不正競争と寄生的行為(parasitism)は、特に商品の外観的アイデンティティが重要な高級品市場において商標法上の主要な懸念事項である。高級宝飾品店ヴァンクリーフ&アーペル(以下、「ヴァンクリーフ」)と高級ファッションブランド、ルイ・ヴィトンの間で争われた四つ葉のクローバーモチーフの使用をめぐるフランス破毀院(Court of Cassation)の最近の判決から、Florence Chapinが考察する。
ルイ・ヴィトンの「ブロッサム」コレクションは、四つ葉のクローバーモチーフを特徴としており、ヴァンクリーフの「アルハンブラ」のデザインに類似していると指摘された。しかし、パリ控訴院(Paris Court of Appeal)は、ルイ・ヴィトンはヴァンクリーフの名声から不当に利益を得ようとする意図がなかったと判断し、寄生的行為とのヴァンクリーフの主張を認めなかった。2025年3月5日、破毀院商事部(Commercial Chamber of the Court of Cassation)はこの判決を支持した(Van Cleef v Louis Vuitton, Appeal No 23-21.157)。
紛争の始まり
ヴァンクリーフ対ルイ・ヴィトンの訴訟は、創造的な革新と伝統的で識別力のある標識の保護との間の緊張関係を示しており、商標問題における不正競争と寄生的行為に関するフランスの判例法において重要なマイルストーンとなった。
この紛争は、カルティエとヴァンクリーフを所有するスイスの高級品グループであるリシュモン・インターナショナル(以下、「リシュモン」)が、ルイ・ヴィトンの「ブロッサム」ジュエリー・コレクションのモチーフをめぐり、ルイ・ヴィトン・マルティエと争ったものである。
1968年に誕生したヴァンクリーフのアルハンブラ・コレクションは、半貴石のハードストーンを貴金属と組み合わせた左右対称の四つ葉のクローバーモチーフが特徴で、ブランドの象徴となっている。2000年にジュエリー市場に参入したルイ・ヴィトンは、2015年にブロッサム・コレクションを発表し、1896年から使用している伝統的なモノグラム生地にインスパイアされた四つ葉のモチーフを取り入れた。リシュモンとカルティエは、ルイ・ヴィトンが「アルハンブラ」コレクションの名声と職人技を不当に利用しているとして、この類似性は寄生的行為にあたると主張した。
パリ控訴院は2023年6月23日の判決で、モチーフの違いは十分な知識を持つ消費者が混同するリスクを排除するのに十分であると判断し、寄生的行為とする訴えを棄却した。控訴院はまた、4つの葉を持つモチーフの使用はジュエリー業界における一般的なトレンドになっており、ルイ・ヴィトンはヴァンクリーフの後塵を拝することを意図したものではないと判断を示した。
ヴァンクリーフは控訴審で、フランス商標法における寄生的行為の様々な構成要素を持ち出し、それらは以下のように考慮されるべきであると主張した:
* 技術的成果を得るために必要なものではなく、アルハンブラの四つ葉のクローバーモチーフの特徴を流用した
* アルハンブラ・コレクションの特徴を流用し、31のジュエリーからなるまとまりのあるシリーズを作った
* 同じ半貴石カラーを使用した
* アルハンブラ・コレクションと同様の3つのモチーフ・サイズに争点となるジュエリー・コレクションを構成した
* 同等の価格戦略を採用した
* ルイ・ヴィトンの伝統的なブランド規約から逸脱した、ヴァンクリーフのコミュニケーション戦略を利用した
破毀院の判決
破毀院は、以下の理由で控訴を棄却した;
「寄生的行為とされる有名な製品の特徴をすべて再現することなく、被告(ルイ・ヴィトン)が元の製品に類似した形状を持つ製品を販売したが、新しいコレクションは被告の有名なモチーフを変化させたものにすぎず、使用された素材も現代のトレンドに沿ったものであったと認定したことに照らして、被告が原告(ヴァンクリーフ)の製品に便乗して自らの地位を築こうとしたものではないと控訴院が結論付けたのは正当である。」
そのため破毀院は、控訴院が重要な要素を適切に考慮したことを強調した:つまり、ルイ・ヴィトンの「ブロッサム」コレクションのモチーフは、「アルハンブラ」モデルのすべての特徴的要素を再現していたわけではなく、特に真珠の縁取りや両面のセッティングが欠如していたという点である。
従って破毀院によると、ルイ・ヴィトンはヴァンクリーフの名声から不当に利益を得る意図はなかった;「ルイ・ヴィトンは、「アルハンブラ」モデルからではなく、自社のモノグラム生地にある四つ葉の花から着想を得ており、「カラー・ブロッサム」コレクションにおける貴金属で縁取られた半貴石の使用は、市場における一般的なトレンドに沿ったものであり、(ヴァンクリーフが)他の宝飾ブランドにそれを法的に禁止することはできない。控訴院は、リシュモングループ各社の主張を個別に検討し、その後に全体として評価を行った上で、両コレクションに類似点があることを認めたが、第4および第5の主張で言及されたさらなる調査を行う必要を認めなかった。なぜなら、控訴院の認定により、それらは無関係となったからだ。さらに、第6の主張の争点となった無用な根拠はさておき、控訴院がルイ・ヴィトンはリシュモンに便乗して自らの地位を築こうとしたものではないと結論付けたことは正当である。」
ヴァンクリーフ対ルイ・ヴィトン:実務上の示唆と対象範囲
破毀院は本訴訟において寄生的競争を認定しなかったが、破毀院の判決は、直接的な欺瞞がない場合であっても、公衆の混同を引き起こす虞のある模倣品からオリジナルの創作物を保護することの重要性を補強している。同時に、絶対的な保護を確保することの難しさも浮き彫りにしている。また、企業が新製品を開発する際には、既存の創作物を不当に利用しないように注意を払わなければならないという注意喚起にもなっている。
本判決は、商標法における「寄生的行為」の評価基準について重要な明確化を行っており、類似性の全体的な分析と企業の創造的投資の保護の必要性を強調している。また、「寄生的行為」を立証するには、競合他社の成果を不当に流用したことを示す必要があると指摘している。
破毀院の論理は、次の原則を再確認している;「寄生的行為があったと主張する当事者には、自らが搾取されたとする特定の経済的価値および第三者が模倣する意図を立証する責任がある。」
本判決は、これまでの判例と一致しており、一般的な市場トレンドから着想を得ること自体は寄生的競争には該当しないことを確認している。