2025-05-30

インド:故意による商標権侵害を抑止する強力な先例となるボンベイ高裁の裁定 - Chadha & Chadha IP

ボンベイ高等裁判所は、Bisleri International Private Limited(ビスレリ・インターナショナル)対Tushar Rajesh Mundada(インドの飲料会社「Natvits Beverages Pvt Ltd」の共同創業者でCEO)他の訴訟において、最近人気ビジネス番組「Shark Tank India」に出演し、資金調達に成功したパッケージ飲料水ブランド「Aquapeya(アクアペヤ)」を製造するNatvits Beverages Private Limited(ナトヴィッツ・ビバレッジズ)に対し、即時にすべての事業活動を停止するよう暫定命令が出した。これは、インドで有力な飲料水ブランドであるビスレリ・インターナショナルによる商標権侵害の申し立てを受けたもので、ビスレリは「アクアペヤ」ブランドが自社と紛らわしい色使いやデザインを使用していると主張した。これを受けて、裁判所はアクアペヤの製造、包装、流通、販売、マーケティングのすべてを停止するよう命じた。 

背景
原告のビスレリ・インターナショナルは、ボトル入り飲料水市場において確固たる地位を築いており、「ビスレリ」という名称に関連する複数の商標を保有している。同社は主にB2C(企業対消費者)モデルで事業を展開しており、小売店、電子商取引プラットフォーム、一般流通などを通じて最終消費者に直接商品を販売・マーケティングしている。
一方、被告は、B2B(企業対企業)モデルで事業を行っており、「アクアペヤ」の名称でホテルや商業施設、法人顧客向けにパッケージ飲料水を一括供給している。

ビスレリは、自社の登録商標の侵害およびパッシング・オフ(詐称通用)を主張して訴訟を提起した。アクアペヤの外観的なブランド構成(緑色のカラースキームやラベルデザインの使用)が、意図的にビスレリのブランドを模倣し、消費者の関心を引くことを狙ったものだと主張した。さらにビスレリは、アクアペヤが「違法に複製したアートワークを使用することで、登録商標と著作権を侵害している」とも訴えた。

問題を深刻化させたのは、アクアペヤの創業者たちが「人気ブランドのカラーを採用した」と公に認めたうえで、市場における大手企業の評判を利用して自社の認知度を高めようとしたことだ。この点について、アクアペヤの関係者は「ビスレリと同じ緑色を使ったのは、消費者がその色に親しんでいるからだ」と述べている。

裁判所の判断
ボンベイ高等裁判所は、アクアペヤのブランディングがビスレリのものと紛らわしいほど酷似しており、知的財産権の侵害に該当すると認定した。その結果、同裁判所はアクアペヤの製造、包装、マーケティング、販売のすべての業務を、今後の審理が行われるまで完全に停止するよう命じた。

消費者の混同のリスクを評価する際、裁判所は商品の性質、購入者の属性、購入方法などを考慮する。具体的には、ビスレリはB2Cブランドであり、一般消費者を対象とし、小売市場での入手のしやすさと視認性が特徴だが、一方でアクアペヤは法人顧客向けのクローズドな供給チェーンの中で事業を行っており、顧客の多くは調達ポリシーや契約条件を持っているため、衝動的な購入や混同による取引が起きにくいとされている。

したがって、両者は購入者の属性だけでなく、購買行動、認知レベル、流通経路においても異なっており、これらの違いは混同のリスクを大きく軽減し、インド商標法第29条第1項および第2項に基づく法的違反が成立しない可能性を示唆している。

しかし本件では、アクアペヤの創業者自身が「顧客を引きつけるために人気ブランドの色を使用した」と認めており、これを裁判所は悪意および故意の侵害の証拠とみなした。

結論
原告によるブランド保護への懸念はもっともであるが、当事者間の事業モデル、特にアクアペヤのB2B的性質があったとしても、商標の模倣に対する意図およびその認定を無効にすることはできない。したがって、ボンベイ高等裁判所の判断は、商標紛争において市場セグメンテーションや消費者の認知レベルが重要な要素である一方で、著名な商標のブランド要素を故意に流用したことを認めた被告を免責するものではないことを明確に示した。 

その結果、両者の市場が直接的に重ならないものの、アクアペヤには事業活動の停止が命じられた。これは、ブランド保護を強化し、故意による商標権侵害を抑止する強力な先例となるものだ。

本文は こちら (Bombay High Court Halts Aquapeya’s Operations in Trademark Dispute with Bisleri)