2025-03-07

中国:「悪意のある」商標は譲渡と使用によって『みそぎ』となるか? - Marks & Clerk

近年、「悪意のある」商標登録の譲渡と無効に関する争いが頻発している。問題の核心は、譲渡とその後の使用によって、こうした悪意のある商標を事実上「正当化」できるかどうかという点にある。本記事では、司法および行政当局の判断ロジックを、代表的な3つの事例を通じて検討するとともに、この問題をめぐる法理論上の議論についても考察する。

事例1: 「XIAOMI CERAMICS」商標の無効 [(2023)北京第二審第5554号]

争点となった商標「XIAOMI CERAMICS(右図)」(登録番号10601582)は、もともと会社Aによってタイルなど第19類の商品を指定して登録され、その後会社Bに譲渡された。

中国でスマートフォンや電気自動車を販売する小米科技(Xiaomi Technology Co., Ltd.)は、この商標登録が大規模な商標の不正占有(スクワッティング)の結果であることを理由に、無効請求を行った。

中国国家知識産権局(CNIPA)は、元の登録者(会社A)と譲受人(会社B)が互いに関連会社であると判断し、法定代理人が共通していたことや株主が重複していたことを指摘した。さらに、会社Aが「Xiaomi」などの著名な商標と類似する20以上の商標を大量に登録していたことを理由に、これは「不適切な手段による登録の取得」に該当すると結論付け、当該商標の無効を決定した。 

第一審および第二審の裁判所もこの決定を支持し、悪意のある登録の違法性は権利の譲渡によって消滅しないことを強調した。

事例2:「Love Rice Island」商標の無効[(2023) 北京第二審第7385号]

争点となった商標「Love Rice Island(中国語表記:右図)」(登録番号8475783) は、ある企業によって第43類(レストランなどのサービス)に登録され、その後、複数回の譲渡を経て范(Fan)氏に移転された。

その後、王(Wang)氏が無効審判を請求し、当該企業が商標を大量に囲い込み、他人のブランドを悪意で奪取して利益を得ていたことを理由に、「不正な手段による登録の取得」に該当すると主張した。

しかし、CNIPAはこの請求を棄却した。その主な理由の一つは、范氏がすでに当該商標を使用し、広告宣伝を行っていたためである。第一審の裁判所もCNIPAの判断を支持し、請求を棄却した [(2023)北京73第一審第6959号]。

しかし、第二審の裁判所は第一審の判決を覆した。その判断の要点は、元の商標権者が80件以上の商標を出願しており、その多くが有名ブランドを模倣していたという事実であった。

裁判所は、「商標の譲渡や実際の使用によっても、悪意を持って出願された登録の本質的な欠陥を是正することはできない」として、最終的に商標の無効を認めた。

事例3:「元貝運転試験」不正競争事件 [(2022) 陝西省第二審第139号]

南京元貝信息技術有限公司(「南京元貝」)は、運転試験のトレーニングサービスにおいて「元貝」(中国語)の商号を使用し、「元貝運転試験」および「元貝コーチング」というモバイルアプリを開発した。これらのアプリは多くのユーザーを獲得し、高い評価を得ていた。

一方、西安愛科技有限公司(「西安愛」)は、上海の企業から「元貝(右図上)」(中国語、登録番号14484123、14485042)および「元貝運転試験(右図下)」(中国語、登録番号15442805)の商標を取得し、コンピュータプログラミングや職業に関する再訓練などのサービスに採用した。その後、西安愛はこれらの商標を子会社である西安元貝科技有限公司(「西安元貝」)にライセンス供与した。

その後、西安元貝は南京元貝に対して複数の商標権侵害の申し立てを行い、その結果、南京元貝のアプリはオンライン市場から削除された。これに対し、南京元貝は西安愛および西安元貝を不正競争行為で提訴した。

第一審裁判所([(2021) 陝西省第一審第1770号])は、西安愛と西安元貝が競争相手として、南京元貝が以前から使用していた商号やアプリ名を侵害しないようにすべきであったと判断し、不正競争行為の責任があると認めた。

第二審裁判所は、元の商標登録者である上海の企業が約700件の商標を大量に保有しており、その多くが有名ブランドと類似していたことを指摘した。さらに、問題となった商標が南京元貝のブランドを不適切に流用したものであり、法的な保護を受けるべきではないと判断した。加えて、商標の取得およびその後の使用は、南京元貝の信用を利用する意図を示していると認定し、西安愛と西安元貝が共同で不正競争行為を行ったと結論付け、最終的にこれらの商標の無効を認めた。

司法裁量と行政裁量の相違
これらの事例から、CNIPAは、譲受人が無関係の第三者であるか、商標が実際に使用されているかなど、形式的なチェックを重視していることがうかがえる。このアプローチは、誠実な譲受人を保護し、共謀的な悪意の証拠がない限り、既存の市場秩序の維持を目的としている。
一方、裁判所は、登録の動機や権利移転の経緯をより詳細に審理し、「最初に発生した権利の欠陥は後の行為によって是正されない」という原則に基づき、「悪意の継続」理論を適用している。裁判所は、登録行為が違法であれば、権利の移転やその後の使用によっても権利の本質的な欠陥は変わらないと強調しており、さらに、元の登録者と譲受人の間に関係性や協力関係が認められる場合、その悪意の属性は譲受人にも及ぶと判断している。

この裁量の違いは、行政が取引の安定性を重視する一方で、司法は既存の正当な権利・利益の保護に重点を置いていることを反映している可能性がある。裁判所は「悪意は是正されない」という司法原則を強調し、商標の先取り登録や不正取得を根本的に防ぐことを目的としている。

企業向けのポイント
企業が商標登録を維持できるかどうかを判断する際、元の登録者の動機を評価することがますます重要になっている。企業が自社の資産を保護するためには、価値の高い商標を取得する前に徹底的なデューデリジェンスを行うべきだろう。これには、登録者の経歴、他の企業との関係、所有する商標数、他者の権利を侵害した履歴の有無などを調査することが含まれる。これらの手順を踏むことで、企業は悪意のある商標を引き継いでしまうリスクを効果的に回避し、資産を守ることができる。

さらに、自社の商標が「スクワッティング」の対象になっていることが判明した場合、登録者の悪意を立証するための証拠を積極的に収集することが重要だ。例えば、商標の大量保有、模倣登録、機会を狙った使用などが該当する。特に、問題の商標が譲渡された場合、元の登録者と譲受人の関係を明確に示すことができれば、登録を無効にできる可能性が大幅に高まる。また、当該商標が実際に使用されている場合は、不正競争防止法に基づく民事訴訟を提起し損害賠償を請求することも検討すべきだろう。

こうした積極的な対策を講じることで、企業は商標法制の複雑さに適切に対応できるようになり、資産や正当な権利を守り、市場での競争力を強化することができる。その結果、ブランドの信頼性と評判の維持にも繋がる。

本文は こちら (Can the Legitimacy of a Trade Mark Be ‘Cleansed’ through Assignment and Use?)