2025-06-12

ベトナム:オンライン上のIP侵害対策、サイトとキーワードのブロッキングを活用 - Tilleke & Gibbins

ベトナムにおけるデジタル経済の成長は、大きな可能性をもたらす一方で、オンライン上の知的財産権(IP)侵害という継続的な問題の原因にもなっている。IP権利者が直面する問題は、デジタルサービス(ストリーミングサイトやトレントサイトなど)での著作権侵害から、eコマースサイトやソーシャルプラットフォームでの模倣品販売、さらに商標の不正使用など多岐にわたる。これらの侵害は利益を削るだけでなく、ブランドの評判を損ね、消費者を誤解させる結果にもなる。そのため、サイトブロッキングとキーワードブロッキングは、ベトナムにおけるIP権利行使の手段としてますます重要性を増している。

ブロッキング措置の法的枠組み
ベトナムでは、特に2022年の知的財産法の改正以降、サイトおよびキーワードのブロッキングに関する法的枠組みが整いつつある。以前は、ブロッキングの法的根拠が複数の法律に分散していることもあり、インターネットサービスプロバイダー(ISP)は当局からの公式な要請があった場合に限り、侵害コンテンツへのアクセスを遮断する義務を負っていた。

改正知財法で導入された第198b条は、著作権者が直接サイトブロッキングを要請できる明確な仕組みを確立した点で、大きな転機となった。この条項により、正当な削除・ブロッキング要請にISPが応じる義務が生じた。

知財法に加えて、情報技術法、サイバーセキュリティ法、広告法、各種政令なども重要な法令だ。これらの法律は、ブロッキング措置に関する構造化された実効性のある基盤を提供している。ただし、実際の権利行使はISPの協力と侵害の証拠の明確さに依存している。

管轄当局
以前、権利者は、科学技術省や文化・スポーツ・観光省、電子商取引・デジタル経済局(iDEA)傘下の専門監査部門を通じて、行政措置を求めることができた。しかし、最近の政府機構の再編により、これらの機関は解体され、その機能は国家監察省(Government Inspectorate)へ移管された。そのため今後しばらくの間、権利行使のタイムラインに影響が生じる可能性がある。
なお、ブロッキング命令などを含む民事上の紛争は人民法院(People’s Courts)が扱い、刑事事件については警察に付託される。

実務におけるブロッキングの仕組み
これらの措置を効果的に実施するには、権利者はその実務的な運用を理解する必要がある。

サイトブロッキングは、ベトナム国内のインターネットユーザーが特定の侵害サイトにアクセスするのを直接阻止する手段で、ISPは正当な要請や命令を受けてこれを実施する。技術的手段としては、DNSブロッキング(ドメイン名からIPアドレスへの変換防止)、IPアドレスの直接ブロック、侵害コンテンツを含む特定のURLのフィルタリングなどがあり、侵害元への国内からのアクセス遮断を目的としている。

キーワードブロッキングは、侵害コンテンツや製品の「見つけやすさ」に狙いを定めた手法で、たとえ侵害サイトが存在しても、検索しにくくすることでその影響力を大幅に減らすことが可能だ。これには、Google、Bing、ベトナムの検索エンジンCốc Cốcなどに対し、特定キーワードに関連する検索結果から侵害リンクの削除や順位の引き下げを要請することが含まれる。また、Google Ads、YouTube、Facebook、TikTokなどの広告プラットフォームと連携し、該当キーワードに関連した模倣品や海賊版商品の広告が表示されないようにする取り組みも可能だ。こうした手法は、消費者の検索行動と侵害コンテンツとの接点を断ち切る上で有効だ。

実務的なステップ
ブロッキング措置を実施するには、体系的かつ実践的なアプローチが求められる。通常、このプロセスはまず、侵害の特定と記録化から始まる。司法執行官(bailiff)による記録作成や、必要に応じてテスト購入を行うなど、強力な証拠を収集・保存することが、その後の法的措置を支える上で不可欠だ。 

確かな証拠が揃ったら、権利者は最も適切な権利行使の手段を選ぶ必要がある。この判断には、侵害の重大性、対応の緊急性、利用可能なリソースなど、さまざまな要因が関係する。

一つの方法として、ISPに対して内部の報告窓口を通じて直接削除要請をすることが挙げられる。このアプローチは、明白な違反に対しては迅速な対応を得られる可能性がある。ただし、その有効性はISPの協力姿勢に大きく依存するため、必ずしも一貫した成果が得られるとは限らない。侵害が曖昧であったり、評価が難しいとISPが判断した場合など、対応を拒否されることもあり、そのようなケースでは、関係当局に判断を仰ぐよう助言されるのが一般的だ。

他の選択肢としては、関係当局に対して行政措置の申立てを行う方法がある。これは訴訟よりも効率的かつコスト効率に優れる場合が多いが、現在進行中の監督機関の再編の影響で遅延が生じる可能性もある。Eコマースに関する侵害の場合は、iDEAへ申し立てることもできる。

民事訴訟は、多額の損害賠償や差止めの救済を求めるケースに適しており、刑事手続きは、大規模な模倣行為などの重大な犯罪に対して必要となる。ただし、いずれの方法も長い時間と大きなリソースを必要とするため、重大な侵害に対してのみ選択されるのが一般的だ。
いずれの方法でも、以下の手続きが必要だ;
* 資料の準備:権利証明、侵害証拠、委任状などの法的文書を含む
* 提出:適切な機関へ資料を提出
* 審査と対応:ISPは明確な申立てに迅速に対応する可能性がある。行政機関は正式な審査を経て、違反が確認されれば制裁または削除命令を出す
権利行使後も、再発リスクが高いため、継続的な市場監視が不可欠だ。

結論
サイトおよびキーワードブロッキングは、VPNの使用、ドメイン変更、キーワードのすり替え、匿名化といった回避策に直面する課題もあるが、それでもベトナムのデジタル市場におけるIP保護において不可欠なツールだ。これらの手法は、侵害コンテンツへのアクセスと可視性を制限するための具体的な手段を提供する。
また、ブロッキングは、プラットフォームとの協働、行政手続き、必要に応じた訴訟といった広範な戦略の中核として捉えるべきで、成功するには、粘り強さ、柔軟性、そして進化する侵害手口に対抗する積極的な姿勢が求められる。

本文は こちら (Online IP Enforcement in Vietnam: Utilizing Site and Keyword Blocking)