一、前言:消滅時効制度
台湾では、ブランドオーナー(商標権者)は、模倣業者の不法な商標権侵害行為に対して、刑事上の告訴により刑事責任を追及するとともに、模倣業者に対して民事上の損害賠償請求することがある。そのほとんどは、刑事付帯民事訴訟(付帯私訴)という仕組みを活用して、関連する裁判費用を節約し、かつ直接刑事裁判所が刑事事件において認定した事実を賠償判決の根拠とすることにより、原告の立証負担を大幅に軽減する。
その際、模倣品業者の防御戦略としては、消滅時効の抗弁を提出して賠償を拒否しようとすることが多い。これは、消滅時効の制度設計によるものであり、関連する立法理由や各学説によれば、「権利の上に眠る者は保護されない」という説が最も多い。また、債務者が弁済の証拠を保存する負担を軽減し、その不安を解消する目的もあるという説や、法的安定性の確保の観点から、権利者が権利の行使を怠ったことによって相当の期間を経て形成された新秩序を尊重するという説もある。したがって、消滅時効の起算点の判断は、訴訟の勝敗を直接左右しうるものであり、その重要性は自明である。
二、関連規定
民法第197条第1項には、「不法行為に基づく損害賠償請求権は、請求権者が損害及び賠償義務者を知った時から2年間行使しないときは、消滅する。不法行為の時から10年経過したときも同様である」と規定されている。商標権侵害事件において、被害届を提出した日、捜査や証拠収集が行われた日、鑑定後に模倣品であることが確認された日、捜査機関による捜索差押日、(捜索・差押え後)鑑定後に模倣品であることが確認された日、刑事事件の一審判決宣告日など、多くの関連時点が関係するが、一体どの日を時効の起算日とすべきか。
以下では、最近同じ事件の一審、二審で採用された異なる見解を通じて、消滅時効の抗弁が商標権侵害事件において極めて重要かつ注目すべき法律問題であることを改めて強調したい。
三、事例分析
被告会社は、原告の登録商標(以下「係争商標」という)を含む複数のブランドオーナーの登録商標を侵害する商品を販売した疑いがある。2021年5月11日、警察は裁判所から発付された捜索令状を持参して被告の所に赴き、係争模倣品を差し押さえた。その後、原告は2021年11月4日に侵害鑑定報告を警察に提出し、これらの模倣品がいずれも原告の係争商標権を侵害する商品であることを証明した。原告は、2023年10月18日になってはじめて被告に対し係争商標の侵害に係る損害賠償金を求める刑事付帯民事訴訟を提起した。これに対し被告は、原告の損害賠償請求権は2年の消滅時効にかかっていることは明らかであると主張した。
一審判決:
(台北地方裁判所112年(西暦2023年)度智附民字第7号刑事附帯民事訴訟判決)
裁判所は、原告は遅くとも警察が捜索を行った2021年5月11日までに、係争商標権の侵害及び賠償義務者を知っていたはずであるから、原告の本件損害賠償請求権は2年の消滅時効にかかっているとし、損害賠償金の支払いを拒否するという被告の主張に理由があると判断した。
二審判決:
(知的財産及び商業裁判所113年(西暦2024年)度附民上字第7号刑事付帯民事訴訟判決)
二審裁判所は、「損害を知った時」について、加害者の侵害行為が継続(持続)発生し、被害者の請求権も継続発生している場合には、当該請求権の消滅時効もまた絶えず更新されるべきであるとした。したがって、継続的侵害行為は、侵害が停止するまで、損害が依然として継続している状態において、被害者は被害の実態を知ることができず、損害賠償請求権を行使することができない以上、その消滅時効は自ずと損害の程度が確定した時点から起算すべきである(最高裁判所96年(西暦2007年)度台上字第188号判決を参照)。係争商標権の侵害行為は、継続的権利侵害行為に該当し、かつ、控訴人(すなわち一審原告)の損害賠償請求の範囲、すなわち刑事判決で認定された事実は、係争商標を付した模倣品、すなわち押収された模倣品である。したがって、原告が2021 年 11 月4 日に提出した係争商標を付した模倣品の侵害鑑定報告が完成する前に、控訴人が損害の発生原因及び被害の実態を知っていたとは認めがたい。したがって、係争権利侵害行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、控訴人が2021年11月4日の損害程度確定時に知っていたと認めるべきである。控訴人は2023年10月18日に本件刑事付帯民事訴訟を提起したが、2年の消滅時効にかかっていないことが明らかであり、上記の請求権が消滅時効にかかったとする被控訴人(すなわち一審被告)の主張は採用できない。
四、結論
上記同じ事件における一審、二審の見解の相違は、被告が時効を理由に商標権者に対する賠償を拒否できるかどうかに直結している。したがって、商標権者が被告に対して民事上の損害賠償を請求しようとする場合は、できるだけ早く請求しなければならない。詳しくいえば、商標権者は関連する消滅時効の起算点に特に注意を払い、適時に対応策を講じ、消滅時効の起算点についてできる限り最も適切な計算方法を採用し、自身の法律上の権利を確保する必要がある。特に、商標権者が付帯民事訴訟(民事裁判所に個別に民事訴訟を提起するものではなく)を提起することを選択した場合、付帯民事訴訟は検察官が被告を起訴した後しか提起できないため、検察官の捜査に時間がかかり過ぎると、最終的に起訴されてから、消滅時効が完成していたり、あまり時間が残されていなかったりすることもあるため、商標権者は特に注意すべきである。
もう1つ注意すべき点は、時効完成の効力である。台湾では、抗弁権発生主義を採っており、すなわち、消滅時効が完成した後、債務者が給付拒否の抗弁権を取得するが、債権者の債権自体は依然として存在し、消滅しておらず、債務者は時効完成を主張して給付を拒否できるだけである。債権者の債権は消滅していないので、債務者が時効完成後も給付していれば、債権者は不当利得返還の問題を抱えることはない。なぜなら、消滅時効完成後は、債権者の「請求力」のみが消滅するが、その「給付保持力」は依然として存続するからである。