米国通商代表部（USTR）の「2024年模倣品や海賊版を助長する悪質市場に関する報告書（2024 Review of Notorious Markets for Counterfeiting and Piracy）」は、オンラインマーケットプレイスによる模倣品対策に一定の進展が見られる一方で、違法なオンライン薬局による偽造医薬品の販売が著しく増加しているという懸念を示している、とMarc-Emmanuel Melletが解説する。
USTRの報告書の主なポイントは以下の通り；
＊ 深刻化する偽造医薬品の販売
＊ 2023年版レポート以降、一部で見られる前向きな模倣品対策の動き
＊ 模倣品が多く出回っている最新オンライン販売プラットフォームランキング
USTRの調査目的
模倣品や著作権侵害は企業に深刻な経済的損失をもたらし、イノベーションを妨げ、消費者の健康と安全を脅かしている。USTRは、オンライン上の模倣品流通に関する調査を通じて、各国政府や民間セクターに対し、対策の強化を促し、過去のレポートで特定された市場の進捗状況を再検証することで、一部の当局や企業の前向きな取り組みにもスポットを当てている。
偽造医薬品の脅威
2024年報告書は、特に違法なオンライン薬局の脅威に注目している。これらの業者は、コロナ禍で加速したECの普及を悪用しており、世界中で35,000のオンライン薬局のうち約96%が違法に運営され、処方箋なしで偽薬を販売している。規制も受けず、健康にとって危険な場合が多いのが実態だ。
これらのサイトは、本物の薬局のように見せかけるために偽の適合マークなどを表示し、消費者を騙している。2023年の調査では、消費者の54%がすべてのオンライン薬局がFDA（米食品医薬品局）に承認されていると誤認していることが分かった。
違法なオンライン薬局で医薬品を購入することは、公衆衛生上の深刻なリスクがある。FDAは、こうした製品が汚染されていたり、用量が間違っていたり、危険な薬物を含んでいる可能性があると警告している。2023年には、米国のオンライン購入者の約4人に1人が偽薬に晒されたというデータもあり、2021年から増加傾向にある。実際に、有効成分の入っていない抗がん剤の販売といった事例が確認されており、その深刻さが浮き彫りになっている。
このような脅威に対処するため、米国では罰則を強化しており、告訴、終身刑、罰金、サイト閉鎖といった措置を実施している。FDAは、税関・国境取締局（CBP）などと連携し、ダークウェブを含むオンラインの監視を行っている。2023年には150万点以上の偽造医薬品が押収されたが、多くのプラットフォームは海外に拠点を置いており、米国当局の対応には限界がある。そこで米国は、国際協力の推進、法整備の強化、トレーサビリティ技術の導入などを呼びかけており、報告書は、警戒の強化、消費者への正確な情報提供、グローバルな連携行動の必要性を訴えている。
2023年以降の前向きな進展
2023年版の報告書発表後、いくつかの国では模倣品の流通抑制に向けた進展が見られた。
＊ アルゼンチンでは292件の摘発が行われ、多数の模倣品が押収され19人が逮捕
＊ クウェートでは62万3000点、総額3250万ドル相当の模倣品（衣類、バッグ、アクセサリーなど）を押収
＊ フィリピンでは当局間の連携強化により、6億1780万ドル相当の模倣品を押収
2024年版で模倣品が多く出回るECサイトランキング
１．Avito（ロシア） – avito.ru
Avitoは、ロシア最大級のオンライン掲示板サイトのひとつであり、模倣品の広告掲載を実質的な管理なしに許可している。権利者は、違法な広告を削除させるのに多くの困難に直面している。出品者が自ら「レプリカ（模倣品）」であると明言している場合でさえ、Avitoは介入する前に詳細な証拠が要求される。さらに、このプラットフォームには再犯対策のための積極的な措置が一切なく、削除された広告はすぐに再び掲載されることが多い。権利者は Avito がブランドや業界団体との協力に消極的であることを不満に感じている。
２．Bukalapak（インドネシア） – bukalapak.com
Bukalapakは、インドネシアの主要なECプラットフォームの一つ。Bukalapakは、ブランドや当局との連携を強化し、模倣品の検出に努めているが、模倣品の流通量は依然として深刻な水準にある。最も影響を受けている分野は衣料品、電子機器、医薬品で、模倣品を販売する業者は、課せられる罰則が再犯を抑制するに足るものでないため、特に問題視していない。
３．DHgate（中国） – dhgate.com
DHgateは、主に海外の買い手を対象とした輸出に特化した中国のB2Bプラットフォームだ。最近、DHgateは知的財産権（IP）保護を強化するためのパイロットプログラムを開始した。その取り組みには、報告ポータル、人工知能（AI）に基づくフィルタリングツール、違反者に対する罰則の強化などが含まれている。しかし、これらの努力にもかかわらず、模倣品の存在は依然として深刻だ。販売業者は、コードワードの使用やロゴのぼかしなど、さまざまな戦略を用いて規制を回避している。一部の権利者は改善を実感しているものの、DHgateの取り組みが不十分だと感じている権利者も多い。
４．Douyin Mall（中国） – DouyinのEC部門
Douyin Mallは、TikTokの中国版であるDouyinのEC部門だ。Douyin Mallでは、ユーザーが動画やライブ配信を通じて直接商品を購入できる。Douyin Mallは模倣品報告システムとスクリーニングツールを導入していると主張しているが、権利者は模倣品の販売が急増している状況に直面している。広告削除システムは非効率的とされており、報告への対応に長い遅延が生じ、報告へのフィードバックも少ない。
５．IndiaMART（インド） – indiamart.com
IndiaMARTは、インドで最大級のB2Bプラットフォームの一つで、買い手と売り手を結びつけている。IndiaMARTは、模倣品の削除要請を受け付けているが、そのプロセスは長く面倒なもので、権利者からは、積極的な監視の不足や売り手の認証の欠如についても不満の声が上がっている。IndiaMARTで販売されている製品の50%以上が模倣品であると推定されており、特に医薬品、電子機器、繊維分野でその傾向が顕著だ。
６．Pinduoduo（中国） – pinduoduo.com
Pinduoduo は、中国で非常に人気のあるソーシャルコマースプラットフォームで、模倣品対策に取り組むことを表明しているが、権利者は、模倣品が依然として大量に出回っていることを報告している。Pinduoduoは、これらの問題を解決するためにブランドと真摯に協力しているようには見えない。広告の削除には過度に長い時間（最長で2週間程度）がかかり、模倣品の販売者は依然として自由に営業を続けている。さらに、一部のスポンサー販売者は「認可済み」と偽って表示しており、消費者に公式製品を購入しているかのように錯覚させている。
７．Shopee（シンガポール） – shopee.com
Shopeeは、アジアとラテンアメリカの数カ国で展開するECプラットフォームで、模倣品の状況は地域によって異なっている。台湾のプラットフォームは比較的適切に管理されているようだが、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムでは問題がはるかに深刻だ。Shopeeは、知的財産権侵害の苦情専用ポータルを設立し、一部の国で出品者の検証を強化してきた。しかし、繰り返し出品者に対する過度に緩い政策など、課題が残っている。Shopeeは、報告された出品者が出品活動を継続することを許可しているため、模倣品対策の進展が妨げられている。
８．Taobao（中国） – taobao.com
Taobaoは、アリババグループが運営する世界最大級のオンラインマーケットプレイスの一つで、アリババは模倣品対策の強化に向けた仕組みを整備し、当局と協力している。しかし、権利者はプラットフォーム上の模倣品の蔓延について依然として懸念を抱えている。主要な問題の一つは、アリババの内部再編により、模倣品対策に割かれるリソースが減少した点だ。さらに、侵害報告の厳格な基準が広告の削除プロセスを複雑化している。本物に近い価格で販売する高品質な模倣品を扱う販売者は、検出や排除が困難な状況にある。
ブランド・オーナーにとっての重要な示唆
一部に進展は見られるものの、今回の報告書では依然として模倣品や著作権侵害がオンライン・オフラインの両チャネルで広がっている現状を明らかにしている。匿名のストレージサービスや、摘発に強いホスティング業者、SNSやECサイトが違法コンテンツの拡散に大きく関与している。
コンテンツ削除の遅れ、再犯者への寛容姿勢、積極的な監視の欠如などが、対策の実効性を妨げている。このような状況において、デジタルプラットフォームは権利者とより強固に連携し、効果的な検出ツールを導入し、通報手続きを簡素化し、再発防止のための強い制裁を科す必要がある。
同時に、ブランド側も積極的な戦略で商標を保護し続ける姿勢が求められている。模倣品対策には、関係者全員による継続的・協調的・断固とした取り組みが不可欠だ。
本文は こちら （The worst e-commerce sites for counterfeit products online）