2025-03-12

ベトナム政府の再編:知的財産への影響 - Tilleke & Gibbins

ベトナム政府は現在、大規模な再編を進めており、各機関を統合・廃止することで業務の効率化を図っている。この再編は、ベトナムの知的財産分野にも大きな変化をもたらすと予想される。今後数年間の知的財産保護および執行に影響を与える可能性のある主要な動向について解説する。

省庁の統合
今回の再編の中でも特に注目されるのが、複数の省庁の統合で、例えば、情報通信省(MIC)と科学技術省(MOST)が統合される予定だ。ベトナム知的財産庁はMOSTの下にある組織であるため、この統合は知的財産の管理や執行にさまざまな影響を与えると考えられる。

新たに統合された省庁は「科学技術省(MOST)」の名称を維持すると予想されており、デジタル経済の発展を積極的に支援する方針だ。これにより、知的財産の管理・申請においてデジタルツールのさらなる進化が期待される。例えば、電子出願(e-filing)、オンライン手続き、デジタル決済システムの改善が進むことで、知的財産関連サービスの利便性と効率性が向上する可能性がある。

また、ドメイン名に関する紛争処理も、より統一的なアプローチが取られることが予想される。従来、ドメイン名紛争の管轄はMICとMOSTに分かれており、手続きの複雑さを招く要因となっていたが、今回の省庁統合により、これらの案件は一元的に処理されるようになり、統一ドメイン名紛争処理方針(UDRP)に沿ったモデルが採用される可能性もある。

検査当局の構造改革
今回の再編は、知的財産を担当する検査当局にも影響を及ぼし、特に科学技術省(MOST)および文化・スポーツ・観光省(MOCST)に属する機関が対象となる。この変更により、行政執行の一時的な遅れが生じる可能性がある。
* MOSTの監察局 は、工業所有権の侵害を取り扱うが、移行期間中は執行の遅延が発生する可能性がある。
* MOCSTの監察局 は、著作権を担当しており、同様の混乱が予想される。
ただし、これらの遅れは一時的なものであり、新たな組織体制が完全に整えば、執行の効率は向上すると見込まれている。

市場管理局の機能が地方政府へ移管
これまで商工省の管轄下にあった 市場管理局(MSD) は、地方政府の管理下へ移管される。この地方分権化により、知財関連の摘発や執行の調整や一貫性に一時的な影響が出る可能性がある。しかし、中央政府は地方政府に対し執行効率を維持し、遅延を最小限に抑えるよう指示を出している。
長期的には、この変更により各省の状況に応じた、より地域に密着した迅速な執行が可能になると期待されている。

裁判制度の合理化
ベトナムの司法制度も再編の対象となり、地方および地区レベルで大きな変化が予想されている。
* 一部の省が統合され、現在の63省から数が減少する見込み
* 地区レベルの裁判所は廃止される可能性があり、これは最近の地区レベルの警察組織の廃止と一致する

これらの変更により、地方政府の裁判手続きへの影響が減少し、司法の独立性が高まると期待されている。しかし、この再編により、当初2025年末までに設立予定だった知的財産専門裁判所の設立が遅れる可能性がある。運用が開始されれば、合理化された裁判制度により、知的財産紛争に関する判決がより迅速かつ一貫性のあるものとなり、知的財産権の司法的執行が強化される見通しだ。

税関による取り締まりへの影響は最小限
ベトナムの国境における知的財産保護の重要な要素である税関の取り締まりは、税関当局の統合や合理化が進む中でも、影響は最小限にとどまると予想される。模倣品の摘発や国境検問所での知的財産権の執行といった核心的な機能は従来どおり継続され、国境を越えた知的財産保護の強化が維持される見込みである。

今後の展望
ベトナム政府の再編は、同国の知的財産分野にも変化をもたらし、課題と機会の両方を生み出すことになる。短期的には一時的な遅れが生じる可能性があるものの、新設される省庁のもとで知的財産行政が統合され、技術革新への重点強化、ドメイン名紛争の調整の改善、執行メカニズムの合理化が進むことで、長期的には効率性・一貫性の向上と司法の独立性強化が期待されている。

本文は こちら (Vietnamese Government Restructuring: Impacts on Intellectual Property Subscribe to Updates)