又は消費者に普遍的に認知されていると認定するに足る客観的証拠があるものをいう(最高行政裁判所111年(西暦2022年)度大字第1号裁定、110年(西暦2021年)度上字第138号判決要旨を参照)。したがって、商標の著名性の程度に関係なく、商標が表彰する識別性と信用が「関連消費者」に普遍的に認知されていれば、当該商標を著名商標として認定するのに十分であり、関連法令の保護を受けることができる(知的財産及び商業裁判所111年(西暦2022年)度民商訴字第24号民事判決を参照)。
この認定基準によると、被疑侵害者が市場調査報告書を提出し、係争商標が「一般消費者」に普遍的に認知されていないことを立証したとしても、やはり、著名商標であることを否定するにはまだ不十分である。知的財産及び商業裁判所2024年7月18日付113年(西暦2024年)度民商上字第1号民事判決を例にすると、被疑侵害者は市場調査報告書を提出し、回答者のほぼ95.50%が係争商標を見たことがないと答え、見たことがあると答えたのはわずか4.5%であったことから、係争商標は著名商標ではないと主張した。しかし、裁判所は、当該市場調査報告は、調査対象が係争商標の商品の関連消費者でないことを主な理由として、係争商標が著名商標であることを否定する証拠として用いることはできないとした。
裁判所は、商標権者が提出した以下の事実と証拠を検討し、最終的に係争商標を著名商標と認定した。
・係争商標は登録公告から30年以上が経過した(経済部(日本の経産省に相当)商業登記の公示情報、智慧財産局(日本の特許庁に相当)商標検索システムの検索情報)
・商標権者が多くの商品を販売し、数多くの賞を受賞している(公開ウェブサイトの会社概要、ウェブサイト情報、トロフィー写真)
・販売チャンネルランキング10位の記録
・販売拠点は台湾全土に広がっている(関係企業の販売拠点情報)
したがって、裁判実務によると、著名商標の認定は、商標識別性の強弱、関連事業又は消費者が商標を知悉又は認識している程度、商標の使用期間、範囲及び地域、商標の宣伝期間、範囲及び地域、商標が出願又は登録されたか、その登録、登録出願の期間、範囲及び地域、商標がその権利執行に成功した記録、特に行政又は司法機関に著名と認められた場合を指す、商標の価値、その他著名商標と認定するに足る要素などを考慮し、個別具体的な事案に応じて総合的に判断する必要がある。上記の要素は列挙的なものではなく例示的なものであり、上記の参酌要素の全てが必ずしも個別案件に存在するとは限らない。著名商標であると主張する商標権者は、当該商標を著名商標として認めるよう裁判所を説得するために、個別具体的な事案に応じて、当該商標が特定の関連商品の市場において関連消費者に広く知られている証拠を提出しなければならない。